中古建物のシロアリ被害と売主らの損害賠償責任
相談事例
私は、不動産媒介(仲介)業者に依頼し、築20年の木造建物(以下「本件建物」といいます。)の紹介を受け、居住する目的で購入しました。ところがその後、本件建物には売買契約の前から柱や土台の木材内部にシロアリ被害があり、建物の構造耐力上、危険であることが分かりました。私は、売買契約のときに、売主や媒介業者からシロアリ被害について何も説明を受けていません。売主らにこのことを伝えたところ、シロアリ被害については気がつかず、知らなかったと言われました。売主らに対して、損害賠償請求はできないのでしょうか。媒介業者は不動産のプロですから、シロアリ被害について調査し、私に説明をすべきだったのではないでしょうか。
解説
1.売主に対する損害賠償請求について
売主に対する損害賠償請求の方法の一つとして、本件建物には「瑕疵」(かし)があることを理由に、瑕疵担保責任(かしたんぽせきにん)に基づく損害賠償請求をすることが考えられます。
本コラムでも何度か取り上げていますが、「瑕疵」(かし)とは、「きず」という意味であり、欠点や欠陥があることを表します。本件では売買の目的物(本件建物)の瑕疵が問題になるところ、売買目的物に瑕疵があるといえるためには、売買契約をした趣旨に照らして、通常有すべき品質や性能を欠いているといえることが必要です。
さらに、瑕疵担保責任が発生するためには、その「瑕疵」が「隠れた」ものであることが必要です。この「隠れた」ということの意味内容は、買主が、契約時に、「瑕疵」の存在を知らず(善意)、知らなかったことについて過失がない(無過失)ことをいいます。
本件において、相談者は、居住目的で本件建物を購入しているところ、本件建物のシロアリ被害は、建物の柱や土台という建物の重要部分に発生し、構造耐力上も危険であるほどに被害が進行しています。このような状態の建物に安心して住むことは難しいことからすれば、築年数が20年経過していることを考慮したとしても、本件建物は通常有すべき品質や性能を欠いていると考えられます。そして、買主が、売買契約当時、シロアリ被害を知らず、知らなかったことに過失がないのであれば、本件建物には「隠れた瑕疵」があるといえます。
したがって、本件では、相談者の売主に対する、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求は認められる可能性があります(なお、瑕疵担保責任には期間制限などの問題もありますが、今回は説明を省略いたします。)。
2.媒介業者に対する損害賠償請求について
相談者は、媒介業者と不動産媒介契約を締結し、媒介業者の媒介のもと、売主との間で売買契約を締結しています。そして、媒介業者には、相談者が売買契約を締結するかどうかの意思決定に大きな影響を与えるような事実について、説明をする義務などがあります。
ところが、本件では、媒介業者は、売買契約当時、シロアリ被害について知らず、相談者に対して何ら説明をしていません。相談者としては、不動産のプロである媒介業者の助力を得るために媒介契約を締結し、売買契約に臨んだわけですから、媒介業者は、シロアリ被害について調査をしたうえで説明をする義務があったと考えています。
では、媒介業者がこのような調査・説明をする義務を怠ったことを理由として、相談者が媒介業者に対して損害賠償請求をした場合、認められるのでしょうか。
媒介業者が、取引物件の物的な瑕疵について調査・説明義務を負うかという点について、一般論をいえば、媒介業者は、建築士や不動産鑑定士などではなく、取引物件の物的状態についての検査能力や鑑定能力があるわけではありません。そのため、媒介業者は、通常の注意をもって目視により取引物件を観察しても発見できない瑕疵についてまでは、原則として調査等を行う義務はないと考えられます。
これをシロアリ被害についてみると、シロアリが木材の内部を中心に侵食する場合は、シロアリ駆除の専門業者でない限り被害を発見することは難しいと思います。したがって、媒介業者としては、特段の事情がある場合(例えば、売買契約当時、本件建物にシロアリ被害があることを疑わせるような事実を認識し、または容易にそのような事実を認識できた場合など)を除き、シロアリ被害を調査して説明をする義務まではないと考えられます。
以上からすると、本件において、このような特段の事情がない限り、相談者の媒介業者に対する損害賠償請求が認められることは、難しいでしょう。