宅地建物の売却の媒介における「媒介価額」とは何か
相談事例
宅地建物取引業者に対して、宅地建物の売却の媒介を依頼するときの契約書(国土交通省が定めた標準媒介契約約款のうちの媒介契約書)の別表には、「媒介価額」を記載する欄がありますが、この「媒介価額」とは何ですか。「媒介価額」について、宅地建物取引業者に対する規制はありますか。また、宅地建物取引業者による価格査定や媒介価額等に関して紛争になった例はありますか。
解 説
1 「媒介価額」の内容と宅地建物取引業法の規制について
(1) 宅地建物取引業法(以下「法」といいます。)第34条の2第1項は、宅地建物取引業者(以下「宅建業者」といいます。)が、宅地又は建物の売買の媒介契約を締結したときは、遅滞なく、一定の事項を記載した書面を作成して記名押印し、依頼者にこれを交付しなければならない旨を定めています。
国土交通省は、標準媒介契約約款(媒介契約書と約款から構成されます。)を定めているところ、これを用いて媒介契約書に取引固有の事項を補充し、約款と共に交付した場合には、法が記載を求める事項を網羅した前記書面の交付をしたことになります。
(2) この法第34条の2第1項が書面に記載を求める事項の一つに、「当該宅地又は建物を売買すべき価額又はその評価額」(同項第2号)があります。
このうち、「売買すべき価額」とは、依頼者が売却の媒介の依頼をするときの目的物件の売出し価額であり、通常、売主が売却希望価額を示し、宅建業者が価格査定の結果を示すなどしてアドバイスを行い、調整したうえで決定されます。
この「売買すべき価額」が「媒介価額」として、前記の媒介契約書の別表の「媒介価額」欄に記載されるのです。
(3) また、法第34条の2第2項は、宅建業者は、「売買すべき価額」(媒介価額)について意見を述べるときは、その根拠を明らかにしなければならない旨を定めています。
この意見の根拠については合理性が求められており、具体的には、国土交通省が公表している「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」に、以下のとおり記載されています。
「4 媒介価額に関する意見の根拠の明示義務について
(1) 意見の根拠について
意見の根拠としては、価格査定マニュアル(財団法人不動産流通近代化センターが作成した価格査定マニュアル又はこれに準じた価格査定マニュアル)や、同種の取引事例等他に合理的な説明がつくものであることとする。
なお、その他次の点にも留意することとする。
① 依頼者に示すべき根拠は、宅地建物取引業者の意見を説明するものであるので、必ずしも依頼者の納得を得ることは要さないが、合理的なものでなければならないこと。
② 根拠の明示は、口頭でも書面を用いてもよいが、書面を用いるときは、不動産の鑑定評価に関する法律に基づく鑑定評価書でないことを明記するとともに、みだりに他の目的に利用することのないよう依頼者に要請すること。
③ 根拠の明示は、法律上の義務であるので、そのために行った価額の査定等に要した費用は、依頼者に請求できないものであること。
※(2)は省略」
2 価額に関する紛争の裁判例
依頼者が、売買契約を締結した後になって、成約価額に不満を持ち、「査定価格の根拠が十分に示されなかった。」、「もっと高い金額で売り出すべきであった。」などとして、不動産売買の媒介を行った宅建業者との間で紛争になることがあります。
このような紛争の裁判例の一つとして、東京地裁平成21年3月24日判決がありますので、ご紹介します。
この判決の事案は、売主が、所有する土地建物(以下「本件不動産」といいます。)の売却に関して、A社との間で媒介価額を2880万円とする専任媒介契約を締結し、A社の従業員であるBが同金額を売出価額として買主を募集した結果、2750万円で売買契約が成立したところ、売主は、媒介契約について、本件不動産を2880万円と評価した根拠(土地建物の内訳等)の不告知や、不適正な売出価額の設定があったなどとして、A社とBに対して損害賠償請求を行ったものです。
算定根拠の不告知について、判決では、Bが、媒介契約の締結にあたって、売主に対し、「東日本レインズのコンピュータ・ネットワークを用いて調査した本件不動産周辺の成約事例及び売出中物件の情報を記載した書面を示したうえで、被控訴人らがこれらの情報に基づき本件土地を2730万円、本件建物を150万円、本件不動産を2880万円と評価したことを告知したことが認められる。」(※「被控訴人ら」=A社・B)として、売主の主張を認めませんでした。
次に、不適正な売出価額の設定について、売主の主張は、「不動産取引においては、売出価格よりも低い額の売買価格が設定されるのが通常であるから、不動産取引の媒介業者は、それを見越して、媒介価格よりも若干高い額の売出価格を設定する義務」を負担しており、この義務に違反する本件売出価格の設定は、売主に対する債務不履行等を構成するというものでした。
この主張について、判決では、「一般に、媒介価格は売買価格の下限を定める趣旨のものではなく、本件においてもそのような趣旨で本件媒介価格が定められたと認めるべき事情は見当たらないから、」「不動産取引の媒介業者は媒介価格よりも若干高い額の売出価格を設定する義務を負担しているとはいえない。」として、売主の主張を認めませんでした。
※上記判決では「価格」という用語を用いているため、判決文の引用に当たっては原文のままとしています。