買戻特約付き売買とは?
相談例
ある不動産の購入を検討しているのですが、その不動産の登記を見てみたところ、「買戻特約」という記載があるのを見つけました。これはどういったものなのでしょうか。
また、「買戻特約」が付いている不動産を購入する際にはどういったことに注意すればよいでしょうか。
ここがポイント
1.民法上の買戻しとは
(1)「買戻し」という言葉は、取引界において色々な意味で使われています。
民法上の買戻しの他にも、後ほど説明いたします「再売買の予約」や、「譲渡担保」の意味で使われていることもあります。そこで、「買戻し」という言葉がどのような意味で使われているのかを慎重に検討することが必要になります。
民法上の「買戻し」とは、一度行った売買契約を売主が解除して不動産を買主から取り戻すことをいい、買戻特約とは解除権を留保する特約をいいます(民法579条)。
買戻しは、わが国では主に担保目的で利用されてきました。
つまり、融資の際に、融資額を代金と見立てて、債権者が債務者の不動産を購入するという形式をとり、債務者(売主)は期間内に融資額(代金)と契約費用を返還すれば売却した不動産を取り戻すことができる一方、返還されなければ債権者(買主)が不動産の所有権を取得できるとすることで、不動産に担保物権を設定して融資を受けるのと同じ経済的目的を果たしてきたのです。
なお、公共団体などが土地を分譲する際に、買主に対し、購入した土地に一定期間内に建物を建築することを義務付けたりするため、条件に反したときは買戻権を行使できるという特約が付けられることがあります。この場合のように、不動産の利用にかかわる契約条件を守らせる手段として買戻しが利用される場合には、担保目的ではない買戻しに当たります。
(2)民法上の買戻しと認められるには、厳格な要件を満たす必要があります。
①買戻しの対象は、不動産に限られています(民法579条)。
登記制度が整備されている不動産と異なり、動産については公示の方法が不完全であり、認める実益も大きくなかったためとされています。
もっとも、動産の買戻しを禁止するものではなく、動産の買戻特約を付けることも妨げられませんが、その場合には、民法上の買戻しの規定は適用されないものと考えられています。
②買戻しの特約は、売買契約と同時にする必要があります(民法579条)。
買戻しには(第三者にも主張できるという意味で)物権的な効力が与えられているので、第三者を保護するために必要とされています。
もっとも、売買契約と同時にされなかったとしても、特約が絶対的に無効になるわけではなく、「再売買の予約」としての効力が認められる場合が多いとされていますので、注意が必要です。
③買戻しの代金(解除した結果、売主から買主に返還する金銭)は、売買代金と契約費用を超えてはならないとされています(民法579条)。
利息制限法の規制を免れることを防止する趣旨であり、当事者間でこれと別の合意を許さない強行規定と考えられています(ただし、今般の民法改正により、任意規定に改められました。後述するとおり、再売買の予約が多く用いられているため、強行規定としておく合理性がないため、と説明されています)。
④買い戻すことができる期間は、最長で10年です。不動産の帰属を長期間不安定な状態に置くことを防ぐ趣旨とされています。10年よりも長い期間を定めたときは、10年に短縮されます(以上民法580条1項)。
また、いったん定めた期間は延長することができません(2項)。
さらに、期間を定めなかったときは、5年間とされます(3項)。
(3)特約がこれらの要件を満たした場合、期間内であれば、売主は、買主が支払った代金と契約費用を返還して売買契約を解除し、不動産を取り戻すことができます(民法579条。買戻権の行使)。
解除によって、売買契約は遡って効力を失い、不動産の所有権は、最初から移転しなかったことになります。
また、買戻しの特約を登記した場合、買戻しは、第三者に対しても対抗できます(民法581条1項。ただし、登記をした賃借人について一定の例外があります)。そのため、売主は買主からその不動産を購入した第三者(第三取得者)に対しても、買戻しを主張することができます。
さらに、第三取得者がその不動産について登記を備えている場合には、買戻権はその第三取得者に対して行使すべきものとされています(最高裁昭和36年5月30日判決)。
2.再売買の予約とは
このように民法上の買戻しの要件はとても厳格になっています。そのため、使いにくいとされ、「再売買の予約」という方法が多く用いられてきました。
「再売買の予約」とは、売買の際に、売主が将来目的物を再び買い戻すことを予約するものです。通常、売主が予約完結の意思表示をするだけで再売買が成立するという「売買の一方の予約」(民法556条)が利用されます。
「再売買の予約」は、買戻しと異なり、①目的物が不動産に限られない、②売買契約と同時にしなくてもよい、③④再売買代金額や期間に制限がない、とされています。また、仮登記を利用することで第三者に対しても対抗することができます。
こうしたことから、要件が厳格な「買戻し」ではなく、「再売買の予約」が利用されるようになったのです。
買戻しとしては要件を満たさないとしても、再売買の予約としての効力が認められることが多いので、注意が必要です。
3.譲渡担保とは
また、買戻特約付きの売買契約の形式をとっていても、譲渡担保であると判断される場合があるので、この点にも注意が必要です。
譲渡担保とは、一般に、債権を担保する目的で設定者の財産を債権者に移転し、債権(被担保債権)が弁済されれば移転した財産を設定者に戻す担保のことをいいます。
債務者は、ある段階までは債権を弁済して目的物を受け戻すことができ、債権者は、担保権を実行する場合は、融資額と不動産の価格との差額を清算金として返還しなければなりません。
近時の判例は、買戻特約が付けられた売買契約の形式がとられていても、目的不動産を債権の担保とする目的で取り交わされた契約は、譲渡担保と考えるのが相当であるとしました。
また、判例は、担保目的かどうかを判断する際は、売主から買主へ占有が移されているかを重視しており、占有が移されていない場合は、譲渡担保と考えるのが相当であるとしています(以上最高裁平成18年2月7日判決)。
譲渡担保であると判断されますと、売主は期間を過ぎても不動産を取り戻すことができますし、買主が担保権を実行する場合には清算金を支払わなくてはならないことになります(買戻しの場合には、被担保債権(貸金債権)が残らないので、売主は代金額(融資額)と不動産の価格との差額について清算金を得ることができません)。
4.まとめ
以上のように、「買戻し」が法的にどのような意味を持つのかは、契約書の文言などの形式面だけではなく、担保目的なのか、売主から買主へ占有が移されているか、といった実体面を見て判断する必要がありますので、ご留意ください。