契約不適合責任の免責特約について
相談事例
私が購入した建物の売買契約書には、契約不適合に関する売主の責任をすべて免責する内容の特約があります。この建物に、漏水などの契約不適合があることが分かりましたが、売主は、免責特約があることを理由に修補などの対応をしてくれません。そもそも、このような免責特約は有効なのでしょうか。免責特約の効力が法律上制限されることはないのですか。
解説
1 免責特約の有効性
民法上、売買契約の目的物について、契約不適合(引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないこと)がある場合には、買主は、売主に対し、目的物の修補や損害賠償などの契約不適合に関する責任を追及することができます。
このような売主の民法上の責任については、当事者間の特約によって、免除したり軽減したりすることができることから、本件のような免責特約は原則として有効です。
もっとも、以下のとおり、法律上、免責特約の効力が制限される場合があります。
2 民法による制限
本件のような免責特約をしたときであっても、売主は、知りながら告げなかった事実等については、その責任(民法562条1項本文等に規定する場合における担保の責任)を免れることができません(民法572条)。このような不誠実な売主が、免責特約を理由に責任を免れることは信義に反するからです。
そのため、本件建物の漏水などの事実について、売主が知っていたにもかかわらず買主に告げていなかった場合には、免責特約があったとしても、売主は修補などの責任を免れることはできません。
なお、これに関連して、売主が、事実を知らなかったものの、知らなかったことについて過失がある場合に、免責特約による免責が認められるかどうかについては、下級審判例の判断は分かれています。
3 特別法による制限
(1) 消費者契約法
売主が株式会社などの事業者であり、買主が消費者である場合には、本件の免責特約は消費者契約法により無効になる可能性があります。
例えば、本件の免責特約は、契約不適合による売主の損害賠償責任の全部を免除するものであるところ、消費者契約法8条1項1号は、「事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除」する条項を無効としています。
ただし、この規定については種類・品質に関する契約不適合についての例外があり、同条2項各号に該当する場合(他の事業者が、損害賠償の責任を負い、又は履行の追完をする責任を負うこととされている場合等)には、同条1項1号は適用されない(この規定により無効とされることはない)ことになります。
(2) 宅地建物取引業法(宅建業法)
宅地建物取引業者(宅建業者)は、自ら売主となる宅地又は建物の売買契約において、種類又は品質の契約不適合の場合における売主の担保責任に関し、民法566条に規定する期間について目的物の引渡しの日から2年以上となる特約をする場合を除き、同条に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならないとされています(宅建業法40条1項)。
そして、前記規定に反する特約は、無効になります(同条2項)。なお、この規定は、売主と買主の双方が宅建業者である場合には適用がありません。
したがって、本件において、売主が宅建業者で、買主が宅建業者ではない場合には、本件の免責特約は、種類又は品質に関する契約不適合の責任を免責するものであり(宅建業法が許容する内容の特約ではない)、買主に不利となる特約であることから、宅建業法により無効になります。
(3) 住宅の品質確保の促進等に関する法律(住宅品質確保法)
住宅品質確保法は、同法における「瑕疵」を、「種類又は品質に関して契約の内容に適合しない状態をいう」と定めています。そして、新築住宅の売買契約においては、売主は、買主に引き渡した時から10年間、住宅の構造耐力上主要な部分等の瑕疵について、民法に定める契約不適合に関する責任を負う旨を定めています(住宅品質確保法95条1項)。そして、この規定に反する特約で買主に不利なものは、無効とされます(同条2項)。
したがって、本件が新築住宅の売買契約であり、住宅の構造耐力上主要な部分等の瑕疵を免責の対象とする特約であるならば、当該特約は住宅品質確保法の前記規定に反し買主に不利なものであるため、無効になります。
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