所有者不明土地の売買~所有者不明土地管理命令制度を利用する場合
相談例
親から相続した土地を売りたいと考えているのですが、隣にきちんと管理されていない空き地があって、ゴミが不法に投棄されたりしています。
不動産業者からは、隣地は何代かの相続によって所有者が誰なのか、どこにいるのかがわからない状態になっているらしいと聞きました。
そういった事情もあるためか、私の土地もなかなか買い手がつかない状況です。
ただ、最近法律が改正され、隣地のような土地を管理してもらえる制度ができたと聞きました。私でも利用できるものでしょうか。
また、場合によっては自分で隣地を買い取って管理したり、不動産業者に私の土地と一緒に買い取ってもらったりできないかと思っていますが、新たな制度ではそういうこともできるのでしょうか。
ここがポイント
今回は、令和3年の民法改正により新たに設けられた財産管理制度のうち、「所有者不明土地管理命令制度」(民法264条の2~)について解説いたします。
なお、今回の改正では、「所有者不明建物」に関する管理命令制度も新たに設けられていますが、以下では、所有者不明土地の管理命令制度についてご説明いたします。
また、相談例の場合と異なり、所有者の所在が判明している場合でも、土地や建物が適切に管理されず、近隣の方の権利が侵害されたり、その危険が生じたりする場合があります。
こうした場合に対応するため、今回の改正で、新たに「管理不全土地・建物管理命令」が設けられていますが(民法264条の9~)、今回は説明を省略させていただきます。
1.所有者不明土地管理命令制度が新たに設けられた理由
従来は、所有者不明状態となっている土地を管理するために、不在者財産管理制度(民法25条)や、相続人がいるのかが明らかではない場合の相続財産管理制度(民法952条)などが利用されてきました。
もっとも、これらの制度は、問題となっている土地だけではなく、不在者などの財産全般を管理するものです。そのため、手続に必要な費用(予納金)の額がより高額になります。
また、共有者のうち複数名の所在が不明であるときは、不明者ごとに管理人を選任する必要があるため、よりコストがかさんでいました。
こうしたことから、不在者財産管理制度や相続財産管理制度は、特定の土地を管理するための制度としては、費用対効果の点で合理性に乏しいと指摘されていました。
さらに、これらの制度は、そもそも誰が所有者であるかを全く特定できないときには利用することができませんでした。
そこで、民法が改正され、新たに「所有者不明土地管理命令制度」が設けられました。
具体的には、裁判所は、所有者を知ることができず、またはその所在を知ることができない土地(※)について、必要があると認めるときは、利害関係人の請求により、土地(※)を対象として、所有者不明土地管理人による管理を命じることができます(民法246条の2~)。
※土地が数人の共有の場合は、共有者を知ることができず、
または、その所在を知ることができない共有持分
新制度によれば、個々の土地に特化して管理ができ、また複数の共有者の所在が不明な場合でも不明な共有持分の全体について一人の管理人を選任することができるため、従来の制度よりもコストの削減が期待できます。
また、所有者が全く特定できない土地の場合でも、管理人を選任して土地を管理することができます。
2.命令が認められるための要件
(1)所有者不明土地管理命令が認められるには、その土地が、所有者を知ることができないか、所有者の所在を知ることができない土地であることが必要です。
最終的には個別の事案において裁判所が判断することになりますが、例えば、個人が登記名義人である土地について、不動産登記簿や住民票上の住所等を調査しても、その個人の所在が明らかではないケースや、その個人が死亡しているが相続人がいるのか不明であるケースなどが挙げられます。
相談例の場合も、不動産登記簿等を調査しても隣地の所有者が明らかでないときなどは、所有者不明土地に当たるものと考えられます。
(2)また、所有者不明土地管理命令は、所有者不明土地の管理状況等から、所有者不明土地管理人による管理を命じることが必要かつ相当であることが必要です。
相談例において、不在者財産管理人や相続財産管理人などが土地を管理している場合には、基本的に命令を発する必要はないものと考えられます。
3.利害関係人による請求
所有者不明土地管理命令を請求できるのは、「利害関係人」です。
どのような方が「利害関係人」にあたるかは、個別の事案に応じて、裁判所が判断することになりますが、例えば、以下の方が挙げられます。
①その土地が適切に管理されていないために不利益を被るおそれのある隣地所有者
②土地の共有者の一部が特定できない、または所在が不明である場合の共有者
③その土地を取得してより適切な管理をしようとする公共事業の実施者
また、④民間の購入希望者についても、その購入計画に具体性があり、土地の利用に利害がある場合などは、利害関係人に当たりうるとされています。
相談例の場合、所有者不明土地が不法投棄などによって適切に管理されていないために、隣地所有者(相談者)が不利益を被るおそれがありますので、相談者は利害関係人に当たりうるものと考えられます。
また、不動産業者も、相談者の土地と所有者不明土地を購入する具体的な計画を有しており、土地の利用に利害があると認められる場合には、利害関係人に当たりうるものと考えられます。
4.裁判所の許可による所有者不明土地の売買
所有者不明土地管理命令により、所有者不明土地管理人が選任されると、同管理人のみが、所有者不明土地等の管理および処分の権限を有することになります(民法264条の3第1項)。
同管理人は、保存行為や所有者不明土地等の性質を変えない範囲内での利用・改良行為については、裁判所の許可を得ずに行うことができますが、不動産の譲渡などの処分行為については、裁判所の許可を得ることが必要になります(民法264条の3第2項)。
相談例においても、裁判所が許可すれば、相談者あるいは不動産業者も所有者不明土地管理人から所有者不明土地を購入することが可能になります。
5.まとめ
所有者不明土地管理命令制度は、令和5年4月1日から施行されています。
相談例のようなケースでは、相談者や不動産業者についても裁判所の許可を得て、所有者不明土地を購入することが可能になる場合がありますので、新制度の利用を検討されてはいかがでしょうか。
ただし、実際に、利害関係人として所有者不明土地管理命令の請求が認められるか、認められたとして、所有者不明土地の売却が許可されるかは個別の事案ごとの裁判所の判断になります。
また、新制度は施行から間がなく、先例に乏しいところですので、利用を検討されるにあたっては専門家に相談されることをお勧めいたします。