不動産売買のときに気をつけること~「告知書(物件状況報告書)」
不動産売買に際し、留意しなければならない事項として、今回は「告知書」の問題をとりあげます。「告知書」は「物件状況報告書」とよばれたりすることもあります。
御相談
私は、居住地から遠く離れたところに所有するマンションを売却することになりました。「告知書(物件状況報告書)」という書類に記載するよう求められましたが、昔のことはよく覚えておりません。私が覚えていることだけ書いておけばよろしいでしょうか。
ここがポイント
1.告知書(物件状況報告書)とは?
告知書(物件状況報告書)とは、マンションや一戸建てなどの中古の不動産売却の際に、売主が買主に対して、目的不動産の状況を説明する書面です。
仲介業者によって書式や細かな表現はかわることがありますが、骨子のところは共通しているところが多くあります。
例えば、建物の場合の告知書にある「雨漏り」という項目です。
「雨漏り」という項目について、例えば、□現在まで発見していない、□過去にあった、□現在発見している、などと3つの選択肢が記載されています。
さらに、それら選択肢のうち□現在発見している、を選択した場合は、その「現在発見している雨漏り」の「箇所」や「状態」について、記載する欄があります。
また、それら選択肢のうち□過去にあった、を選択した場合は、その「過去にあった雨漏り」というのは、どこの「箇所」であって、「修理」は済んでいるのか、済んでいないのか、「修理」が済んでいる場合は、何年何月頃修理をしたのか、などを記載する欄があります。
以上は「雨漏り」の項目の例ですが、その他にも多くの項目があります。「給水管・排水管の故障」、「シロアリの被害」、「増改築・リフォームの履歴」などの項目もあります。詳しくは後述します。
それら項目の多くは、「故障」や「被害」や「変更」が、今有るのか無いのか、過去に有ったか否か、有った場合はどの場所で、いつころ、どのようなことを行ったか、あるいは行わなかったのか、という情報を書く書式や記載欄になっています。
2.『宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方』について
国土交通省のホームページにも掲載されておりますが、「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」という通達がだされています。宅地建物取引業法の解釈・運用について国土交通省の考え方をわかりやすく理解していただくことが目的です。
そのなかに「不動産の売主等による告知書の提出について」という記載があります。以下、引用します。
「宅地又は建物の過去の履歴や隠れた瑕疵など、取引物件の売主や所有者しか分からない事項について、売主等の協力が得られるときは、売主等に告知書を提出してもらい、これを買主等に渡すことにより将来の紛争の防止に役立てることが望ましい。
告知書の記載事項としては、例えば、売買であれば、
①土地関係:
境界確定の状況、土壌汚染調査等の状況、土壌汚染等の瑕疵の存否又は可能性の有無、過去の所有者と利用状況、周辺の土地の過去及び現在の利用状況
②建物関係:
新築時の設計図書等、増改築及び修繕の履歴、石綿の使用の有無の調査の存否、耐震診断の有無、住宅性能評価等の状況、建物の瑕疵の存否又は可能性の有無、過去の所有者と利用状況
③その他:
消費生活用製品安全法(昭和48年法律第31号)第2条第4項に規定する特定保守製品の有無、従前の所有者から引き継いだ資料、新築・増改築等に関わった建設業者、不動産取得時に関わった不動産流通業者等
などが考えられ、売主等が知り得る範囲でこれらを記載してもらうことになる。
なお、売主等の告知書を買主に渡す際には、当該告知書が売主等の責任の下に作成されたものであることを明らかにすること。」
以上の通達が述べている趣旨は、前述の例でいえば、「雨漏り」が現在有るのか無いのか、また、過去に「雨漏り」が有ったか、有った場合、どこの「箇所」であって、「修理」は済んでいるのか、済んでいないのか、「修理」が済んでいる場合は何年何月頃修理をしたのか、などの情報は、売主から知らされなければ買主はわかりません。
売主から知らされないまま買主が買って、引渡を受けたあとに「雨漏り」があることを知った買主は、予定外の補修費用がかかることに不満を持ちます。また、「雨漏り」がある物件であることを最初から知らされていたら買わなかったのに、という不満も買主に発生し、紛争が発生します。
このような将来の紛争を防止するため、取引物件の過去の履歴や隠れた瑕疵など、売主や所有者しか分からない事項について、売主が告知書を提出し、買主に渡すことが望ましいと通達は述べているのです。
3.売主の注意点
中古物件を売ろうとする方が、「告知書(物件状況報告書)」の書式を渡され、記載を求められた場合、「どの程度記入すればよいのかよくわからないので、仲介業者に記載をおまかせしたい」と言われる方や、「昔のことはよく覚えておりません。私が覚えていることだけ書いておけばよろしいでしょうか」と言われる方がおられますが、いずれも、のぞましいものではありません。
前者の「仲介業者に記載をおまかせしたい」という言い分ですが、物件の状況や過去の履歴は、第三者である仲介業者が自らの責任で判断することができるものではありません。買主に対し、取引物件の現状はこうだ、過去の修繕履歴はこうだ、と伝えるのは売主の責任です。先の通達も「売主等の告知書を買主に渡す際には、当該告知書が売主等の責任の下に作成されたものであることを明らかにすること」と記載しています。
後者の「昔のことはよく覚えていない」という言い分ですが、人間であれば昔のことをよく覚えていないのはやむを得ない面があるにしても、可能な限り調査をされたり記憶の喚起はしておかれるべきです。取引物件の過去の補修履歴がわかるような書類、例えば、工事完了報告書や、契約書、請求書、領収書、図面など、売主が持っていた書類を探してみていただくとか、あるいは、昔、物件管理を依頼していた方や、物件管理や補修履歴に詳しい人物から聴取するなど、可能なかぎり、過去あったこと(履歴)や現状の不具合の有無などを調査したうえ、告知書(物件状況報告書)に記載すべきです。
売主は、欠陥や不具合を知っていたにもかかわらず、それを買主に知らせなかったと評価された場合、不動産売買契約書がどのように定めていても、売主に損害賠償義務などが発生してしまうリスクがあります。これは不動産売買契約書のなかにいわゆる「瑕疵担保免責特約」があったとしても同じです。このような売主に損害賠償義務などが発生しないようにするには、売買契約時に売主が知っていることはできるだけ買主に説明しておくべきです。
売主は、告知書(物件状況報告書)に不具合や過去の履歴などを書いておいて買主に渡せば、その記載事項については、売主が買主に告知した、報告したということになり、買主はその告知を受けた記載事項が存在することを前提に買ったということになりますから、将来、買主から「売主は知っていて知らせなかった」などという主張はされなくなり、売主が将来、買主から責任追及されるリスクが減るというメリットがあるのです。
売主の立場からすれば、あとで買主からクレームを言われそうな情報はもちろんのこと、クレームを言われるかどうかわからなくても、知っていたことはなるべく買主に知らせておくというスタンスが結局は売主を守ることにつながります。
売主が告知書(物件状況報告書)の記載に手を抜いたり、その事前準備の調査や記憶喚起に手を抜いてしまいますと、結局は、売主が買主から損害賠償請求や責任追及を受けるリスクを高めるだけになってしまいますので、御注意ください。