不動産売買に関する広告規制
不動産業者が売りに出されている土地や建物についての広告を出す際には、守らなければならないルールがあります。このルールは、宅地建物取引業法(宅建業法)という法律や不動産業界の自主規制で定められています。
今回は不動産売買の広告に関しどのような規制が課されているのかをテーマとして取り上げます。
1 虚偽広告、誇大広告の禁止
まず、宅建業法32条は虚偽、誇大広告を禁止しています。
(1) 規制が設けられた趣旨
この規制は昭和42年に設けられました。当時、大都市に人口と産業が集中するようになり、宅地の需要が急激に高まり、焦る消費者の弱みに付け込んだ虚偽、誇大広告が数多くみられるようになりました。土地の所在地を示さず、いかにも駅の近くにあるかのような印象を与える広告や、山林であるにもかかわらず造成工事が完了しているかのように記載している広告などもあったのです。不動産の価格は高額であり、広告の内容を鵜呑みにしがちな一般消費者を保護するために設けられたものです。
(2) 内容
同条は、宅地建物の所在、規模、形質、環境、交通その他の利便、代金の額や支払方法、資金の貸借のあっせんについて、著しく事実に相違する表示(虚偽広告)をしたり、実際のものよりも著しく優良もしくは有利であると誤認させるような表示(誇大広告)をしてはならないと定めています。
虚偽広告の例としては、築後10年以上経過している建物を築後1年と表示したり、地目が農地である土地を宅地として表示する場合などがあります。また、「おとり広告」といって、実際には売却するつもりのない物件や売却できない物件について、非常に安い価格を広告に掲載して顧客を誘引し、来店した顧客には既に売れてしまったと称して他の物件を勧めるような場合も虚偽広告に当たるとされています。インターネット上で成約済みの物件情報を速やかに削除せず掲載を継続する場合もおとり広告に当たるとされています。
誇大広告の例としては、駅までの直線距離は1kmであるものの歩く道のりでは4kmの場合に「駅まで1kmの好立地」とする表示などがあります。
(3) 違反した場合の責任
本条の規定に違反した場合、指示処分や業務停止処分の対象となります。情状が特に重い場合には免許取消処分の対象ともなります。刑罰としては、6月以下の懲役もしくは100万円以下の罰金とされています。虚偽、誇大広告により取引関係者に損害を与えた場合には、不法行為に基づき損害賠償責任を問われることになります。
2 広告の開始時期の制限
また、宅建業法33条は、宅地の造成または建物の建築に関する工事の完了前においては、工事に必要とされる都市計画法上の開発許可や建築基準法上の建築確認等があった後でなければ宅地や建物の売買に関する広告をしてはならないと規定しています。
(1) 規制が設けられた趣旨
この規制は昭和46年に設けられました。マンションや建売住宅、造成宅地を工事未完成の状態で販売することを俗に「青田売り」といいます。これは主として事業主の資金繰りの必要から行われるものです。広告時や契約締結時に工事が完成していないため、完成した宅地や建物が広告の記載と大きく異なっているような事態を避けるため設けられたものです。
(2) 違反に対する措置
本条に違反した場合、指示処分の対象となります。
3 不動産の表示に関する公正競争規約
不動産の表示に関する公正競争規約(表示規約)とは、全国の9つの地域の不動産公正取引協議会が定めた不動産の広告についての自主的なルールです。一般消費者の自主的かつ合理的な選択及び事業者間の公正な競争を確保するために定められ、景品表示法31条1項に基づき、内閣総理大臣および公正取引委員会の認定を受けたものです。
表示規約は、不動産広告の表示等について細かい詳細なルールを定めています。本コラムで全てを取り上げることはできませんが、主なルールを紹介します。
(1) 必要な表示事項(8条)
事業者は、物件の表示をするときは、物件の種別ごとに、
①広告主に関する事項
②物件の所在地、規模、形質その他の内容に関する事項
③物件の価格その他の取引条件に関する事項
④物件の交通その他の利便及び環境に関する事項
について、見やすい場所に、見やすい大きさ、見やすい色彩の文字により、分かりやすい表現で明りょうに表示しなければならないとしています。
(2) 物件の内容・取引条件等を表示する場合の基準(15条、規則10条)
取引態様 | 「売主」、「貸主」、「代理」又は「媒介(仲介)」の別をこれらの用語を用いて表示する。 |
物件の所在地 | 都道府県(県庁所在地、政令指定都市及び特別区の場合は省略可)、郡、市区町村、字及び地番を表示する |
交通の利便性 | 鉄道の最寄りの駅の名称及び駅からの徒歩所要時間を明示して表示する。 鉄道の最寄駅からバスを利用するときは、最寄駅の名称、最寄駅から最寄りのバスの停留所までのバス所要時間及び同停留所からの物件までの徒歩所要時間を明示して表示する |
各種施設までの距離又は所要時間 | 道路距離又は所要時間を表示するときは、起点及び着点を明示して表示する。 徒歩による所要時間は、道路距離80メートルにつき1分間を要するものとして算出した数値を表示する。 |
面積 | 面積は、メートル法により表示する 土地の面積は、水平投影面積を表示する。 建物の面積は、延べ面積を表示し、これに車庫、地下室等の面積を含むときは、その旨及びその面積を表示する。 |
写真・絵図 | 宅地又は建物の写真は、取引するものの写真を用いて表示する。 |
設備・施設等 | 上水道は、公営水道、私設水道又は井戸の別を表示する。 ガスは、都市ガス、LPガス集中方式又はLPガス個別方式等の別を明示して表示する。 |
生活関連施設 | 学校、病院、官公署、公園その他の公共・公益施設は、現に利用できるものを表示する。物件までの道路距離を明示する。 |
価格 | 土地の価格については、上下水道施設・都市ガス供給施設の設置のための費用その他宅地造成に係る費用を含めて表示する。 住宅の価格については、1戸当たりの価格(敷地の価格及び建物に係る消費税等の額を含む)を表示する。 |
(3) 原則使用してはいけない用語
抽象的な用語や他の物件または他の不動産会社と比較するような次の用語は表示内容を裏付ける合理的な根拠がある場合を除き、その使用が禁止されています。
「完全」、「完ぺき」、「絶対」、「万全」等 | 物件の形質その他の内容又は役務の内容について、全く欠けるところがないこと又は全く手落ちがないことを意味する用語 |
「日本一」、「日本初」、「業界一」、「超」、「当社だけ」、「他に類を見ない」、「抜群」等 | 物件の形質その他の内容、価格その他の取引条件又は事業者の属性に関する事項について、競争事業者の供給するもの又は競争事業者よりも優位に立つことを意味する用語 |
「特選」、「厳選」等 | 物件について、一定の基準により選別されたことを意味する用語 |
「最高」、「最高級」、「極」、「特級」等 | 物件の形質その他の内容又は価格その他の取引条件に関する事項について、最上級を意味する用語 |
「買得」、「掘出」、「土地値」、「格安」、「投売り」、「破格」、「特安」、「激安」、「バーゲンセール」、「安値」等 | 物件の価格又は賃料等について、著しく安いという印象を与える用語 |
「完売」等 | 物件について、著しく人気が高く、売行きがよいという印象を与える用語 |