マンションの購入と管理費の問題
今回は、マンションの購入に伴う管理費の問題をご紹介します。
事例
Aさんは、引っ越しを考えていたところ、最近人気の◯町の10階建てマンションの101号室を売りたいといっているBさんを友人から紹介してもらいました。Aさんは、Bさんにマンションを見せてもらったところ、101号室の間取りも好みでしたし、エントランスなどの設備も高級感があって気に入ったので、Bさんに101号室を売ってもらうことにしました。ところが、101号室に住み始めて数日後、Aさんのもとにマンション管理組合から半年分の管理費の請求書が届きました。請求書を見て驚いたAさんには、以下のような言い分があるようです。Aさんの言い分は認められるのでしょうか。
Aさんの言い分
「管理組合から請求された管理費は、Bさんが住んでいたときのものですから、Bさんに請求するのが筋であり、私が払う必要はありません。また、このマンションには、3機のエレベーターが設置されていますが、私は1階に住んでいるので、エレベーターのメンテナンスなどに使われる分の管理費を負担しなくてもいいと思います。管理組合は、『集会の決議で管理費は決まっているので、支払ってください。』と言って、私の主張を聞き入れてくれません。」
1.管理費とは
マンションは、上記の101号室のような各部屋(専有部分)とそれ以外の共有部分に分かれます。そして、共用部分を管理し、維持・修繕するためには、経費がかかり、各部屋の所有者は、共用部分の管理・維持・修繕などにかかる経費を負担しなければなりません。
このような経費が、一般的に、管理費や修繕積立金と呼ばれています。管理費は、日常的に発生する経費で管理組合が行うマンション管理の全般に使われる費用です。修繕積立金は、マンションの大規模修繕に備えて積み立てる費用です。今回は、このうち、管理費が問題になります。
2.管理費の用途
先ほど、管理費は、「管理組合が行うマンション管理の全般に使われる費用」であると述べましたが、その言葉どおり管理費の用途は幅広いです。
例えば、管理人の人件費や共用設備(エレベーターなど)の維持費・運転費、清掃費、ごみ処理費、などが挙げられます。
Aさんは、管理費のうち、エレベーターの維持費を負担しなくてもよいのではないかということを理由に管理費の支払いを拒絶しようとしています。
3.管理費の定め方
管理費は、特に定めがない場合には、各専有部分の所有者がその専有部分の床面積の割合に応じて負担することとされています。しかし、具体的な金額を規約で定めたり、集会の過半数の決議で定めたりすることが多いです。
そして、規約や集会の決議で具体的な管理費の額を定めるにあたっては、専有部分の床面積の割合と異なる管理費を定めることができます。実際に、床面積が同じでも、営業用目的の専有部分と居住用目的の専有部分で管理費に差があるということがあります。
なお、床面積の割合と異なる管理費を定められるといっても、限度を超えた差を設けることはできず、そのような定めをした規約や集会の決議は無効になります。
実際に裁判例を見ると、専有部分の所有者が個人である場合と法人である場合に、管理費の負担額に約1.6倍の差を設けた集会の決議が無効とされた事案があります。
4.前の所有者の未払い管理費について
マンションの専有部分を所有している際に、管理費の未払いがあった場合には、その後にマンションを売却したとしても、過去の未払い管理費の支払いから逃れることはできません。そのため、管理組合は、所有者がマンションの専有部分を売却した後にも、その所有者に対して、未払い管理費の支払いを請求することができます。
しかし、既にマンションを売却してしまって、マンションとは関わりがなくなってしまっている者から、マンションの管理組合が未払い管理費を回収するのは簡単なことではありません。
一方で、未払い分の管理費は、他の専有部分の所有者が立て替えていることになりますが、その管理費がマンションのために使われていれば、その管理費はマンション全体の価値に反映されているはずです。そのため、未払い管理費のある専有部分を購入した者は、使われた管理費の恩恵を受けていることになります。また、その管理費が管理組合にプールされていれば、その管理費は、現在のマンションの財産になっているといえます。
そのため、マンションの権利関係などを定めた「建物の区分所有等に関する法律」では、管理費などについて、未払いがあった場合には、管理組合は、その未払いがあった専有部分を譲り受けた者に対しても、前の所有者の未払い管理費を請求できると定めています。
つまり、管理組合は、管理費を支払わなかった前の所有者に対しても、前の所有者から専有部分を譲り受けた者に対しても、未払い管理費の全額を請求できるのです。
仮に、前の所有者から専有部分を譲り受けた者が管理組合に過去の管理費を支払った場合には、前の所有者に対して、その支払った管理費の全額の支払いを請求できます。
5.自分が使っていない部分に関する管理費の支払いを拒めるか
先ほど述べましたように、管理費は、規約や集会の決議に定めがない限り、専有部分の床面積の割合に応じて形式的に定められます。
また、管理費は、日常的に発生する経費で管理組合が行うマンション管理の全般に使われる費用のことを言いますが、先ほど挙げたように、その用途が非常に広いため、専有部分の所有者ごとに共用部分の使用頻度に応じて管理費を定めることは非常に困難です。
そのため、一部の専有部分の所有者だけが使うことが、マンションの構造やその設備の機能から明白な場合(一部共用部分といいます。)を除いては、マンションの共用部分に関する経費は、管理費として専有部分の所有者全員で負担しなければなりません。
東京高等裁判所昭和59年11月29日の判決も以下のように判示して、1階店舗の所有者に対して、エレベーターの分も含めた管理費の支払い義務を認めています。
「元来、各区分所有者ないしその専有部分と共用部分との関係は、位置関係、使用度、必要性等さまざまであるが、これら関係の濃淡、態様を細かに権利関係に反映させることは困難でもあり、相当でもなく、むしろ、建物全体の保全、全区分所有者の利益の増進、法律関係の複雑化の防止等のため、ある共用部分が構造上機能上特に一部区分所有者のみの共用に供されるべきことが明白な場合に限ってこれを一部共用部分とし、それ以外の場合は全体共用部分として扱うことを相当とする・・・。」
6.Aさんの言い分が認められるか
まず、管理費の金額は、集会の決議で定められているとのことですので、この点を確認します。
次に、Aさんは、Bさんの未払い管理費を支払う必要はないと言っておりますが、Bさんから101号室を購入した以上、Bさんの未払い管理費を支払わなければなりません。
仮にAさんが未払い管理費を管理組合に支払った場合には、Bさんに支払った管理費相当額を請求できます。
最後に、エレベーターを使っていないという主張を検討します。確かにAさんは、1階に住んでいる以上、エレベーターの使用頻度は低いかもしれませんが、マンションの構造やエレベーターの機能から見て、マンションの特定の専有部分の所有者のために使われることが明白とはいえません(エレベーターがAさんの使う共用部分から完全に分離されているわけではありません。)。そのため、この点のAさんの言い分も残念ながら認められません。
なお、101号室の売買に仲介業者が入っていれば、Aさんは、Bさんに未払いの管理費があるかどうかについて、説明を受けることができましたので、Bさんが管理費を支払ってからでないと101号室を買わないと決めることもできたと思われます。