新築住宅に関する瑕疵担保責任の特例(住宅品確法)について
今回は、不動産売買に関する重要な法律として、住宅の品質確保の促進等に関する法律(以下「住宅品確法」といいます。)を、瑕疵担保責任の特例を中心にご紹介いたします。
事例
Aさんは、子供が生まれたことを機に広くて新しい家に住みたくなり、新築住宅をB社から購入し、住み始めました。
AさんとB社との間の売買契約書には、B社は建物の引渡し時から2年間に限り瑕疵担保責任を負うとの規定があるところ、この期間をわずかに経過したある日(※Aさんが建物の引渡しを受けたときから10年以内)、大雨が降ったときに、天井から雨漏りが発生してしまいました。
雨漏りの原因を調査したところ、防水に関する工事等が不適切であったことが原因であることが分かりました。Aさんとしては、B社に対して法的な責任を追及したいと考えています。
1.本件の事例で、Aさんは、B社の瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)を追及することが考えられます。瑕疵担保責任については、本コラムでも何度か取り上げていますが、ポイントをご説明すると、
①瑕疵(かし)とは、欠陥、欠点などといった意味です。売買の目的物に瑕疵担保責任にいう「瑕疵」があるかどうかは、その目的物が通常有すべき品質・性能があるかどうか、売買の当事者がどのような品質・性能を予定していたかといった要素などから判断されます。
②売主に瑕疵担保責任が認められるためには、前記①の「瑕疵」があることに加えて、その「瑕疵」が「隠れた」ものであることが必要です。「隠れた」とは、買主が、売買契約時に、「瑕疵」の存在を知らず(善意)、知らないことについて過失がない(無過失)ことを言います。
③売主に瑕疵担保責任が認められる場合、買主は、売主に対して、所定の要件のもとで、損害賠償請求や契約の解除をすることができます。
本件のような雨漏りは、建物の隠れた瑕疵に当たり、Aさんは、B社に対して、瑕疵担保責任を追及することができると考えられます。
2.しかしながら、本件では、売買契約上、B社が瑕疵担保責任を負う期間は建物の引渡し時から2年間に限られているところ、すでにこの期間は過ぎています。とすると、AさんはB社に対して、瑕疵担保責任を追及できないのでしょうか。
本件のような場合に関して、住宅品確法は、瑕疵担保責任の特例を定めており、この特例によって、AさんはB社に対して、瑕疵担保責任を追及することができます。
そこで、以下、この特例を中心に、住宅品確法とはどのような法律かご説明します。
3.住宅品確法は、住宅の品質確保の促進、住宅購入者等の利益の保護、住宅に関する紛争の迅速・適正な解決を図り、国民生活の安定向上と国民経済の健全な発展に寄与することを目的とした法律です。
そして、このような目的を達成するために、
(1)住宅性能表示制度の創設
(2)住宅に関する紛争処理体制の整備
(3)新築住宅の請負契約または売買契約における瑕疵担保責任についての特例
などを定めています。
(1)については、これまで住宅の性能を表示するルールがなく、住宅の性能について相互に比較をすることが困難であるといった問題がありました。そこで、住宅の性能(構造耐力、遮音性、省エネルギー性等)に関する表示の共通ルール(表示の方法、評価の方法の基準)が創設されたことにより、住宅の性能を比較することが可能になりました。
そして、このような住宅の性能の比較に当たっては、その性能評価が信頼できることが前提であることから、住宅の性能を客観的に評価するための第三者的機関が整備されました。
なお、この住宅性能表示制度の利用は強制的なものではなく、当事者が第三者機関の評価を希望する場合に利用をすることになります。
(2)については、これまで住宅の性能に関する紛争の解決に時間がかかっていたという問題がありました。そこで、住宅の性能評価を受けた住宅に関する紛争について、紛争解決の円滑化と迅速化のために、裁判によらない紛争処理のための体制が整備されました。
4.そして、(3)が、本件に関係がある瑕疵担保責任の特例ですので、以下、詳しくご説明します。
まず、この特例が適用される対象となる部分は限られており、具体的には、新築住宅のうち、
①構造耐力上主要な部分
②雨水の浸入を防止する部分
の隠れた瑕疵に限られます。
それ以外の部分の瑕疵、例えば設備などの瑕疵については、この特例の対象にはなりません。
そして、新築住宅の売買契約の場合、①、②の部分の隠れた瑕疵については、原則として買主が引渡しを受けたときから10年間、売主は瑕疵担保責任を負うものとされました。また、売主の瑕疵担保責任の内容として、民法の規定では、損害賠償と契約の解除しか認められていませんが、住宅品確法は、これらに加えて瑕疵の修理を求めること(修補請求)を認めています。
このように、住宅品確法は瑕疵担保責任の特例を定めており、これに違反して買主に不利な当事者間の特約は無効になります。
なお、特例の対象となる部分を①、②の部分に限定している理由は、この部分は、住宅として使用するにあたって重要であること、通常は10年程度の期間で劣化して不具合が発生することが想定できないこと、一般の消費者にはこの部分についての技術基準等について知識がないため手抜き工事の対象にされやすいことなどの理由によります。
(※ ①、②の部分とは具体的にどのような部分を言うのかというと、①の部分は、住宅の基礎、基礎ぐい、壁、柱、小屋組、土台、斜材(筋かい、方づえ、火打材その他これらに類するもの)床版、屋根版又は横架材(はり、けたその他これらに類するもの)で、当該住宅の自重若しくは積載荷重、積雪、風圧、土圧若しくは水圧又は地震その他の震動若しくは衝撃を支える部分を言います。②の部分は、住宅の屋根又は外壁、住宅の屋根又は外壁の開口部に設ける戸、わくその他の建具、雨水を排除するため住宅に設ける排水管のうち、当該住宅の屋根若しくは外壁の内部又は屋内にある部分を言います。)
5.本件では、防水に関する工事等が不適切であったことが原因で、天井から雨漏りが発生していますから、②の部分に隠れた瑕疵があると言えそうです。
そして、AさんとB社との間の売買契約では、B社が瑕疵担保責任を負う期間を2年間と定めていますが、この契約は新築住宅の売買契約であることから、住宅品確法の適用により、②の部分についての瑕疵担保責任の期間は、原則として建物の引渡し時から10年間になります。
したがって、Aさんは、B社に対して、瑕疵担保責任を追及することができると考えられます。