隣人による通行~通行地役権の時効取得~
相談事例
土地付きの中古住宅の購入を検討しています。候補の物件は、敷地の端の部分が舗装された通路になっています。隣に住んでいる方が舗装して昔から通行しているらしいのですが、売主によると、通行権を認めるような契約はしていないそうです。
隣の方は別の通路からも道路に出入りしているようで、この通路が必要不可欠というわけでもないようですし、防犯上の問題もありますので、私が購入した後は通路を閉鎖して塀を建てたいと考えています。通路を閉鎖することについては、売主から隣の方に話してもらおうと思っています。
通路部分は売主の所有地であって、隣の方の土地ではないのですから、通路を閉鎖しても問題はないと考えても良いでしょうか。
回答
隣の方が舗装して通路を開設し通行を開始してから20年以上経過している場合、隣の方は「通行地役権」という権利を時効取得している可能性があります。この場合、通路を閉鎖するには隣の方の同意が必要です。
ここがポイント
1.所有地に他人を立ち入らせるかどうかは原則として所有者の自由
自分が所有する土地に他人を立ち入らせるかどうかは、原則として所有者の自由です。隣に住んでいる人が所有者に無断で立ち入って通行することはできません。
(例外的に、隣の土地が袋地の場合に「袋地通行権」という他人の土地を通行できる権利が発生する場合があることについては、2014年11月号「私道をめぐるトラブル~売買前の調査が重要!」をご参照ください。)
所有者が通行を認めた場合は、通行することができます。土地所有者が「私道」を開設して、所有者だけでなく近隣の方も通れるようにしていることも多く見られます。
また、はっきりと通行を認めたわけでなくても、近所の人間関係などから、通行について特に文句も言われず黙認されていることも多いようです。
2.長年の通行と通行権
では、長年他人の土地を通行し続けると、通行する権利(通行権)は発生するでしょうか。これは、他人の土地を長年通行してきた人が「長年通行してきたんだから、これからも通行させよ」と主張できるかどうか、という問題です。
この点については、長年他人の土地を通行したとしても、それだけで通行権が発生するわけではありません。土地の所有者が長年にわたって好意で他人の通行を認めたとしても、通行を認めるかどうかは土地の所有者の自由であり、通行を止めることもできるのが原則です。
3.通行権を認める契約
これに対して、他人に通行を認める契約をした場合には、土地の所有者は契約にしたがって通行を認めなければならない義務を負い、通行する人は契約に基づく通行権をもつことになります。この場合、土地の所有者が勝手に通路を閉鎖して通行できないようにすると、契約違反となってしまいます。
「相談事例」のケースでは、通行権を認めるような契約はしていないようですから、このような場合には当たりません。
4.通行地役権の時効取得
通行を認める契約をしていなくても、通行する権利が発生する場合があります。これが、「通行地役権の時効取得」です。
通行地役権とは、ごく簡単に言うと、他人の土地を通行することができる権利です。
通行地役権は、契約によって設定するのが通常です。しかしながら、①通行する人が自ら他人の土地に通路を開設して、かつ、②通行を20年以上継続すると、通行地役権を時効により取得することができるとされています。通行地役権を時効取得されると、土地の所有者は、通行地役権を時効取得した人の通行を拒否することはできなくなります。
「相談事例」のケースでは、①売主の土地に隣人が舗装して通路を開設したようですから、②それから20年以上通行されているとすれば、通行地役権が時効取得されている可能性があります。
5.通行地役権の対抗力
ところで、隣人が通路を開設するのを認めたのは売主であって、この土地を購入する買主ではありません。買主は、売主がしたことは自分には関係がないと主張して、通路を閉鎖し隣人の通行を拒否することはできるでしょうか。
この点については、次のとおり、買主も通行を拒否することはできないと考えられます。
通行地役権は登記することができ、通行地役権を第三者に対して主張するためには登記することが必要なのが原則です。
しかしながら、買主が土地を購入した時に、その土地が継続的に通路として使用されていることが位置・形状・構造などから客観的に明らかで、かつ、買主がそのことを認識していたか又は認識することができたときは、通行地役権について登記がされていなくても買主は通行を拒否することはできないとされています。
「相談事例」のケースでは、舗装された通路があり、そこを隣人が長年通行していることを買主も知っていますので、隣人が通行地役権の登記をしていなくても、買主は通路を閉鎖し隣人の通行を拒否することはできないと思われます。
6.合意による通路の閉鎖
通行地役権の時効取得がされている場合であっても、通行地役権を取得した隣人と通路の閉鎖について合意できれば、合意に基づき通路を閉鎖することができます。
「相談事例」のケースでは、隣人にとってこの通路が不可欠というわけではないようですから、通路を閉鎖することについて隣人との話合いを行う意味はあると思われます。