購入した土地から埋蔵文化財がでてきたら?
建物を建築するために郊外の土地を購入しようと考えています。周辺では古墳や埴輪が発掘されたこともあるようなのですが、購入にあたり注意することはあるでしょうか。
1 文化財保護法による規制
建物建築にあたっては、基礎工事のため土地を掘削(発掘)することになりますが、周辺で古墳や埴輪などの遺跡が発掘されたことがあるというのであれば、文化財保護法による規制に注意する必要があります。
文化財保護法は、文化財の保存と活用を目的とする法律ですが、貝づか、古墳、都城跡、城跡、旧宅その他の遺跡で我が国にとって歴史上または学術上価値の高いものを「文化財」のひとつとして挙げています。遺跡には、古墳や住居跡などの遺された構造物である「遺構」と埴輪や土器、石器などの遺された動産である「遺物」があり、土地に埋蔵されている文化財を「埋蔵文化財」といいます。
文化財保護法は、貝塚、古墳などの埋蔵文化財を包蔵する土地として周知されている土地(周知の埋蔵文化財包蔵地)を土木工事などの目的で発掘しようとする場合には、60日前までに、必要事項を記載した書類をもって、文化庁長官(実際に事務を取り扱うのは、都道府県・政令指定都市等の教育委員会になります。)に届出(埋蔵文化財発掘届)をしなければならないとしています(法93条1項)。
2 周知の埋蔵文化財包蔵地
周知の埋蔵文化財包蔵地とは、古墳など遺跡が埋蔵されていることが外見により分かるもののほか、口伝、表面採集、過去の発掘などによって、既に遺跡が埋蔵されていることが知られている土地のことをいいます。通常、都道府県や市区町村が作成する遺跡地図および遺跡台帳に、その区域が表示されています。東京都には遺跡地図情報をインターネットで提供するサービスもあったりします。ただし、これらの遺跡地図および遺跡台帳がすべての「周知の埋蔵文化財包蔵地」を登載しているとは限りません。そのため、遺跡地図および遺跡台帳に登載されていない区域の土地であっても、その地域社会において遺物や遺跡が埋もれていることが認識され「周知の埋蔵文化財包蔵地」に該当する場合があるため注意が必要です。購入予定地が該当するかは、各自治体の教育委員会の担当窓口に確認することが必要となります。
3 工事中に埋蔵文化財を発見した場合
周知の埋蔵文化財包蔵地に該当しないのであれば、工事をするにあたって届出を提出する必要はありません。ただし、工事実施中に埋蔵文化財を発見した場合には、その土地所有者または占有者は、その現状を変更することなく、遅滞なく書面によって各自治体の教育委員会に届出を提出しなければなりません(法96条1項)。この場合、各自治体の教育委員会は、必要と判断される場合には、工事の中止・停止等の命令を出すことができ、その後は、周知の埋蔵文化財包蔵地の場合と同様に、次の4の手続の流れとなります。
4 埋蔵文化財発掘届提出・発見後の手続
届出を受けた各自治体の教育委員会は、埋蔵文化財の保護に特に必要があると認めるときは、届出にかかる発掘に関し、発掘前における埋蔵文化財の記録作成のための発掘調査の実施その他必要な事項を指示することができます(法93条2項)。また、地方公共団体は、埋蔵文化財について調査する必要があると認めるときは、包蔵すると認められる土地の発掘を施行することができるとされ(法99条1項)、地方公共団体は、前項の発掘に関し、事業者に対し協力を求めることができる(法99条2項)とされています。
実際の教育委員会の運用としては、事前に遺跡の現状を確認する試掘調査や立会調査が実施され、この調査により埋蔵文化財が確認されると、現状保存とするか記録保存のための本格調査が行われることとなります。
(1) 試掘調査・立会調査
試掘調査とは、土木建築工事予定地の埋蔵文化財の状況を事前に確認するために実施する調査です。予定地全体について比較的浅い深さを掘削して状況を確認することとなります。立会調査とは、簡易な調査方式で、工事の根切り段階の掘削時に立ち会うものです。
(2) 現状保存
