「公拡法」による「土地の先買い」
「公拡法」とは、「公有地の拡大の推進に関する法律」の略称です。昭和47年に地方公共団体による公有地の拡大の計画的な推進を図り、地域の秩序ある整備と公共の福祉の増進を目的として制定されました。公拡法が定めている「土地の先買い」の制度は、土地を売却しようとする土地所有者に適用されるルールです。今回は、この「土地の先買い」について解説します。
1 「土地の先買い」とは
「土地の先買い」とは、特定の要件に該当する土地について、土地所有者が土地を有償で譲渡しようとする場合に「届出」義務を課し、また、地方公共団体に対する土地の売渡を希望する場合に「申出」を可能にすることにより、その土地を必要とする地方公共団体等に買取りの協議の機会を付与する制度です。
土地所有者から届出や申出があり、その土地の買取りを希望する地方公共団体があった場合には、届出や申出をした者に買取り協議を行う旨が通知され、買取り協議が行われます。協議がまとまれば、地方公共団体との間で売買契約が成立することになります。
2 土地を譲渡しようとする場合の届出義務
特定の要件に該当する土地を所有する者は、その土地を有償で譲り渡そうとする場合、土地の所在及び面積、譲渡予定価額、譲り渡そうとする相手方等について、都道府県知事や市長に届出をしなければなりません。
(1) 届出義務が課される土地は次に掲げる土地です。
① 都市計画施設の区域内に所在する土地
※土地区画整理事業を除く
② 都市計画区域内に所在する土地で次に掲げるもの
イ 道路法により道路の区域として決定された区域内の土地
ロ 都市公園法により都市公園を設置すべき区域として決定された区域内の土地
ハ 河川法により河川予定地として指定された土地
※土地区画整理事業を除く
③ 土地区画整理促進区域内の土地についての土地区画整理事業の区域内の土地
④ 住宅街区整備事業の施行区域として定められた土地の区域内の土地
⑤ 生産緑地地区の区域内の土地
⑥ ①~⑤以外の土地で、
イ 市街化区域内の土地
ロ 大都市地域における宅地開発及び鉄道整備の一体的推進に関する特別措置法に定める重点地域内の土地
ハ 上記以外の都市計画区域内の土地
上記の土地が以下の表の面積要件に該当する場合に届出が必要となります。
都市計画区域内 | 都市計画区域外 | |||
市街化区域内 | 市街化調整区域内 | 非線引き区域 | ||
① | 200m2以上 | 200m2以上 | 200m2以上 | 200m2以上 |
② | 200m2以上 | 200m2以上 | 200m2以上 | |
③ | 200m2以上 | 届出不要 | 届出不要 | 届出不要 |
④ | 200m2以上 | 届出不要 | 200m2以上 | 届出不要 |
⑤ | 200m2以上 | 届出不要 | 届出不要 | 届出不要 |
⑥イ | 5000m2以上 | |||
⑥ロ | 5000m2以上 | 届出不要 | 5000m2以上 | 届出不要 |
⑥ハ | 届出不要 | 届出不要 | 10000m2以上 |
(2) 「土地を有償で譲り渡そうとするとき」とは
有償による譲渡には、通常の売買のほかに、代物弁済、交換など契約に基づく有償の譲渡が含まれます。また、「譲り渡そうとするとき」ですので、売買の予約や代物弁済の予約も該当します。
信託受益権の譲渡については、通常、所有権の移転を伴わない一種の債権譲渡ではありますが、中には所有権の移転を伴う譲渡もあることから、届出が必要か否かは、信託受益権譲渡の契約内容を踏まえて判断するとされています。例えば、信託期間中や終了時に受益者が土地所有権を享受する権利が設定されている場合、信託受益権の譲渡が、実質的に土地の売買と同視しうることから、土地の有償譲渡に該当し、届出が必要と考えられています。また、受託者が信託財産である不動産を売却するときは、受託者からの届出が必要であると考えられています。
(3) 届出をしなかった場合の効果
届出義務の違反者は、50万円以下の過料に処されることになります。
ただし、土地の有償譲渡が公拡法の届出義務に違反して行われた場合であっても、その契約は私法上有効であると考えられています。
3 地方公共団体等に対する土地の買取り希望の申出
前述の届出義務が課される土地やその他都市計画区域内の土地を所有する者は、その土地の地方公共団体等による買取りを希望するときは、都道府県知事や市長に対し、その旨を申出ることができます。申出をするための面積的要件は200㎡以上とされていますが、都道府県や市の規則で100㎡以上まで引き下げることが可能となっています。
この申出をした者については、前述の届出に関する規制は、後述6の起算日から1年間適用しないとされています。
4 土地の買取りの協議
都道府県知事または市長は、2の届出または3の申出(以下「届出等」といいます。)に対し、買取りを希望する場合には、3週間以内に、協議をする地方公共団体を定めて、買取りの協議を行うことを通知することとされています。また、買取りを希望する地方公共団体がないときは、直ちにその旨を通知しなければなりません。
買取り協議の通知を受けた者は、正当な理由がなければ、協議を拒んではならないとされています。
協議とは、地方公共団体と土地の買取りについて交渉をすることです。私人間の売買交渉と同じです。土地の買取り協議では、届出等のあった土地の一部についてのみ協議を行うこともあります。協議において、買取り価格や買取り面積などの条件面で折り合いがつかなければ、協議は不成立となります。協議を拒んではならないとありますが、条件面で譲歩しなければならないということではありません。
なお、協議内容は、土地の買取りに限られ、地方公共団体に代替地の提供を求めることはできません。
5 土地の買取り価格
地方公共団体は、届出等に係る土地を買い取る場合には、公示価格を規準として算定した価格となります。公示区域外の場合には、近傍類似の取引価格や買取る土地の位置、地積、環境などの諸状況を勘案して算定した正常な取引価格としなければならないとされています。
6 土地の譲渡の制限
届出等をした者は、次の区分に応じて、それぞれに掲げる日や時までの間、その土地を地方公共団体以外の者に譲り渡すことが禁止されます。
① 買取りの協議を行うとの通知があった場合には、その日から起算して3週間を経過する日(その期間内に土地の買取りの協議が成立しないことが明らかになったときは、その時)
② 買取りを希望する地方公共団体がないとの通知があった場合には、その通知があった時
③ 届出等から3週間以内に①や②の通知がなかった場合には、届出等をした日から3週間を経過する日
上記の「買取りの協議が成立しないことが明らかになったとき」とは、例えば、土地の所有者が地方公共団体の提示した価格では売る意思がない旨を示し、地方公共団体がその価格以上では買う意思がない旨を示し、土地の所有者がその意思を知った時などが該当します。当事者の一方が「成立しない」と考えているだけでなく、双方において「成立しない」と理解していることが必要です。
7 先買いに係る土地の活用
以上のような先買いの手続により買い取られた土地は、相当の公共性・公益性を有する目的のために使用されることが義務付けられています。かかる目的の範囲内であれば、当初の買取り目的とは異なる用途に使用することも可能とされています。