賃借人が入居している建物の売却と「賃貸人たる地位の留保」
相談事例
賃借人のいるマンションを所有していますが、売却することにしました。売却の後、買主から私(売主)にそのマンションを賃貸(リースバック)してもらい、賃借人との賃貸借関係は引き続き私(売主)の方で継続したいと考えています。そのようなことはできますか。
回答
マンションの売買後も売主が賃貸人たる地位を留保し、賃借人との賃貸借関係を継続するためには、原則として賃借人の承諾が必要です。
2020年4月1日の改正民法施行後は、売主と買主の間で、①賃貸人たる地位を売主に留保すること、及び、②買主がそのマンションを売主に賃貸すること(リースバックすること)を合意すれば、賃借人の承諾がなくても賃貸人たる地位を売主に留保し、売主が賃借人との賃貸借関係を継続することができます。
ここがポイント
1.現行民法
賃借人がいる建物(正確には、賃借人が引渡しを受けている建物)を売買した場合、原則として買主が賃貸人となり、売主は賃貸人ではなくなります。これを、「賃貸人たる地位」が売主から買主に移転する、といいます。
この点については、2017年10月号「賃借人が入居している建物を購入する場合の注意点」をご覧ください。
このような原則には、特段の事情があれば例外が認められると思われる判例があります(最判H11.3.25)。しかしながら、売主と買主の間で「売主が賃貸借関係を継続する」と合意しただけでは例外とは認められず、どのような場合に例外が認められるのか明確ではありません。
そのため、売買の後も売主が賃貸人たる地位を持ち続ける(賃貸人たる地位を売主に留保する)必要がある場合は、全ての賃借人に承諾をお願いしているのが実情です。
しかしながら、多数の賃借人がいる物件の場合、全ての賃借人の承諾を得るのは大変手間がかかります。
所有している不動産について「資産の流動化」といわれる活用を行う場合など、売主が賃貸人たる地位を留保する必要性がある場合が考えられますが、全ての賃借人の承諾を得なければならない負担が問題とされてきました。
2.改正民法
2020年4月1日に施行される改正民法では、建物などの不動産の売主と買主の間で、①賃貸人たる地位を売主に留保すること、及び、②買主がその不動産を売主に賃貸すること(リースバックを行うこと)を合意すれば、賃借人の承諾がなくても、賃貸人たる地位を売主に留保し、売主が賃借人との賃貸借関係を継続することができることとされました(改正民法605条の2第2項前段)。
この場合、新たに建物などの不動産の所有者となった買主が売主に賃貸し、売主が賃借人に賃貸(転貸)する形になります。
ここで、売主と買主が売主・買主間の賃貸借契約を終了して賃借人に明渡しを求めることができるとすれば、賃借人が不当な不利益を受けることになってしまいます。
そのようなことにならないよう、売主と買主の間の賃貸借契約が終了したときは、売主に留保されていた賃貸人たる地位は買主に移転し、買主と賃借人との間に賃貸借関係が生じることとされました(改正民法605条の2第2項後段)。
以上のように、改正民法では、賃借人を守るルールも用意した上で、売主に賃貸人たる地位を留保するルールが設けられます。