不動産売却・購入の三井住友トラスト不動産:TOPお役立ち情報不動産売買の法律アドバイス代理権がない相手と契約してしまったら(2015年3月号)

不動産売買の法律アドバイス

専門家のアドバイス
田宮合同法律事務所

不動産売買の法律アドバイス

不動産売買の法律
アドバイス

弁護士
田宮合同法律事務所

2015年3月号

不動産売買に際し、留意しなければならない事項を弁護士が解説した法律のアドバイスです。

代理権がない相手と契約してしまったら

相談事例

ここがポイント

1.代理権がない者と締結した契約の本人への効果帰属
 代理権がない者が本人の代理人として締結した契約は、原則、本人が認めない限り、本人に対して効果帰属しません。
 従って、本相談事例については、買主本人が本件売買契約の効果が自分に帰属することを認めない限り、買主本人から代金を支払ってもらうことはできないのが原則です。
 なお、買主本人がいつまでたっても自分への効果帰属を認めるかどうかはっきりさせない場合、買主本人に効果が及ぶのかどうか確定せず、売主は不安定な地位におかれて困ることになります。
 そこで、売主は、買主本人に対して、売買の効果帰属を認めるかどうか確答するよう求めることができます。これに対して買主本人が効果帰属を認めないという返事をしたり、何の返事もしない場合は、効果帰属を認めなかったということで確定することが法律で認められています。もちろん、買主本人が効果帰属を認めれば、買主本人に売買の効果が及び、代金の支払い義務が発生することになります。

2.代理権を信じた者の保護  上で述べたとおり、買主が効果帰属を認めない場合、原則、売主は買主本人から代金を支払ってもらえないことになります。
 この場合に、法律は、売主の保護として、代理権のない者、すなわち本件では息子に対して、代金の支払等を求められるようにしています。
 しかしながら、息子には土地の売買代金の支払いをするほどお金がないかも知れません。そうすると、やはり売主としては、買主本人に効果帰属させて代金を支払ってもらいたいと考えることになります。
 そこで、法律は、買主本人よりも売主の保護を優先すべき一定の場合に、買主本人が効果帰属を認めるか否かに関わらず、その契約の効果を及ぼして、代金を支払うよう求めることができるものとし、売主を保護しています。

3.どのような場合に買主本人に効果帰属させられるか  大きく分けて、3つの類型があります。

(1)
 1つ目は、買主本人が、本件売買の代理権を与えていないにもかかわらず、息子に本件売買の代理権を与えたような表示をした場合です。例えば、買主本人が、売主に対して、「本件の売買については、息子が私を代理して進める」などと発言していたような場合はこれに当たります。また、必ずしも明示的にこのような発言がなくても、息子が本件売買の代理人であるように振る舞い、買主本人もそれを知りながら放置しているような場合も、黙示的に代理権授与が表示されているとされ得ます。
 この場合、買主本人に契約の効果が帰属することになり、売主が保護されます。
 このような表示がされれば売主としては代理権があると信じても仕方ありませんし、表示した買主にも落ち度があるため、このような場合には買主よりも売主の保護を優先させるべきとされているのです。
 但し、売主が、代理権を授与されていないことを知っていたか、又は不注意により知らなかった場合(例えば、代理権の存在について何も確認することなく軽信した場合です。)、買主に効果帰属しません。このような場合にまで、売主保護を優先する必要はないからです。なお、買主側が、「売主が、代理権を授与されていないことを知っていたか、又は不注意により知らなかった」ことを基礎づける事実を証明しなければならないと考えられています。

(2)
 2つ目は、本件売買についての代理権は与えていないけれども、他の行為に関する代理権は与えていたような場合です。
 この場合、買主本人としては本件売買についての代理権を与えたような表示をしたわけではないため、上記(1)のような落ち度はありません。そのため、売主が保護される要件は(1)の場合よりも厳しく、売主が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があることが必要です。そして、売主側が、「代理人の権限があると信ずべき正当な理由」を基礎づける事実を証明しなければならないと考えられています。
 例えば、買主本人が代理人に実印を交付し、息子がそれを使って本件売買を行ったことや、売主が買主本人に息子の代理権の有無を確認した、といった事実は、「代理人の権限があると信ずべき正当な理由」があることを基礎づける事実の一つになります。このような場合に買主本人に効果帰属されるのは、本件売買につき息子に代理権があるかにみえる状況は、買主本人が別件の代理権を与えたことが原因となって作出されたものであるため、正当な理由があって代理権の存在を信じた売主の保護を優先すべきと考えられているのです。

(3)
 3つ目は、買主本人がかつて息子に本件土地購入の代理権を与えていたけれども、現在はその代理権が消滅しているような場合です。
 この場合、売主が、息子の代理権が消えたのを知らなければ、買主本人は本件売買の効果帰属を拒めず、買主本人に契約の効果が帰属します。
 これは、買主本人には、かつて本件売買の代理権を与えたことにより、息子が代理権消滅後もその代理人として行動する土台を作出した責任があり、そのような買主本人よりは、息子の代理権が消えたのを知らなかった売主を保護すべき、という考え方に基づくものです。
 但し、売主に、代理権が消えたことを知らなかったことにつき不注意な点があったときは、買主本人は効果帰属を拒むことができます。買主側が、「売主に、代理権が消えたことを知らなかったことにつき不注意な点があった」ことを基礎づける事実を証明しなければならないと考えられています。例えば、売主側が代理権の存在を基礎づける書類を何も確認せず、買主本人にも何も確認しなかった、といった事実は、「代理権が消えたのを知らないことについて不注意な点がない」ことを基礎づける事実の一つになります。

(4)
 また、この他にも、例えば、買主本人が本件売買以外の代理権を与えたことがあるが、それが既に消滅している場合、すなわち上記(2)と(3)を併せたような状況がある場合も、代理人の権限があると信ずべき正当な理由があれば、売主は保護されると考えられています。

4.このように、仮に契約の相手方の代理人と称する者が実際には代理権を有していなかったとしても、相手方本人に契約の効果を帰属させることができる場合があります。
 ただ、最も大切なことは、契約の前に、委任状の提示を求めたり、契約当事者本人に直接代理権の有無を確認するなどして、きちんと調査することです。何の調査もせず代理権の存在を軽信したような場合は、上記3のような保護を受けられない可能性が高くなってしまいますので、契約等重要な法律行為を行う場合には、専門家とも相談しながら、場合によっては必要な調査を行うなどし、慎重に対応すべきでしょう。

※本コンテンツの内容は、記事掲載時点の情報に基づき作成されております。