不動産売買のときに気をつけること~売買契約書の記載内容~
不動産売買に際し、留意しなければならない事項として、今回は「売買契約書の記載内容」の問題をとりあげます。
御相談
私は、不動産売買契約の締結を考えておりますが、不動産売買契約書の記載内容には、どのようなことに留意しておけばよろしいでしょうか。
ここがポイント
1.不動産売買契約書について
不動産は、高価で重要な財産ですから、不動産を売買するには、単に、口頭の合意だけではなく、売買契約書を締結するのがのぞましいです。口約束だけですと、争いになったときに、書面がなければ解決がむずかしいことは明らかでしょう。民法でいうところの「契約」一般についていえば、口頭による合意だけでも契約は成立するが、こと不動産売買においては、売買契約書の作成・調印によって不動産売買契約は成立すると考えるべきといわれることもあります。
今回のテーマは、不動産売買契約書の「記載内容」について、どのような点に留意したらよいか、をみていただきます。
2.不動産売買契約書の記載内容の決め方は自由
実務ではしばしば、これは標準的な不動産売買契約書の書式例などと言われることがありますが、その場合でも「標準的」と言われているのであって、絶対にこの記載内容でなければならないというものではありません。
言い換えれば、不動産売買契約書の記載内容の決め方は自由なのです。
ただ、「自由」なのですが、不動産売買契約書において、「売主」が自分にだけ一方的に「有利」な記載内容をすれば、それはすなわち「買主」にとって「不利」な記載内容とならざるを得ない、という側面があります。逆に、「買主」が自分に「有利」な記載内容をすれば、「売主」にとって「不利」な記載内容となります。
そのように、1つの不動産売買契約書のなかで、当事者がそれぞれ自分のことだけ「有利」となる記載内容を求めても、それにより「不利」になる相手方は、なかなか了解しないのが普通です。了解しなければ、結局、契約は成立しない、ということになります。
ですから、不動産売買契約書の記載内容の決め方は「自由」でありますが、実際は、不動産売買契約書の記載としてはこのように記載した方が有利だが、相手方がそれでは了解しないだろうからこのような記載にとどめておくしかないだろう、などという「調整」が行われたり、標準的な不動産売買契約書の書式例を双方がつかいましょう、となったりすることがあります。
「調整」の結果、標準的な不動産売買契約書の書式例を使いながらも、当事者間の特別の合意内容を定めておこうとなりますと、「特約」というかたちで、契約条項を追加したり変更したりすることもできます。
3.公序良俗や強行法規に違反する記載内容の効力は認められない
さきほど、「記載内容の決め方は自由」と申しましたが、一定の限度があります。「公の秩序又は善良の風俗に反する契約」、すなわち、「公序良俗」に違反する記載内容は、契約書に書いてあっても無効であり、効力は認められません。
たとえば、社会の秩序や道徳・倫理に反する契約、暴利や不当な利得を得ようとする契約、人権侵害の契約などがそれらにあたります。
また、「強行法規」に反する記載内容も効力は認められません。例えば、借地借家法30条は「この節の規定に反する特約で建物の賃借人に不利なものは、無効とする。」と規定しています。借地借家法16条、21条なども「~の規定に反する特約で借地権者又は転借地権者に不利なものは、無効とする」と規定しています。このように、当事者間が合意により特約で定めても、強行法規に違反すれば、効力は認められず無効となるわけです。これを「強行法規」といいます。
4.不動産売買契約書の記載内容の留意点
以上を前提に、不動産売買契約書の記載内容の留意点のいくつかをみていきましょう。
(1)「売買代金」の額、支払い時期、方法など
不動産売買契約書において「売買代金」の額、支払い時期、方法などがどのように記載されているか、は、当事者にとって極めて大きな関心事のひとつであることは間違いありません。
売買代金の額がいくらか、は、一般的にいえば、売主からすれば高い金額で売りたいと望むでしょうし、逆に、買主からすれば安く買いたいと望むでしょう。
そして、売買代金は「金額」だけではなく、いつどのように支払われるか、も重要です。売買代金の支払い時期や方法について、売買契約書においてどのように記載しているか、記載すべきか、チェックする必要があります。
なお、それらに関連して、「手付金」についてどのように定めるか、も実務上極めて重要です。
「手付金」が、「解約手付」、すなわち、当事者が契約の履行に着手するまでの間は解除権を留保し、買主は、手付を放棄し(手付損)、売主は手付金額の倍額を買主に返還すれば(手付倍返し)、解除できる、という趣旨で交付されたかどうか、不動産売買契約書において、どのように記載されているか、注意をもってみる必要があります。
(2)所有権移転の時期や登記、不動産の引渡し、抵当権等の抹消など
売主は、不動産を売ることによって、売買代金を受け取ります。売買代金がきちんと確実に支払われることが売主の関心事となります。他方、買主からすれば、売買代金を支払ったのに、不動産の引き渡しを受けられない、とか、所有権移転登記ができない、売主側がつけていた抵当権等がいまだ抹消できずにいる、などというトラブルを回避することが買主の関心事となります。
そのため、売買代金の残代金支払いと引渡し・所有権移転時期・登記などを可能な限り同時に行うほうがよいという考えがあります。
そのような観点から、不動産売買契約書の記載内容をみて、どのような定め方をしているかチェックしてみてください。
(3)土地面積と売買代金の定め方
土地を買うにあたり、その土地の面積が、登記上は明らかだけれども、実際に測量しているわけではないので、正確な面積が登記上の表示より大きいのか小さいのかはわからないという場合、土地購入を検討している人としては、売買代金の定め方について、次のような方法があります。
①登記簿上の面積を記載したうえ、土地の売買代金は〇〇円と固定してしまって売買契約を締結する方法です。代金を決めて売買を実行してしまいますが、買った後で、測量によって、実際の土地の面積が登記簿上の面積よりも大きいことが判明し、買主が得をした結果となっても、買主は売主に対し追加代金は支払わないし、逆に、実際の土地の面積が登記簿上の面積より小さく買主が損をしても、買主は売主に代金の減額を請求したりはしない、と取り決める定め方です。
売買代金固定型であり、「公簿売買」と表現したりします。
②以上に述べた「売買代金固定型」とは異なり、「売買代金清算型」という定め方もあります。
それは、売買契約を締結した後、残代金支払日までに測量を行って、その実測面積と売買契約締結時の登記簿上の面積の差については、残代金支払において清算する方法です。
測量によって、実際の土地の面積が登記簿上の面積よりも大きいことが判明した場合は、買主は売主に対し大きい分にみあうだけの代金を残代金支払日までに清算して支払わなければならないと定め、逆に、実際の土地の面積が登記簿上の面積より小さい場合は、買主は売主に対し小さい分にみあうだけの代金を残代金支払日までに清算して減額すると定める方法です。
③以上のような定め方がありますが、不動産売買契約書上の記載のうえで、どのような記載となっているかもチェックしてみてください。
5.まとめ
以上のほかにも、「瑕疵担保責任」について、どのように定めるか、も実務上、極めて重要でありますし、また、当事者間の関心も高いところです。
その他にも、不動産売買契約書のうえでどのように記載されているか、ご自分の立場(売主か買主か)を念頭に置きながら、読んでいただき、この条項は、自分にどの程度有利か不利か、どの程度重要か、など考えてみるようにしてください。