不動産売買のときに気をつけること~相続土地国庫帰属法、「共有」の令和3年民法改正など
不動産売買に際し、留意しなければならない事項として、今回は「相続土地国庫帰属法」「共有の令和3年民法改正」をとりあげます。
ここがポイント
1 前月のこのコーナーで「隣地との関係にかかわる民法の規定が改正されました」というテーマをとりあげました。
その際「なお、所有者不明土地問題に対応するために、相隣関係規定以外の民法の規定(共有関係、相続財産の管理制度、遺産分割など)や不動産登記法(相続登記の義務化)など、広範囲にわたって法律が改正」されていることが述べられました。
今月は、その前月に引き続き、「令和3年民法改正」のうち「共有関係」の改正、と新法「相続土地国庫帰属法」について、お話しさせていただきます。いずれも、令和3年4月21日に成立し、同月28日に公布されました。
2 「相続土地国庫帰属法」について
(1) 「相続土地国庫帰属法」の正確な名称は、「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」といいます。
この新法の施行日は、現時点(令和3年9月)では決まっていません。法律の公布日(令和3年4月28日)から2年以内の政令で定める日から施行、となっていますので、2023年(令和5年)4月までには施行される見込みです。
(2) 新法「相続土地国庫帰属法」によって、次のような仕組みが創設されました。
すなわち、「相続」または「相続人に対する遺贈」(以下「相続等」といいます)によって、土地の所有権又は共有持分を取得した者が、法務大臣に対し、その土地の所有権を「国庫に帰属させること」についての承認を申請することができ、法務大臣がその申請を承認すれば、その土地の所有権を国庫に帰属させることができるという制度が創設されたのです。
これまで、相続放棄がなされたあと、相続人が判明しない場合や、相続財産の特別縁故者への分与などの処分もなされなかったり、相続財産の残余財産がある場合、最終的にはそれは国庫に帰属する、という民法959条の仕組みはありました。
しかしながら、相続放棄というのは、資産も負債も全て承継せず、初めから相続人とならなかったものとみなされるものであり、不要な不動産だけを相続放棄することはできません。
そうしたことから、相続を契機として、土地を望まず取得した土地所有者がいます。地方にある実家や農地・山林などを相続したが、買い手や借り手もみつからず、収益も期待できない、他方、所有しているだけでも管理費用や税金などのコストがかかる、ということで、管理の不全化から、所有者不明土地の問題となってきます。
以上のような、相続等による土地の所有者に、不要な土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする制度を創設したのです。
(3) 以上のような制度趣旨ですが、通常の管理・処分をするに当たり、過分の費用・労力を要するような土地は、国庫帰属を承認されません。土地の管理コストの国への不当な転嫁となりますし、モラルハザードの発生にもなるからです。
具体的には次のとおりです。
① そもそも、その土地が、次のいずれかに該当する場合は、相続等土地所有者は、承認申請ができません(法2条3項)。
(ⅰ) 建物の存する土地
(ⅱ) 「担保権」又は「使用及び収益を目的とする権利」が設定されている土地
(ⅲ) 通路その他の「他人による使用が予定される土地として政令で定めるもの」が含まれる土地
(ⅳ) 土壌汚染対策法2条1項に規定する特定有害物質により汚染されている土地
(ⅴ) 境界が明らかでない土地その他の所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地
以上の(ⅰ)から(ⅴ)のいずれかに該当する場合は、承認申請ができないもの であり、もし、承認申請されても、法務大臣は、承認申請を「却下」しなければなりません(法4条)。
② さらに、「却下」要件がなくても、次のような「不承認」要件がないことが必要です。
法5条は、「法務大臣は、承認申請に係る土地が次の各号のいずれにも該当しないと認めるときは、その土地の所有権の国庫への帰属についての承認をしなければならない」と定めていますが、逆にいえば、「次の各号のいずれ」かに該当する場合は、法務大臣は、「不承認処分」をすることになります。法務大臣が「不承認処分」をする「次の各号」とは次のように定められています。
(ⅵ) 崖(勾配、高さその他の事項について政令で定める基準に該当するものに限る)がある土地のうち、その通常の管理に当たり過分の費用又は労力を要するもの
(ⅶ) 土地の「通常の管理又は処分」を阻害する「工作物、車両又は樹木その他の有体物」が「地上」に存する土地
(ⅷ) 除去しなければ土地の「通常の管理又は処分」をすることができない有体物が「地下」に存する土地
(ⅸ) 隣接する土地の所有者その他の者との争訟によらなければ「通常の管理又は処分」をすることができない土地として政令で定めるもの
(ⅹ) 前各号に掲げる土地のほか、「通常の管理又は処分」をするに当たり過分の費用又は労力を要する土地として政令で定めるもの
③ 相続等土地所有者は、承認申請をする際、申請手数料を納付します。
また、その後、法務大臣は承認申請の要件審査のため、職員に実地調査や承認申請者その他の関係者から事実聴取、資料提出を求めるなど調査をすることができます。
