フルリフォーム完了建物と台所の流し台の排水不良
相談事例
私は、不動産会社(宅地建物取引業者)から、築44年のマンションの一室(本件建物)を購入しました。この物件は「新築同様にフルリフォーム完了!」と表示して売り出されていたものです。
ところが、入居後に気が付いたのですが、台所の流し台に水を流すと、残飯や汚水が逆流する排水不良が発生します。専門業者にその原因を調査してもらったところ、排水管に詰まりが発生していることが分かりました。
前記のような宣伝文句を踏まえると、このように排水管に詰まりがある本物件は、取引上期待される品質及び性能を欠いていると思います(契約不適合)。また、売主はこのような排水管の状況について説明をすべきであったのに、何も説明をしていません(説明義務違反)。そこで、私は、売主に対し、契約不適合や説明義務違反を理由として、損害賠償請求をしたいと考えています。
(今回の相談事例は、東京地裁平成28年4月22日判決をモデルにしています。)
解説
1 契約不適合責任について
売買契約の目的物に契約不適合(引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないこと)がある場合、買主は、売主に対し、目的物の修補や損害賠償などの契約不適合責任を追及することができます。
契約不適合といえるかどうかは、引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しているかどうかによることから、契約の内容として、どのような種類、品質又は数量の目的物が売買対象とされたのかが問題になります。
今回の相談事例は中古建物の売買であるところ、中古建物の売買における契約不適合の考え方(経年劣化関連)については、本コラムでも過去にとりあげています(2022年12月号「中古建物の売買における建物・設備の経年劣化と契約不適合」)。
改めてご説明すると、一般的には、中古建物には時間の経過による損傷や性能の低下などが発生していることから、売買契約の当事者は、特段の合意がない限り、相応の経年劣化が発生している品質・性能の建物を売買契約の目的物としたものと考えられます。
したがって、経年劣化があったとしても当然に契約不適合になるわけではありません。例えば、築年数44年の建物の売買では、相応の経年劣化がある築年数44年の建物として有しているべき品質・性能があるかどうかが問われ、これを欠く場合に契約不適合になるのです。
2 東京地裁平成28年4月22日判決
この判決においては、以下のとおり、「新築同様にフルリフォーム完了!」という表示を踏まえても、本件建物が通常有すべき品質又は性能を欠くものであった(本件建物に瑕疵があった)とは認められず、買主の売主に対する損害賠償請求は認められませんでした。
【判決の要点】
・ 本件建物の台所に存在する流し台に、一度に多量の水を流し入れると、一時的に水が滞留し、排水口から空気が噴出してくる場合もあることが認められるが、流水の状況は、若干時間を要するものの、短時間のうちに流れ切る程度のものであり、流し台の使用に関して、特段支障になるとは認め難いものである。
・ また、本件建物は、昭和43年12月に建築されたマンションの一室であり、本件売買契約当時、建築後44年以上が経過していたことが認められるところ、このような本件建物の客観的な状況などにかんがみると、設備等に関して、現在の新築物件に劣る部分があることは当然に想定されるほか、経年劣化により機能面において必ずしも十全とはいえない点が存在することも十分に想定されるから、前記のような流水の状況が存在することをもって、本件建物が、前記のとおりの築年を経過した中古マンションとして通常有すべき品質又は性能を欠くものであったとは認め難いといわざるを得ない。
・ 買主は、売主が「新築同様にフルリフォーム完了!」と表示して本件建物を売りに出しており、本件建物に新築と同様の品質及び性能が備わっていることを保証していたとして、前記のような流水の状況が存在することが本件建物の瑕疵に当たることになると主張するが、本件建物が建築から相当年数を経過した中古マンションであったことは本件売買契約の前提とされていたのであって、リフォームが行われたとしても、これが現在における新築物件と同様の品質及び性能を備えることはおよそ期待できる状況にはなかったと考えられるから、前記のような表示があったことによって、瑕疵の存否に関する前記の判断が左右されるものではない。
・ 以上のとおり、本件建物に瑕疵が存在していたとは認められないから、売主が、買主に対し、瑕疵担保責任による損害賠償責任を負うことはない。
・ 前記のとおり、本件建物に瑕疵が存在するとは認められず、売主として、これに関する説明義務を負う余地はないから、説明義務違反による不法行為が成立することはない。
・ そうすると、売主が、買主に対し、瑕疵担保責任又は説明義務違反の不法行為による損害賠償責任を負うことはないから、その余の点について判断するまでもなく、買主の請求は理由がない。
※ 判決文については、一部簡略化したうえ、「原告」を「買主」に、「被告」を「売主」に変更するなどしています。なお、「瑕疵担保責任」という言葉がありますが、「瑕疵担保責任」は改正前民法下における概念であり、「契約不適合責任」と読み替えていただいて問題ありません。
3 「リフォーム完了」等物件の売買時における注意点
(1) 前記判決は、売主の責任を認めませんでしたが、あくまで前記判決において認定された具体的な事実関係のもとでの判断になります。
同種の事案において売主の責任が認められるかは、宣伝文句の内容、リフォームの内容・範囲、売買契約の目的、売買契約に至る経緯、売買契約書や関係書類の内容、建物の築年数等、建物の不具合の内容・程度など、売買契約に関するさまざまな事情をもとに判断されるものであり、ケースバイケースです。
(2) 中古建物が、「リフォーム完了」、「リノベーション完了」などの宣伝文句のもとで販売される場合には、トラブルを避けるために、売主は買主に対して工事内容や工事範囲について具体的に説明をすべきであり、買主としてもこれを十分に確認する必要があります。