建築基準法違反(容積率・建ぺい率)の建物の売買と売主、仲介会社の責任
建築物の敷地・構造・設備・用途に関する最低の基準を定めている建築基準法は、建物の容積率、建ぺい率を定めています。容積率とは敷地面積に対する建物の延床面積の割合をいい、建ぺい率とは、敷地面積に対する建物がある敷地部分の面積の割合です。いずれも、一定の割合以下とする必要があります。
今回は、売買の目的となった建物の容積率、建ぺい率が建築基準法に違反しているにもかかわらず、その説明をしなかったとして、売主と仲介会社の損害賠償責任が問われた平成25年3月6日の東京地方裁判所の裁判例を紹介します。
1. 事案
(1) Xは不動産賃貸業を営む株式会社、Y社は宅地建物取引業を営む株式会社、Y1は本件建物の元所有者です。
(2) 平成20年6月、XはY社の仲介により、本件建物を賃貸目的でY1からその敷地とともに買い受けました(本件売買契約)。本件建物の代金額は6000万円でした。
(3) 本件建物は、Y1の亡くなった夫Aが昭和56年に建築して所有していた建物であり、住戸、店舗、事務所が混在する5階建の構造でした。Aは平成3年に亡くなり、Y1が本件建物を相続し、4階及び5階に住んでいました。
その後Y1は本件建物を売却することとし、平成20年1月にY社と不動産売買仲介契約を締結しています。
(4) 容積率を算定するにあたり、建物全体の5分の1までの駐車場部分は延べ床面積に含まれないとの緩和措置がありますが、本件建物は1階部分を駐車場とする内容で建築確認の申請がされ、容積率緩和の適用を受けていました。しかし、本件売買契約当時には1階部分が店舗・事務所等に改築されていたため、建築基準法の定める容積率に違反した建物となっていました。
建ぺい率についても、建築確認申請の内容は基準をクリアしていましたが、本件売買契約締結後に行われた測量によりわずかではありますが、オーバーしていることが判明しました。
(5) Y社の担当者は、Y1との仲介契約締結にあたり、Y1から新築時の募集広告や設計図等の資料の提供を受け、区役所から建築確認申請に添付された建築計画概要書や確認申請記載事項証明書を取得するなどしました。その内容を確認したところ、1階部分を駐車場とする内容で建築確認の申請がされ、容積率緩和の適用を受けていたにもかかわらず、1階の現況が店舗や事務所であったため、本件売買契約の際に交付する重要事項説明書には「建築当時車庫部分にて容積緩和されているが、現時点では事務所・店舗となっているため、増・改築、再建築の際には、現在と同規模の建築物は建築できない場合がある」との記載をしていました。建ぺい率についてはその割合を記載するほかは特段の記載はしていませんでした。
(6) Xの関係者らは、本件売買契約締結に至るまで、Y社や自らが依頼した仲介会社に容積率や建ぺい率をクリアしているかなど尋ねるようなことはありませんでした。
2. Xによる損害賠償請求訴訟の提起と争点
上記の事案にて、Xは、購入した本件建物の容積率及び建ぺい率が建築基準法に違反する状態であることが判明したことより、
・仲介をしたY社に対し、宅地建物取引業者としての調査説明義務に違反したとして債務不履行あるいは不法行為に基づき、
また、
・Y1に対し、売主としての調査説明義務違反に基づき、
本件建物の代金額6000万円と本件建物の適正価格であるとする3780万円との差額2220万円の賠償を求めて訴訟を提起しました。
この訴訟では、Y社とY1それぞれについて、容積率及び建ぺい率についての調査説明義務違反が認められるかが争点となりました。
3. 裁判所の判断
上記争点について裁判所は次のように判断しました。
(1) Y社の容積率違反に関する調査説明義務違反について
この点、裁判所は、建築基準法による容積率の制限に違反した状態にあるか否かは、通常、売買契約を締結するか否かを決するに際し重要な事項であると解されるから、Y社には、Xに対し、容積率違反の状態にある可能性があることを説明すべき義務があったというべきであると原則論を述べています。
その上で、Y社は、本件建物が建築確認申請時には、1階部分が駐車場であることを理由に容積率の緩和を受けていたこと、本件売買契約締結当時には、本件建物に駐車場となっている部分が存在しないため、増改築、再建築の際には、現在と同規模の建築物は建築できない場合があることを本件重要事項説明書に記載し、Xに対する説明を行っており、この説明によれば、本件建物が本件売買契約当時、容積率の制限に違反した状態にある可能性があることが認識できたというべきであるから、Y社には、本件建物の現状が容積率に違反した状態にあるか否かについての説明義務の懈怠はないと判断しました。