④ 要件審査を経て法務大臣の承認を受けた者は、国有地の種目ごとにその管理に要する10年分の標準的な費用の額を考慮して「政令で定めるところにより」算定した額の負担金(地目、面積、周辺環境等の実情に応じて対応するよう詳細は政令で定められます)を納付しなければなりません(法10条1項)。承認申請者が負担金の額の通知を受けた日から30日以内に、法務省令で定める手続に従い、負担金を納付しないときは「承認」は効力を失います(10条3項)。
3 次に、令和3年民法改正において「共有」について、どのような法改正があったかを見ていきましょう。
(1) これまでの現行(改正前)の「共有」の変更・管理のルールにおいて、各共有者は、持分に応じて共有物を使用することができますが、共有者相互の関係を調整するため、次のようなルールでした。
①共有物に「変更」を加えるには、共有者「全員の同意」が必要です。
②共有物の「管理」に関する事項は、各共有者の持分の価格の過半数で決します。
③共有物の「保存行為(補修など)」は、各共有者が「単独」ですることができます。
以上のルールは、相続によって遺産に属する財産が相続人に共有されている場合(遺産共有)にも適用されます。
(2) ところが、これら民法の「共有」の変更・管理のルールは、社会経済情勢の変化にあわせて合理的なものに改正する必要があるということから、今回の令和3年民法改正の「共有」の変更・管理のルールの変更となったのです。
見直しの契機となったのは「所有者不明土地問題」です。
相続登記が長年されていない土地について、相続人が多数に上ることや相続人の一部の所在等が不明となっているケースがあります。
この場合、遺産共有の「変更・管理」に必要な同意を取り付けることが困難で、土地の利用に支障をきたすことがありました。
また、これらは遺産共有に限りません。共有についての民法が制定されてから長期間経過しておりますが、社会経済上の変化に伴い、共有者が土地の所在地から遠く離れていたり、共有者間の人的関係が希薄化されたりして、共有者間で決定を得ることが困難となることもありました。
以上の問題は、相続された土地に限らず、共有物一般に発生し得ることです。そのようなことから、令和3年民法改正において、「共有物」の「変更・管理」に関する見直しをすることになったのが「共有」の令和3年民法改正の趣旨です。
(3) 例えば、前述の(1)①のとおり、共有物の「変更」には共有者「全員の同意」が現行法で必要でしたが、令和3年改正法により、「共有物に変更を加える行為」であっても「形状又は効用の著しい変更を伴わないもの(軽微変更)」については、「共有者全員の同意」は必要なく、持分の価格の過半数で決定することができるようになりました。
また、裁判所が一定期間の公告を行った上で、「不明共有者以外の他の共有者の同意」を得て共有物に「変更」を加えることができる旨の裁判を行うこともできるようにしました。
共有物の「管理」に関する事項については、裁判所が一定期間の公告や通知を行った上で、不明共有者や催告をしても賛否を明らかにしない共有者を除いた共有者の持分の過半数で決することができる旨の裁判を行うことができるようにしました。これは、共有物の管理に関心を持たず、連絡をとっても明確な返答をしない共有者がいる場合には共有物の管理が困難になるという問題があったための改正です。
(4) 以上のような、「共有」を維持する前提の「管理・変更」のルールの変更のほかに、令和3年改正では、「共有関係」の「解消」のルールの変更も行われました。
① 改正法258条の2の1項は、共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で、当該共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、当該共有物又はその持分について前条の規定による分割をすることができない、と定めました。
しかし、続く同条の2項は、共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始の時から10年を経過したときは、前項の規定にかかわらず、相続財産に属する共有物の持分について前条の規定による分割をすることができる。ただし、当該共有物の持分について遺産の分割の請求があった場合において、相続人が当該共有物の持分について同条の規定による分割をすることに異議の申出をしたときはこの限りでない、と定めています。
相続開始から10年間、遺産分割未了で放置されたままである場合、遺産分割をせずに共有物分割だけをして共有解消ができることになったのです。
② 以上のほかにも、不動産が数人の共有に属する場合において、所在等不明共有者の持分を、他の共有者の請求により、(ⅰ)その共有者に裁判所が持分を取得させる裁判をすることができる(所在等不明共有者の持分の取得・民法262条の2)仕組みや、(ⅱ)「所在等不明共有者以外の共有者全員」が「特定の者」に対して持分全部を譲渡することを停止条件として、所在等不明共有者の持分を当該「特定の者」に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができる(所在等不明共有者の持分の譲渡・民法262条の3)仕組みも改正法によって認められました。