土地売却後の使用方法の制限
相談事例
広すぎる敷地を持て余していますので、離れを取り壊して敷地を売却しようと考えています。商業施設も建築できる地域ですが、あまり人の出入りが多い建物を建てられるのは困りますし、日差しが入らなくなるのも困りますので、小規模の住宅以外、建築しないでほしいと考えています。売ってしまった後は私の土地ではなくなりますが、売却後も土地の使い道を制限することはできるのでしょうか。
回答
土地の売買契約書において、土地に建設する建物の用途や高さなどを制限する特約を定めることができます。ただし、売却価格に大きく影響を及ぼしますし、厳しい制限をつければ購入者が見つからない可能性が高くなります。
ここがポイント
1.売買契約と土地の使用目的・使用方法
土地の売買をする際、売買する土地の使用目的や使用方法を特に定めない売買契約書で契約しているケースが一般的ではないかと思われます。
なぜならば、用途や高さなどを制限とする特約を定めることは、土地の最有効使用を妨げる要因となり、購入者を限定する結果、前述のとおり売却価格に大きく影響を及ぼすからです。
土地を購入して所有者となった人は、土地の使用について都市計画法や建築基準法など法律の制限を受けますが、その範囲内では、自由に土地を使うことができます。
これに対して、土地や建物の賃貸借契約書には、ほぼ必ずといっても良いほど使用目的の定めがあります。これは、ある一定の目的で使用するという前提があるからこそ、所有する土地や建物を貸して使わせる、という関係があるためです。
2.土地の使用目的や使用方法を制限する特約
このように、土地の使用目的や使用方法を特に制限しない売買契約書が一般的ではありますが、大前提として売却価格に大きく影響を及ぼしても構わないということであれば、そのような制限ができないわけではありません。
売買契約書の条項として、土地の使用目的や使用方法について一定の制限を定めることもできます。契約書のひな形に最初から書かれていない場合にも、特約として、一定の制限を追加して定めることができます。
裁判例では、分譲住宅地の中で、アパート又は3階建て以上の建築をしてはならないという建築制限条項の特約付きで売買された土地について、買主がその特約に違反して3階建てマンションを建築しようとしたところ、裁判所が建築の差止めを認めたケースがあります(神戸地伊丹支判S45.2.5)。
また、購入後10年間ミシン工場の敷地として使用するという用途指定の特約付きで国が売却した土地について、10年経過前に家屋が建築されたところ、国が用途指定違反により売買契約を解除したケースもあります(東京地判S31.12.24)。
このように、土地の使用目的や使用方法を制限する特約付きで売買がされた場合、特約への違反に対して、裁判所で適切な申立ての手続をとった場合には、建築の差止めや売買契約の解除が認められています。
ただし、裁判所で手続をとることで建築の差止めや売買契約の解除が認められているとはいっても、土地を購入して所有者となった人は、都市計画法や建築基準法など法律の制限の範囲内では、自由に土地を使うことができてしまうのが原則ですから、特約を遵守する購入者の選定には細心の注意を払う必要があります。
3.売買契約書に明記されていない場合
売買契約を締結する前に、買主が土地を使用する方法について話しており、売主は土地がそのように使用されるだろうと思って契約したけれども、売買契約書にはそのような使用に限定する特約は定められなかった、という場合があります。
一般論としては、契約書に明確に定めなくとも、当事者間で明確に合意された内容であれば、契約の一部になっているとして、守らなければならない拘束力が発生することはあります。
しかしながら、契約書に記載されていなければ、そのような明確な合意があったと立証するのは困難です。また、売買後の土地使用の予定について話がされたとしても、それだけでは、それ以外の目的や方法で使用することを禁止することまで合意されたとまではいえないでしょう。
したがって、売主が売却した後に土地の使用を制限したいと考える場合は、売買契約書の特約として明確に定めることが重要です。
4.限界
売買契約書の特約として、土地の使用目的や使用方法について一定の制限を定めることができるとはいっても、限界があります。
例えば、あまりに長期間にわたって厳しい制限を課す場合や、時間の経過によって特約による使用制限の合理性が失われた場合などには、売買契約書に定められているとしても裁判所がその特約の効力を否定する可能性も出てくると思われます。
そもそも、賃貸借契約でなく売買契約の場合、そのような制限を課してしまうと、相当な額を売却価格より減額した場合であったとしても購入者自体が見つからないでしょう。
売主が売却後の土地の使用を制限する特約を定めたいと考える場合、売買契約を締結する買主を説得する意味でも、また、売買契約締結後、仮に買主に悪意があり、また、買主側の事情が変わるなどして、その特約の効力について否定される可能性を小さくするという意味でも、そのような制限に合理性があることについての説得的な説明を用意すること、及び、買主を限定し、売却価格に大きく影響を及ぼしてまで課さなければならない制限かどうかを弁護士や仲介業者などの専門家と相談したうえで定めることが重要ではないかと考えます。