この点に関し、Xは、本件重要事項説明書の内容は、増改築、再築の際は現在と同規模の建築物は建築できない場合があるというものであり、原則として、現在と同規模の増改築、再建築ができるという説明にすぎず、本件建物が容積率を超過する可能性のある建物であるとの説明となっていないとの反論をしています。しかし、裁判所は、独自の見解を述べるものであり採用できないとしています。
また、本件売買契約においては、本件土地の面積は売買契約締結後に測量し、登記簿上の面積との差が存在したとしても代金の清算は行われないとされていたこと、本件売買契約締結までの段階において、本件建物の容積率算定のための延べ床面積が問題とされたとの事情はうかがわれないことからすれば、本件売買契約時点において、正確に容積率違反の事実の有無を確定することはできなかったとしています。これに容積率に関する法規制は変更される可能性があること、Xが複数の中古不動産を購入して不動産賃貸業を営む株式会社であることを併せ考えると、Y社の行った説明は、Xが本件建物の容積率違反の可能性を認識するに十分なものであったと述べ、Y社には、調査説明義務の違反はないと結論付けました。
(2) Y社の建ぺい率違反の現状に関する調査説明義務違反について
この点について、裁判所は、本件建物が建ぺい率の制限に違反した状態にあることは、本件売買契約締結後に行われた本件土地の測量により判明したものであり、本件売買契約締結前にY社が入手していた登記事項全部証明書や建築計画概要書の記載内容からは、本件建物が建ぺい率の制限に違反しているとの事実はうかがわれないとしています。そして、建ぺい率の制限に超過する面積がわずか(2.13㎡)であることからすると、本件売買契約当時、Y社が、本件建物が建ぺい率違反の状態にあることを知っていたとは認められず、通常の注意を払えば知り得たとも認められないと判断しています。
そして、本件売買契約においては、売買契約締結後に本件土地の測量を行うとされていたこと、Xから本件建物の建ぺい率について質問や調査の要請がされたことがないことからすれば、Y社自らが本件土地の測量や本件建物の建築面積を実測して建ぺい率違反の有無を明らかにするまでの調査義務を負っていたと解することはできないと判断しています。
この点に関し、Xは、本件建物について検査済証が取得されていない事実及びXが本件建物を改築・改修を前提として購入する事実を熟知していたY社には、本件建物の建ぺい率の適合性の有無について調査し、その違反の概要をXに説明する義務があったと主張しました。しかし、裁判所は、検査済証が取得されていなかった理由が建ぺい率違反であるとうかがわせる事情が本件売買契約締結当時存在したとは認められず、建ぺい率違反の有無を確定する方法である本件土地の測量や本件建物の建築面積の算定には費用の支出を伴うところ、本件土地の測量については売買契約締結後に行うことについてXとY1らが合意していた本件においては、それに先立ちY社が自ら調査を行う義務があったとまでは認められず、Xの上記主張は採用できないとしています。
以上より、裁判所は、本件建物の建ぺい率違反について、Y社には調査説明義務の違反はないと結論付けています。
(3) Y1の容積率違反に関する説明義務の懈怠について
裁判所は、前述のように、XはY社から本件建物の容積率違反の可能性について十分な説明を受けており、Y1について説明義務の懈怠の有無を論じるまでもなく、Y1に対する請求に理由はないとしています。
(4) Y1の建ぺい率違反に関する説明義務の懈怠について
この点についても、裁判所は、建ぺい率違反の状態であることは、本件売買契約締結後に行われた測量の結果明らかになったものであり、Y1が所持していた本件建物に関する資料等には建ぺい率違反をうかがわせるものが存在しなかったことからすれば、Y1が、本件建物が建ぺい率違反の状態にあることを知っていたとは認められず、通常の注意を払えば知り得たとも認められないとして、Y1に説明義務があったとは認められないと判断しています。
以上より、裁判所は、Y社やY1に容積率及び建ぺい率についての調査説明義務違反はないとして、Xの請求を棄却しています。
4. まとめ
売買された建物が容積率や建ぺい率の点で建築基準法違反であった場合、後日、買主は違法建築物の所有者として、是正命令を受けたり、現状で利用することができず、是正工事を行わなければならないなどの不利益を被る可能性があるため、売主に対し、契約不適合責任や調査説明義務違反を理由として、また、仲介会社に対し、調査説明義務違反を理由として、損害賠償責任を追求することが考えられます。
売主や仲介会社は、違法建築物であることが判明していれば、その事実を説明する義務があると考えられていますが、「判明」していたといえるか、どこまでの調査義務を負うかは、具体的な事案に応じて判断されることとなります。特に、建築確認申請から売買契約締結に至るまでの、工事完了検査済証の取得や建物の増改築・用途変更、敷地の一部売却といった事情の有無を確認することが重要です。