盛土規制法案について
令和3年7月、降り続いた大雨によって盛土が崩れ、大規模な土石流災害が発生し、甚大な被害が生じました。
その後の調査により、盛土の点検が必要な箇所が約3万6000箇所にも上ることが明らかにされました。
令和4年3月1日、盛土等による災害から国民の生命・身体を守るため、「盛土規制法案」が閣議決定されました。
この「盛土規制法案」は、正式には、「宅地造成及び特定盛土等規制法」といい、「宅地造成等規制法」を抜本的に改正したものになります。
宅地の売買等においては、宅地建物取引業法及び同法施行令により、「宅地造成等規制法」による制限について、重要事項説明の対象とされています。
取引対象となる土地が「宅地造成等規制法」の制限を受けるかによって、造成工事の仕様や費用が異なり、土地を購入するかどうか、購入代金などの取引条件を決めるのに重大な影響を及ぼすためです。
今回は、宅地の売買等にも関わりの深い、「盛土」等の規制にかかわる「盛土規制法案」をご紹介いたします。
ここがポイント
1 法律改正の背景・必要性
現在は、宅地の安全や森林機能を確保したり、農地を保全したりする目的で、「宅地造成等規制法」、「森林法」、「農地法」などの各種法律が、開発を規制しています。
しかし、各法律はそれぞれの目的に応じて異なる枠組みをとっており、盛土等の規制としては限界がありました。一部の地方公共団体では条例を制定して対応していたものの、危険な盛土等に関する規制が必ずしも十分ではないエリアが存在していたのです。
こうした背景により、危険な盛土等から国民の生命・身体を守るために、土地の用途(宅地、森林、農地等)にかかわらず、危険な盛土等を、全国一律の基準で包括的に規制する法制度が必要になりました。
2 改正案の概要
(1)スキマのない規制を行うしくみ
ア 規制区域
都道府県知事等が、盛土等により人家等に被害を及ぼしうる区域を、規制区域として、指定します。
具体的には、市街地や集落、その周辺など、人家等が存在するエリアについて、森林や農地を含めて、広く指定されます。
また、市街地や集落等からは離れているものの、地形等の条件から人家等に危害を及ぼしうるエリア(斜面地等)も指定されます。
イ 規制対象
こうした規制区域内で行われる盛土等が、都道府県知事等の許可の対象になります。
宅地造成等の際に行われる盛土だけでなく、単に土を捨てる行為や一時的に土を積む行為も規制対象になります。
(2)盛土等の安全性を確保するしくみ
ア 許可基準の設定
盛土等を行うエリアの地形や地質に応じて、災害防止のために必要な許可基準が設定されます。
イ 定期報告、中間検査及び完了検査
上記の許可基準に沿って安全対策が行われているかどうかを確認するため、①施工状況の定期報告、②施工中の中間検査、③工事完了時の完了検査が実施されます。
(3)責任の所在を明確にするしくみ
ア 管理責任
土地所有者等に、盛土等が行われた土地を、常に安全な状態にして維持する責務があることが明確にされています。
イ 監督処分
災害防止のために必要なときは、土地所有者等だけではなく、当該盛土等を行った造成主や工事施工者、過去の土地所有者等も、原因行為者として、是正措置等を命じられる場合があります。
(4)法律が守られるようにするしくみ(実効性のある罰則)
法律がきちんと守られるように、無許可行為や命令違反等に対する懲役刑及び罰金刑が、条例による罰則の上限(懲役2年以下、罰金100万円以下)より高い水準に強化されます。
具体的には、個人への罰則については「3年以下の懲役または1000万円以下の罰金」等、法人への罰則は「3億円以下の罰金」等に引上げられます。
3 まとめ
「盛土規制法案」は、来年夏の施行を目指すものとされています。
宅地の売買に関わりのある法律ですので、動向について着目しておきたいところです。