土地の数量指示売買について
今回は、購入した土地の実際の面積が契約で示されていた面積と異なっていた場合、売主や買主は相手方に対して、どのような請求ができるかについて検討します。
事例
XはYが所有する東京青山にある185㎡の土地を自宅兼オフィスの建物を建てるために5億5500万円で購入する契約を締結しました。登記上は面積が185㎡と記載され、契約書上もその面積が明記されていたのですが、契約締結後、測量をしてみると165㎡しかないことが分かりました。
このような場合、XはYに対して、何らかの請求ができるのでしょうか。逆に、測量の結果200㎡あることが分かった場合、YはXに対して、何らかの請求ができるのでしょうか。
解説
1.数量が異なっていた場合の現行民法の定め
現行民法は、数量を指示して売買をした物に不足があり、買主がそれを知らなかった場合、買主は、代金減額請求やその数量であれば買わなかったであろう場合には契約解除、また、それらに加えて損害賠償請求をすることができるとしています(民法565条、563条)。
2.「数量を指示して売買」(数量指示売買)とは
この点、最高裁昭和43年8月20日判決は「当事者において目的物の実際に有する数量を確保するため、その一定の面積、容積、重量、員数または尺度あることを売主が契約において表示し、かつ、この数量を基礎として代金額が定められた売買」と説明しています。
売買対象である土地が一定の面積を有していることが示され、坪や平米あたりの単価を定めた上で面積をかけて代金額が算定されている場合が典型例です。また、単価を基に代金を算定していない場合でも、一定の面積のあることを保証し、それが代金算定の重要な要素となっている場合について、数量指示売買とされた例もあります。
これに対し、土地面積が契約上表示されていたとしても、面積の表示が、地番や地目などとともに売買の目的物を特定するための情報の一つにすぎない場合は、数量指示売買にはあたりません。その他、土地建物一括で代金が定められた場合、土地の売買で特定の施設の建設が可能かどうかという観点から面積が示されていたにすぎない場合、登記簿上の面積と実測面積に違いがあっても異議を述べないとの定めがあった場合などが数量指示売買に当たらないとされた例としてあります。
設例の場合、1㎡の単価を300万円とし、185㎡をかけて代金額を算出したとの事情があれば、数量指示売買に該当します。そうではなく、「5という数字が3つ続いて縁起がいい」などの理由で代金額が決められたのであれば、数量指示売買にはあたらないこととなります。
3.面積が不足していた場合に買主はどのような主張ができるか
(1) 代金減額請求
買主が面積の不足を知らなかった場合、代金減額請求ができます。
1㎡あたり300万円として代金額を決めていたのであれば、20㎡不足することにより、6000万円の減額を請求することができます。
(2) 契約解除
また、買主が面積の不足を知らず、不足のままでは土地を購入しなかったであろうと認められる場合、契約を解除することができます。
面積が半分近くしかなかったなど、不足が著しい場合が典型例として考えられますが、そのような不足は現場を確認すれば容易にわかることですので、現実に問題となることは少ないともいわれています。
不足はわずかであるが、その不足により買主が特に計画する建物が建てられない場合も契約を解除できると考えられます。ただし、売主が買主の計画を知らなかった場合にも契約の解除が認められると、売主の知り得ない買主側の事情によって契約の効力が覆されるのは、売主の地位を過度に不安定にさせるとして、売主が買主の計画実現に必要な面積を知っていた場合に限るべきとも考えられています。
(3) 損害賠償請求
さらに、面積の不足を知らなかった買主が損害を被った場合には、損害賠償請求をすることもできます。
数量不足の場合、どの範囲の損害について賠償請求できるか議論があります。
従前は、不足がないと誤信したことにより被った損害(信頼利益)の範囲にとどまり、不足分が仮に存在していたら得られたであろう利益(履行利益、例えば、契約に表示された通りの面積が存在すると仮定して、転売により得られたであろう利益)までは含まないと考えられていました。
しかし、最高裁昭和57年1月21日判決は、「土地の売買契約において、売買の対象である土地の面積が表示された場合でも、その表示が代金額決定の基礎としてされたにとどまり売買契約の目的を達成するうえで特段の意味を有するものでないときは、売主は、当該土地が表示どおりの面積を有したとすれば買主が得たであろう利益について、その損害を賠償すべき責めを負わない」と述べ、その事案での結論としては否定したものの、履行利益の賠償請求が認められる余地もあることを示唆しました。最高裁判決のいう「特段の意味を有する」とは具体的にどのような場合であるか、議論されていますが、数量の表示によって買主の購入目的に適合することを売主が保証した場合、すなわち、数量の保証ないし損害を担保する約束がなされた場合を指すものと考えられています。
4.面積超過の場合に売主の代金増額請求は認められるか
数量指示売買に該当し、面積の超過が判明した場合について、数量不足の場合に代金減額請求が認められるのであれば、数量超過の場合には代金増額請求を認めるのが公平ともいえそうです。
しかし、最高裁平成13年11月27日判決は、「民法565条にいういわゆる数量指示売買において数量が超過する場合、買主において超過部分の代金を追加して支払うとの趣旨の合意を認め得るときに売主が追加代金を請求し得ることはいうまでもない。しかしながら、同条は数量指示売買において数量が不足する場合又は物の一部が滅失していた場合における売主の担保責任を定めた規定に過ぎないから、数量指示売買において数量が超過する場合に、同条の類推適用を根拠として売主が代金の増額を請求することはできない」として、数量超過の場合に追加代金を支払う旨の合意がない限り、代金増額請求は認められないと判断しています。
5.民法改正と数量指示売買
令和2年4月より改正民法が施行となります。
改正民法は、これまでの数量不足などの担保責任の諸類型について、契約不適合を理由とする責任として統合、一元化しました。売主は、目的物が特定物であるか種類物であるか、また、目的物の瑕疵が原始的なものであるか後発的なものであるかにかかわらず、契約内容に適合する種類・品質・数量において目的物を給付する義務を負うものとされました。これまでの「数量指示売買における数量不足」は「数量に関する契約不適合」の問題として取り扱われることとなり、数量指示売買に限定されることはありません。ただし、改正民法のもとにおいても、これまでの数量指示売買に該当するか否かの議論は、数量不足が売買契約に適合するか否かの議論に結びついて意味を持つことになると考えられています。