民法改正によって瑕疵担保責任に関する「時効」や「除斥期間」(じょせききかん)はどう変わる?
相談例
この度、私が個人の方から購入した土地に土壌汚染があることがわかりました。そこで、売主に対して損害賠償の請求をしていきたいと考えています。
ただ、かなり前の取引なので、権利が「時効」にかかっていないかが気になっています。不動産に詳しい友人の話では、民法改正により「時効」制度も変わるそうです。本当なのでしょうか。(以下では、現在施行されている民法を「現行民法」、改正後の民法を「改正民法」とよばせていただきます)。
ここがポイント
1.改正民法が成立しています
相談例に出てくる「時効」とは、権利が行使されていない状態が一定の期間続いた場合にその権利が消滅する制度である「消滅時効」のことを指しているものと思われます。
ニュースなどにもなりましたように、改正民法が2017年6月2日に公布されており、公布の日から3年を超えない範囲で施行される予定です。
この改正により、「消滅時効」制度も大きく変わるものとされています。
2.現行民法の場合
相談例では、購入した土地に土壌汚染があったということですから、売買の目的物に「隠れた瑕疵(かし)」があったものとして、買主から売主に対し、瑕疵担保責任に基づいて損害賠償の請求をしていくことが考えられます(2014年12月号「土壌汚染の問題は土地の売買にどんな影響を与える?」、2014年9月号「不動産売買のときに気をつけること~瑕疵(かし)担保責任とは?」もご参照ください)。
(1)除斥期間
もっとも、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求は、瑕疵を知った時から1年以内にしなければならないとされています。
これは「除斥期間」(じょせききかん)という制度で、消滅時効とは別のものであると解されています。
買主は、瑕疵の存在を知った場合、裁判を起こすことまでは必要ありませんが、期間内に売主に対し、具体的に瑕疵の内容とそれに基づく損害賠償請求をする旨を表明し、請求する損害額の算定の根拠を示すなどして、売主の担保責任を問う意思を明確に告げることが必要になります(最高裁平成4年10月20日判決)。
相談例の場合も、土壌汚染の存在とこれに基づく損害賠償請求をすることを表明し、損害額の算定根拠を示すなどして、売主の担保責任を問う意思を明確に告げておく必要があります。
(2)消滅時効
では、買主が瑕疵の存在を知らなかった場合、買主は永久に損害賠償を請求することができるのでしょうか。
一般に、債権は、権利を行使することができる時から10年間行使しないときは、時効消滅するものとされています。
◆ご参考
現行民法166条1項:
消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。
現行民法167条1項:
債権は、十年間行使しないときは、消滅する。
除斥期間は、買主が瑕疵を知らない限り進行しません。
そのため、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権に消滅時効の規定の適用がなければ、買主が瑕疵に気づかない限り、永久に損害賠償請求ができることになりそうです。
しかし、それでは売主にとって大変な負担となります。
この点について、裁判所は、宅地に道路位置指定がされていた事案において、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権にも消滅時効の適用があり、この消滅時効は売買の目的物の引渡しを受けた時から進行するとしました(最高裁平成13年11月27日判決)。
したがって、相談例の場合、瑕疵の存在を知らなかったとしても、引渡しの時から10年間、損害賠償を請求しなかった場合、損害賠償請求権は消滅時効にかかることになります。
3.改正民法の場合
現行民法の瑕疵担保責任は、改正民法においては「契約不適合責任」に変わることになります(2016年5月号「民法改正によって瑕疵(かし)担保責任はどう変わる?」もご参照ください)。
(1)除斥期間
改正民法では、相談例のような品質に関して契約の内容に適合しない(土壌汚染がある)目的物が引き渡された場合には、買主は、売主に対し、不適合を知った時から1年以内にその旨を通知することが必要とされました。
このように、不適合であることを通知すれば足り、損害額の算定根拠などを示して売主の担保責任を問う意思を明確に告げる必要はなくなりましたので、買主の負担は緩和されたものといえます。
相談例では、土壌汚染の事実を知ってから1年以内に、その事実を売主に通知すればよいことになります。
◆ご参考
改正民法566条:
売主が種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物を買主に引き渡した場合において、買主がその不適合を知った時から一年以内にその旨を売主に通知しないときは、買主は、その不適合を理由として、履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。ただし、売主が引渡しの時にその不適合を知り、又は重大な過失によって知らなかったときは、この限りでない。
(2)消滅時効
改正民法でも、現行民法と同様に、債権者が「権利を行使することができる時」(客観的起算点)から10年間行使しないときに、債権が時効消滅するものとされています。
しかし、改正民法では、新たに債権者が「権利を行使することができることを知った時」(主観的起算点)から5年間行使しないときに、債権が時効消滅するという規定が設けられました。
そして、2つの時効期間のうち、早い方の時効期間の満了の日に債権が消滅時効にかかることになります。
◆ご参考
改正民法166条1項:
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
相談例の場合で見てみましょう。
買主は、不適合(土壌汚染の事実)を発見しているので、1年以内にその事実を通知しないと除斥期間の経過により、損害賠償の請求ができなくなります。
買主が土壌汚染の事実を発見してから1年以内に売主に通知していた場合、損害賠償請求権は保存されますが、土壌汚染の事実を発見している以上、「権利行使することができることを知った」と評価されるものと思われます。
したがって、この場合、損害賠償請求権は、土壌汚染の事実を発見した時(主観的起算点)から5年で消滅時効にかかることになります。
また、先ほどの平成13年の最高裁判例によれば、買主は引渡しの時から権利を行使することができるものとされています。そのため、改正民法においても、引渡し(客観的起算点)から10年が経過しますと、損害賠償請求権が時効消滅にかかることになると考えられます。
したがって、土壌汚染の事実を発見した時から5年の時効期間が経過するまでの間に、引渡し(客観的起算点)から10年の時効期間が経過していた場合には、その時点で消滅時効が成立することになります。
このように、2つの消滅時効期間が採用された結果、現行民法とは消滅時効の扱いが変わってきますので、権利を失わないように気を付けていく必要があります。