試掘調査や立会調査で埋蔵文化財が確認された場合に、設計を変更したり掘削の深さを調整することにより埋蔵文化財を破壊せずに現状のまま保存することができるのであれば、かかる措置を講じた上で工事の実施が可能となります。
(3) 本発掘調査
試掘調査や立会調査で確認された埋蔵文化財をやむをえず破壊しなければならないとき、破壊とまではいかなくとも、盛土や工作物の設置により埋蔵文化財に影響を及ぼす恐れがある等の場合には、その状態を写真や図面などの記録として保存し、出土品を整理するための本発掘調査が行われることになります。
本発掘調査を行う場合には、改めて教育委員会への届出が必要となります(法92条1項)。
本発掘調査は、測量作業、重機・人力による掘削作業、遺構・遺物のその場での記録等の種々の現場作業と現場で記録した図面や写真等の整理や出土遺物の水洗い・接合・復元・実測等の整理作業、そしてそれらを報告書として完成させる作業から成ります。これらの作業は、土木工事等を行う事業者に委託されることとなりますが、学術的かつ専門的技術が必要となりますので、遺跡発掘調査機関に委託されることも多く見受けられます。
(4) 出土品の取扱い
発掘調査等により出土した遺物は、遺失物法の適用を受けますので、発掘調査終了後速やかに埋蔵物発見届を所轄警察署へ提出する必要があります。これらの出土品は国庫または都道府県に帰属することになりますが、土地の所有者や発見者には報奨金が支払われることとなります。
5 発掘調査にかかる費用の負担
前述した文化財保護法93条2項の発掘調査や99条1項の調査のための発掘については、法律上、その主体は文化庁長官や地方自治体となっていますが、その費用負担についての規定はありません。
実際の運用としては、試掘調査にかかる費用は、国や自治体が負担する国庫補助金制度により費用が賄われています。本発掘調査にかかる費用については、自治体は「事業者に対し協力を求めることができる」としている法99条2項を根拠に、行政指導として、事業者即ち建物建築工事を行う者に費用負担を求めています。埋蔵文化財の本発掘調査は、作業量も多く期間も長期にわたり、それにかかる費用は多額にのぼることより、民間側に負担させていることについて問題視されているところです。
東京高裁の昭和60年10月9日判決はこの点について争われた裁判例ですが、以下のように述べて違法ではないと判断しています。
「 埋蔵文化財が、わが国の歴史、文化などの正しい理解のために欠くことのできない貴重な国民的財産であり、これを公共のために適切に保存すべきものであることはいうまでもないところであり、このような見地から、埋蔵文化財包蔵地の利用が一定の制約を受けることは、公共の福祉による制約として埋蔵文化財包蔵地に内在するものというべきである。文化財保護法は、埋蔵文化財包蔵地に内在する右のような公共的制約にかんがみ、周知の埋蔵文化財包蔵地において土木工事を行う場合には発掘届出をなすべきことを義務付けるとともに、埋蔵文化財の保護上特に必要がある場合には、届出に係る発掘に関し必要な事項を指示することができることを規定しているものであり、右(上記)の指示は、埋蔵文化財包蔵地の発掘を許容することを前提とした上で、土木工事等により貴重な遺跡が破壊され、あるいは遺物が散逸するのを未然に防止するなど埋蔵文化財の保護上必要な措置を講ずるため、発掘者に対して一定の事項を指示するものであつて、埋蔵文化財包蔵地における土木工事によつて埋蔵文化財が破壊される場合には、埋蔵文化財の保存に代わる次善の策として、その記録を保存するために発掘調査を指示することは埋蔵文化財保護の見地からみて適切な措置というべきである。したがつて、右(上記)のような発掘調査の指示がなされることによつて、発掘者がある程度の経済的負担を負う結果になるとしても、それが文化財保護法の趣旨を逸脱した不当に過大なものでない以上、原因者たる発掘者において受忍すべきものというべきである。」
文化財保護という公共的な要請を法的根拠が不明確な民間への経済負担によって成り立たせようという制度には疑問が残るように思われます。