水害リスクに関する重要事項説明について
相談例
ある土地を購入するつもりなのですが、水害リスクが気になります。購入にあたっては、不動産業者から水害リスクに関する説明を受けられるのでしょうか。
ここがポイント
宅地建物取引業法(以下「宅建業法」といいます。)施行規則(以下「施行規則」といいます。以下、宅建業法及び施行規則をあわせて「宅建業法」ということがあります。)が改正され、水害リスクに関する説明が重要事項説明の対象項目に追加されました。
したがって、宅地建物取引業者(以下「宅建業者」といいます。)は、消費者である買主に対し、水害リスクについて説明することを義務付けられることになりました(令和2年8月28日から施行)。
今回は、この改正について、ご説明いたします。
1.重要事項説明について
宅建業法では、宅建業者は、買主に対し、取得しようとしている宅地または建物について、売買契約が成立するまでの間に、宅地建物取引士をして、少なくとも第35条第1項に掲げる事項(重要事項)について、これらの事項を記載した書面を交付して説明をさせなければならないとされています(2020年4月号「重要事項説明書」とは何か、ご参照)。
2.水害リスクに関する重要事項説明について
(1)改正の経緯および内容について
宅建業法では、土砂災害リスクや津波災害リスクについては重要事項説明の対象とされ、取引の対象となる宅地または建物が土砂災害警戒区域内や津波災害警戒区域内にあるときは、その旨を説明することが義務付けられていました。
これに対し、水害リスクについては、宅建業法には定めがありませんでした。
近年、平成30年7月豪雨や令和元年台風19号など、甚大な被害をもたらす大規模な水害がたびたび起きていることを受けて、水害リスクに関する情報が、不動産に関する契約を締結するかどうかの意思決定する上で、重要な要素になってきています。
そのため、国土交通省は、宅建業者が不動産取引時にハザードマップを提示し、取引の対象となる宅地または建物の位置等について情報提供するよう、不動産関連団体を通じて協力を依頼していたところでした。
さらに、今般、宅建業法が改正され、宅建業者は、「水防法」に基づき作成された「水害ハザードマップ」を活用して、水害リスクに関する説明を行うことが義務付けられました(施行規則第16条の4の3第3号の2)。
※水防法
洪水、雨水出水(一時的に大量の降雨が生じた場合において下水道その他の排水施設に当該雨水を排除できないこと、または下水道その他の排水施設から河川その他の公共の水域もしくは海域に当該雨水を排除できないことによる出水のことをいいます。)、津波または高潮に際し、水災を警戒し、防御し、これによる被害を軽減することで、公共の安全を保持することを目的とした法律
※水害ハザードマップ
水防法第15条第3項・水防法施行規則第11条第1号に基づいて市町村の長が提供する水害(洪水、雨水出水、高潮)ハザードマップ
(2)具体的な説明内容、方法について
宅建業者は、水害ハザードマップに、取引の対象となる宅地または建物の位置が含まれている場合は、消費者である買主に対し、当該水害ハザードマップにおける当該宅地または建物の所在地(概ねの位置)を示して、説明しなければなりません。
宅建業法は、宅地または建物の位置の具体的な示し方を明確には定めていませんが、例えば、水害ハザードマップを示した上、当該宅地または建物の場所を指し示す、水害ハザードマップ上において当該宅地または建物に印をつける等の方法が考えられます。
以上に対し、宅建業者が市町村に照会し、取引の対象となる宅地または建物の位置を含む水害ハザードマップの全部または一部が作成されていないこと、あるいは印刷物の配布もしくはホームページ等への掲載等がされていないことを確認した場合は、消費者である買主に対し、提示すべき水害ハザードマップがないことを説明する必要があります。
なお、今回の改正で設けられた説明義務は、水害ハザードマップに記載 されている内容の説明までを義務付けるものではありませんが、水害ハザードマップが地域の水害リスクと水害時の避難に関する情報を住民等に提供するものであることに鑑み、水害ハザードマップに記載された避難所の位置についても、あわせて示すことが望ましいとされています。
また、水害ハザードマップ上の浸水想定区域に該当しないことをもって水害リスクがないと買主が誤解しないように配慮すること、水害ハザードマップに記載されている内容は今後変更される場合があることを補足することが望ましいとされています(以上については、改正後の国土交通省「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」を参照しています。)。
3.まとめ
相談例の場合、購入予定の土地が存する市町村が提供する水害ハザードマップに関し、不動産業者(宅建業者)から、宅建業法に基づいた説明を受けることができます。
もっとも、水害ハザードマップの記載内容の詳細については、水害ハザードマップを作成した各市町村に問い合わせを行って確認する必要があります。