初めて不動産の売買契約を締結される方が売買契約書をご覧になった際などに参考にして頂けるよう、分かりやすい言葉、一般的に使われている言葉で、法律の基本的な事項を解説しています。
所有権の移転・引渡し・
負担の抹消・所有権移転登記
所有権が移転する時期について何も合意せず、単に目的物を売ります、買いますという合意をしただけであれば、売買契約を締結した時に、目的物の所有権は売主から買主に移転することになります。
ただし、売買契約の中で、目的物の所有権が移転する時期を、売買契約を締結した時以外の時、例えば、売買代金が支払われた時とする合意をすることも可能です。
特に不動産のように高額な物の売買の場合、代金はまだ支払われていないのに、契約締結と同時に所有権が買主に移転するのでは、売主としても不安ですから、所有権の移転時期を売買代金全額の支払いと同時とする合意がなされることが多いといえます。
引渡しとは、その物の支配を、売主から買主に移すことです。
建物でいえば、例えば、鍵を渡すことで、売主から買主に支配が移り、引渡されたとすることがあります。
もっとも、不動産のように手渡しできないような物は、売主から買主に支配が移ったかどうかが必ずしも明確ではないため、引渡しが完了したことを明確にすべく、引渡確認書等の書面を取り交わすことがあります。
買主からすれば、売主が、その責任と費用負担で、不動産の所有権が移転する時期までに、抵当権など完全な所有権の行使を阻害する一切の負担を除く、という内容の定めをおくのが良いでしょう。
例えば、抵当権が設定されていると、せっかく買った不動産が競売にかけられる等の危険があります。また、当然そのような危険がある不動産は価値も下がってしまいます。
そのため、買主にとっては、もちろん売買契約締結に先立って負担が除かれることが望ましいですが、少なくとも、上記のような定めをおいて、所有権が移転する時期までには、売主が抵当権等の負担を除く義務を負うことを定めるのが重要です。
なお、2017年民法改正による新民570条は「買い受けた不動産について契約の内容に適合しない先取特権、質権又は抵当権が存した場合において、買主が費用を支出してその不動産の所有権を保存したときは、買主は、売主に対し、その費用の償還を請求することができる。」と定めています。不動産に抵当権が存在している場合でも、例えば、抵当権の存在を前提として廉価で売買が行われることがあり得ますので、「契約の内容に適合しない」とはいえないという場合もあります。
所有権移転登記申請手続とは、不動産の所有権が移転した場合に取得者に登記名義人を変更する手続です。
売買契約を締結したとしても自動的に買主が登記名義人になるわけではなく、所有権の移転を登記上も反映させるには、所有権移転登記申請手続をとる必要があります。
所有権移転登記は、第三者に、自分が所有者であることを主張できるようにするための要件ですから、所有権を得た後は、速やかに所有権移転登記申請手続をとることが重要です。
所有権移転登記は、第三者に、自分が所有者であることを主張できるようにするための要件ですから、所有権を得た後は、速やかに移転登記申請手続をとることが重要です。
売主としては、まだ代金が支払われていないのに、買主に所有権移転登記を備えさせ、自らは登記上の所有者でなくなるのは不安ですから、売買契約の中で、代金全額の受領と同時に所有権移転登記申請手続を行う、といった合意をしておくことがあります。
所有権移転登記申請手続は、基本的には、売主と買主が共同で登記所(法務局等)に申請することになります。売主と買主が、自ら必要書類を揃えて申請することもできますが、重要な手続ですので、実際には、司法書士に依頼して申請することが多いです。
仮に、売主または買主の一方が移転登記申請手続に協力しない場合、手間と費用がかかりますが、裁判所に訴えて、所有権移転登記申請手続をするよう相手方に命じる判決を得たうえで、単独で申請することも可能です。
所有権移転登記申請手続の費用を売主と買主のどちらが負担するかは、売買契約書における合意内容次第です。
登記によって利益を受ける者が負担するという意味では、買主が負担すべきとも言えますが、双方で負担することもあります。
いずれにせよ、後のトラブルを防ぐため、契約書上、費用負担者を明確に定めておくことが望ましいといえます。