購入した建物のエレベーターの不具合と媒介業者の調査説明義務
【相談事例】
当社は、媒介業者の媒介のもとで、ビルを購入する売買契約を9月に締結しました(引渡期日:12月4日)。ところが、引渡期日の直前である12月1日に行った内覧の際に、エレベーターが正常に稼働しないという不具合があることが判明しました。これを受けて、売主がエレベーターの修理を行うことになったものの、ビルの引渡期日までに修理を完了させることができず、結局、当社は、引渡しの遅延を理由に売買代金を減額したうえで、ビルの引渡しを受けることになりました。
この事態の発生後に知ったのですが、このエレベーターは、過去(売買契約以前)にも不具合を起こしており、その際は検査と修理をして一応稼働するようにはなったものの、不具合の原因の特定には至らなかったという経緯があるようです。このときに不具合の原因が解消されなかったことから、今回、不具合が再発したものといえます。
このように、エレベーターには売買契約の締結前から不具合があり、媒介業者は、当社が売買契約を締結した当時、エレベーターに不具合があることを知っていたはずですし、仮に知らなかったとしても調査をすれば知ることができたはずです。それにもかかわらず、媒介業者が当社に対してエレベーターの不具合を説明しなかったことは、媒介業者としての調査説明義務に違反しているのではないでしょうか。
【解 説】
1 今回の相談事例について
今回の相談事例のように、購入した不動産の設備に不具合があることが売買契約締結後に判明した場合、その不具合について媒介業者から説明を受けていなかった買主が、媒介業者に対して調査説明義務違反を理由に責任を追及することがあります。
このような場合に媒介業者に調査説明義務違反が認められるかどうかはケースバイケースですが、今回は媒介業者の調査説明義務違反が否定された例として、本相談事例のモデルである東京地方裁判所平成30年2月28日付判決をご紹介いたします。
2 媒介業者の調査説明義務違反の有無について
判決の事案では、媒介業者の調査説明義務について、売買契約締結当時と締結後の両方の時点における義務違反が問題にされましたが、判決ではいずれも否定されています。
(1) 売買契約締結当時の調査説明義務違反について
判決では、証拠上、媒介業者が本件売買契約を媒介するに当たり、本件ビルのエレベーターに不具合が存在していたことを知っていたとまで認めることはできないとしました。
そのうえで、
・媒介業者は、媒介に先立って、エレベーターの法定点検が実施されていないことを売主から聞いていたことから、これを実施するよう売主に勧めたこと
・その後、買主から本件ビル購入の申込みを受け、その媒介のためビルの状況について改めて確認した際には、エレベーターについては、既に法定点検が完了しており、業者による定期点検が行われるとの報告を受けるとともに、現地調査を行った際にもその稼働状況について特に異状はみられなかったこと
を指摘し、これらの事実からすれば、媒介業者には、エレベーターの不具合について更なる調査を実施すべき義務があったということはできず、その結果、買主に対してこれを説明していなかったとしても、直ちに媒介契約上の調査説明義務違反があったということはできないとしました。
(2) 売買契約締結後の調査説明義務違反について
【買主の主張】
買主は、売買契約締結後の媒介業者の調査説明義務違反について、以下のとおり主張しました。
・買主と媒介業者との間の媒介契約上、売買の成立後も、媒介業者が目的物の引渡しに係る事務の補助を行うことが定められているのであり、この事務の補助には、目的物の調査説明義務を含む。
・媒介業者は、10月上旬には売主からエレベーターの不具合の発生を知らされていたのであるから、その時点で買主に対して、上記不具合について説明すべき義務があったのであり、また、11月24日頃までに売主から上記不具合について是正済みであるとの連絡を受けていたとしても、12月1日に本件ビルの内覧を行うまでの間、その修理が完了したか否かについて現地調査を行うべき義務があったのであり、媒介業者において、上記不具合発覚後、これについて買主に説明しなかった上、上記内覧が実施されるまで、その修理の状況について現地確認もしていなかったのは、上記調査説明義務に違反する。
【裁判所の判断】
この主張に対し、判決では、以下のとおり調査説明義務違反を否定しています。
・本件売買契約が締結された後、媒介業者は、売主からエレベーターの不具合について報告を受けた際、売主において本件ビルの引渡期日までに修理することを確認していたのであり、その後も、上記修理の状況を売主に確認していたところ、11月末までには修理が完了するとの報告を受けていたが、その後12月1日に本件ビルの内覧を実施した際に実際には修理が完了していないことが初めて判明したのであり、それ以前に上記引渡期日までに修理が完了する見込みがなかったことを把握していたとうかがわせる事情は見当たらないのである。これらによると、エレベーターの不具合については、本件ビルの引渡期日までに売主により修理がされることが予定されていたということができるから、媒介業者において、買主に対して上記不具合について説明すべき義務があったということはできない。
・また、媒介業者は、上記のとおり、エレベーターに生じた不具合について、売主から11月末までにその修理を完了するという報告を受け、この点も含めて本件ビルの状況について確認するため、引渡期日前の12月1日に買主による本件ビルの内覧の機会を設けたのであるから、それより前の段階で媒介業者自身が独自に現地調査をすべき義務があったということはできない。
・以上によれば、媒介業者において、本件売買契約が締結された後においても、本件媒介契約上の調査説明義務違反があったということはできない。
3 最後に
本判決は、あくまで本件固有の事実関係を前提に、媒介業者の調査説明義務違反について判断したものです。同種の事案であっても、事実関係が異なれば裁判所の判断が異なる可能性があることにご注意ください。
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