土地購入の際には「通路」にご注意を
相談例
相談例1
公道に通じる通路があるという前提で、奥まった土地を購入したのですが、実はその通路は第三者が所有する事実上の通り道にすぎず、所有者の方は通行を認める気がないということがわかりました。売買契約をなかったことにして、代金を取り戻すことはできないでしょうか。
相談例2
念願のマイホームを建てるために更地を買ったのですが、その後の調査で、その土地には通路の負担があるため、予定していたよりも狭い家しか建てられないことがわかりました。売買契約をなかったことにして、代金を取り戻すことはできないでしょうか。
ここがポイント
土地の利用にとって通路の問題はとても重要です。
不幸にして相談例のようなトラブルが生じた場合、買主は代金を取り戻すために、どのような主張ができるのでしょうか。
購入した土地が袋地であった場合には、民法の規定により通行権を取得します(袋地通行権については、2014年11月号「私道をめぐるトラブル~売買前の調査が重要!」をご参照ください。)。
また、購入した土地に通行地役権が存在していた場合には、原則として土地の所有権と共に通行地役権が移転することになります(通行地役権については、2019年4月号「隣人による通行~通行地役権の時効取得~」をご参照ください。)。
今回は、これらの通行権がないという前提で、土地購入時の通路の問題について、判例などを紹介しながらご説明いたします。
1.相談例1のケース
(1)錯誤無効
相談例1は、通路があるという前提で購入したものの実はなかったという場合ですが、買主としては、売主に対し、売買契約が錯誤によって無効であると主張して(民法95条本文)、代金の返還を求めることが考えられます。
判例でも、買主が山林を造林事業のために購入した際に、売主から北側山麓に道路が開通したので造林事業の経営に極めて有利であるといった説明を受けていたのに、実際にはそのような道路は存在していなかったという事例において、錯誤にあたることを認めたものがあります(最高裁昭和37年11月27日判決)。
もっとも、この判例は、原判決が「道路が存在するかについて調査をしなかった買主に重大な過失があるかどうかを判断していなかった」として、これを破棄しています。仮に、買主が錯誤に陥っていたとしても、重大な過失があった場合にはその無効を主張できないものとされていますので(民法95条但書)、この点を審理すべきであるとされたのです。
また、相談例の場合とは異なりますが、宅地に造成して転売する目的で、購入を予定している土地の北側の道が建築基準法42条2項の道路(2018年9月号「『建築基準法上の私道』にご注意を~2項道路を中心に~」をご参照ください。)であると買主が誤信して土地を購入した事例において、錯誤の主張を認めた例もあります(東京高裁昭和61年8月6日判決)。
こちらの判例では、現地を見ることによって直ちに建築基準法42条2項の道路でないことが明らかであるとはいえないことなどから、買主に重大な過失があるとはいえないとされました。
相談例1の場合、買主は通路がないのであれば本件の土地を買わなかったでしょうし、一般の方もまた買わなかったと考えられますので、通路が存在しないことは「要素に錯誤があったとき」(民法95条本文)にあたるものと考えられます。
しかし、現地を調査すれば利用できる通路がないことが容易にわかったような場合には、「重大な過失」があったとして、錯誤無効の主張が認められないことになる可能性があります(民法95条但書)。
(2)瑕疵担保責任
次に、公道に出るための通路が存在しないことは隠れた瑕疵にあたるとして、瑕疵担保責任の規定に基づいて売買契約を解除し(民法570条本文・566条)、代金の返還を求めることが考えられます。
判例でも、村道であると指示された通路が第三者所有の事実上の通り道で、通行権はなく、通路として使用できなかったという事例について、多額の費用を投じて新たに道路を開設するのであれば別として、ただちに利用することのできる出入路は存在していないことは土地の瑕疵にあたるとした例があります(東京高裁昭和53年9月21日判決)。
もっとも、瑕疵担保責任が認められるには「隠れた瑕疵」であったこと、つまり、契約締結当時、買主が瑕疵(通路が存在しないこと)について、過失なく知らなかったことが必要です。
相談例1においても、通路が存在しないことは土地の瑕疵に当たりうると考えられますが、現地を調査すれば利用できる通路がないことがわかったような場合には、通路がないという瑕疵を知らなかったことについて普通になすべき注意を欠いていたとして過失が認められ、「隠れた瑕疵」ではないとされる可能性があります。
(3)その他の主張
他にも、売主にだまされたという事情がある場合には、詐欺取消し(民法96条)を主張することも考えられますが、詐欺であったということを立証するのはハードルが高いところです。
また、売主が不利益な事実を告知しなかったという事情がある場合には、消費者契約法の適用によって売買契約の取消しが認められる場合もあります(不利益事実の不告知による取消しについては、2019年1月号「不利益事実の不告知(消費者契約法4条2項)とは」をご参照ください。)。
さらに、売主が公道まで通路を開設することを約束していたといった事情がある場合には、債務不履行責任に基づいて契約を解除することが認められる場合もあります(民法541条、543条)。
(4)まとめ
以上のように、現地を調査すれば通路が存在しないことが分かった場合には、代金を取り戻すことができないおそれが相当に高いと考えられます。
土地を購入するに際には、通路があるのか、あるとしてどこにあるのかといった点を公図などによって調査するだけでなく、実際に現地に行って確認することが大切です。
また、売主以外の第三者が通路の所有者である場合には、その方から通路がどのように利用されているのかについて説明を受け、土地を購入した場合に、その通路をどういった条件で通行させてもらえるのかといったことまで調査しておくべきでしょう。
2.相談例2のケース
では、相談例1のケースとは逆に、実際には通路の負担があるのに、そうとは知らずに土地を購入してしまった場合には、代金を取り戻せるのでしょうか。
この場合にも、買主は売主に対し、錯誤無効瑕疵担保責任による解除等を主張することが考えられます。
錯誤無効の主張に関する判例としては、建売住宅用地として土地を買い受けた後になって都市計画道路の区域指定を受けたため、土地の大部分が道路予定地に取り込まれてしまったという事例で、要素の錯誤があるとして契約を無効であるとしたものがあります(大阪地裁昭和50年6月4日判決)。
また、瑕疵担保責任の主張に関する判例としては、売主側から売買の目的となった土地の一部である私道部分に公的な規制はないと説明されていたのに、実際は建築基準法42条2項の指定道路であった事例で、隠れた瑕疵にあたるとしたものがあります(東京地裁昭和58年2月14日判決)。
もっとも、私道として利用されているのを知ってその土地を宅地として買い受ける買主は、土地利用の変更が建築基準法等の法的規制により許されないかどうかを調査検討する注意義務があり、そのような調査をすれば、私道を宅地として利用できないことを知りえたはずであるから、過失があるとして、私道部分を宅地として利用できないことは隠れた瑕疵ではないとした判例もあります(東京地裁昭和43年11月4日判決)。
相談例2のケースも、売買契約前に現地調査等を行っていれば通路の負担を知りえたという場合には、錯誤無効や瑕疵担保責任の主張により代金を取り戻すことができない可能性があります。
以上の次第ですので、土地を購入する際には、「通路」に関する問題がないかを専門家に相談するなどして十分にご注意いただければと思います。