「インスペクション」(建物状況調査)が開始されます
相談例
予算の関係で中古住宅の購入を考えていますが、建物の劣化や雨漏りなどが心配です。調べてみたところ、中古住宅についてプロが調査してくれる「インスペクション」というものがあるそうですね。
私の場合もそれを使うことができるのでしょうか。
仮に使うことができるとして、どれくらいの時間や費用がかかるのでしょうか。その他に注意しておくことがあれば教えてください。
ここがポイント
1.インスペクション(建物状況調査)とは
一般に、インスペクションとは、既存建物の売買にあたって、専門家が調査して建物の状態を把握することをいいます。
相談例のように、中古住宅(既存住宅)を購入する場合、購入者は住宅の品質に不安を抱えている場合が少なくないと思われます。
もっとも、既存住宅は個人間で売買されることが多く、個人(消費者)である買主が売買契約前に建物を内覧したとしても、建物のどういった点を見れば劣化などを知ることができるのか分からず、建物の正確な状況を確認できないまま契約してしまうということになりがちです。
また、売主も個人(消費者)である場合、建物の状況についての情報を適切に提供できるとは限りません。
このように、建物についての正確な情報が提供されないことが、既存住宅の取引を妨げる要因となっているといわれていました。
そこで、取引の専門家である宅建業者が依頼者に対してインスペクションの活用を促し、取引が広がるように、宅地建物取引業法(宅建業法)が改正されました。
具体的には、既存住宅の基礎、外壁など建物の構造耐力上主要な部分や、雨水の浸入を防ぐ部分についての状況を、国が定めた講習を修了した建築士が調査する制度(建物状況調査制度)が設けられました。
この制度の活用により、既存住宅の品質に関する正確な情報が購入者などに事前に提供され、既存住宅の取引が広がることが期待されています。
なお、これまで民間の事業者によって提供されてきたサービスをインスペクションと呼ぶことが多かったので、法律ではこれと区別するために「建物状況調査」という言葉が使われています。
2.建物状況調査のメリット
建物状況調査を実施することは義務ではありませんが、次のようなメリットがあります。
まず、調査時点での建物の状況を把握した上で取引を行うことができるため、取引後のトラブル発生を予防することが期待できます。
また、住宅購入後に建物状況調査の結果を参考にしてリフォームやメンテナンスなどを行うこともできます。
さらに、住宅瑕疵(かし)担保責任保険法人の登録を受けた検査事業者の検査人が調査を行った結果、劣化がないとされた場合など、一定の要件を満たす場合には、保険(既存住宅売買瑕疵保険)に加入することができます。
3.調査の対象、方法など
建物状況調査の対象となるのは、既存住宅です。戸建て住宅だけでなくマンションやアパートといった共同住宅も対象になります。
また、賃貸物件も含まれます(なお、本コラムでは売買の例を前提に説明させていただきます)が、店舗や事務所は含まれません。
なお、マンションの場合、共有部分も調査の対象となりますので、あらかじめ管理組合の了解を得る必要があります。
また、購入を希望する方の依頼で建物状況調査を実施する場合、あらかじめ売主の承諾を得る必要があります。
調査の方法は、基本的に、対象を破壊せずに目で見て行う検査により行われます。そのため、例えば、敷地の地中についての調査などは含まれませんので、ご留意ください。
4.調査に必要な時間や費用について
建物状況調査を行うのに必要な時間については、住宅の規模などにもよりますが、3時間程度が見込まれます。
次に、費用についてですが、とくに基準が決められているわけではなく、調査実施者によって異なってきます。なお、調査費用は、建物状況調査を依頼した方が負担するのが一般的であるとされています。
調査実施者については、国土交通省のウェブサイト(国土交通省のサイトにリンクします)に情報サイトが設けられていますので、実際の調査に必要な時間や費用については、調査実施者にお問い合わせください。
5.建物状況調査の開始によって不動産売買はどう変わる?
売主や購入を希望する方は、不動産売買の取引を申し込まれると、
(1)仲介業者との間で媒介契約を取り交わし、(媒介契約時)
(2)重要事項の説明を受け、(重要事項説明時)
(3)売買契約を取り交わす(売買契約時)
ことになります。
建物状況調査制度が始まったことによって、それぞれ次の点が変わってきます。
(1)媒介契約時
まず、媒介契約書に「建物状況調査を実施する者のあっせんの有無」が記載されます。
この「建物状況調査を実施する者のあっせん」とは、売主または購入を希望する方と建物状況調査の実施者との間で、実施に向けた具体的なやりとりが行われるように宅建業者が手配することをいいます。
(2)重要事項説明時
①建物状況調査の有無、調査結果の概要について
次に、宅建業者は、重要事項の説明として、建物状況調査を実施しているかどうかについて説明を行います。
調査を実施している場合、宅建業者はさらに「建物状況調査の結果の概要」について説明を行うことになります。
ここにいう「建物状況調査の結果の概要」とは、建物状況調査を実施した建築士が作成した書面のことです。調査の対象となった部分ごとに劣化が発生しているかどうかといった内容が記載されます。
なお、建物状況調査は、あくまでも既存住宅の状況を調査した結果を報告するものであって、既存住宅に瑕疵(かし)がないことを保証するものではありませんので、ご留意ください。
②書類の保存の状況について
以上のような説明に加え、宅建業者は、設計図書、点検記録といった書類が保存されているかどうかを説明することになります。
(3)売買契約時
売買契約時には、宅建業法に定められた事項が記載された書面が交付されます(宅建業法の37条に定められているため、「37条書面」と呼ばれています)。
建物状況調査が実施され、建物状況調査の結果の概要について説明された場合、37条書面に「当事者の双方が確認した事項」として記載されることになります。
6.まとめ
以上のとおり、建物状況調査は、その対象や不動産売買との関係などについて専門的な内容を含むものです。
中古住宅の売買や賃貸を考えておられる方で、建物状況調査に興味をお持ちの方は、仲介業者や弁護士などの専門家に相談されてみてはいかがでしょうか。