私道をめぐるトラブル~売買前の調査が重要!
不動産の購入は、一般の方にとっては大きなライフイベントですので、じっくり時間をかけて検討されることが多いものと思いますが、たまたま「良いご縁」があって、仲介会社を入れることもなく一気に話がまとまる、ということも時々耳にします。
とはいえ、後日そのような経緯を我々弁護士に相談なさる方にとっては、「良いご縁」だったと喜んでばかりもいられない・・・という事情がございます。
今回は、購入者が予想していなかった「私道」をめぐるトラブルについてお話しします。
事例
10年前、知人の紹介で知り合った方から、閑静な住宅街の一角の土地付建物を購入しました。不動産取引は初めてでしたが、売主は長い間何の問題もなく生活してきたとおっしゃっていましたし、仲介手数料ももったいないと思い、仲介会社には依頼せずに売買契約を締結しました。
さて、購入した土地付建物から大通りに出るために小道を通っているのですが、最近、舗装が一部悪くなってデコボコしてきましたので、市役所に補修工事をお願いしました。ところが、「その小道は私道なので、土地の所有者に補修工事をお願いするように」と言われてしまいました。
調べてみると、実はその小道は細かく分けて登記されていて、数人の方がそれぞれ所有していることが分かりました。しかも、補修工事をお願いしたところ、その費用の負担をめぐって土地所有者の1人とトラブルになってしまい、「通行料を支払え、支払わなければ自分の土地の通行を認めない」と言われています。
こんなことなら、仲介手数料をケチらず、きちんと事前に確認しておけばよかったと思います。
今さら通行料など支払いたくありませんが、小道を通行しないわけにもいかず、困り果てています・・・。
ここがポイント
1.「私道」とは?
ごくおおまかに言いますと、一般の個人が所有する土地が道路として使われている場合などに、その道路を「私道」といいます。
個人宅の軒先の路地などをイメージされるかもしれませんが、きちんと舗装されていて、一見、公道と異ならないような私道もありますので、注意が必要です。
2.私道の工事は所有者が行う
このような私道は、たとえ多くの人が通行していたとしても、個人の所有地であることに変わりありません。ですから、舗装が古くなったとしても、行政が所有者に断りなく勝手に補修工事などを行うことはできず、私道の工事は所有者が行うべきこととなります。(なお、私道の舗装工事等について助成金の制度を用意している自治体もありますが、所有者や通行権者などの同意が要求されているのが通常です。)
「事例 」で、買主が市役所から私道の舗装工事を断られてしまったのは、このような事情によります。
3.「無償で通行できるのが当たり前」ではない!
このように、個人の所有地である以上、道路として利用されているとしても、本来、土地所有者以外の人が私道を自由に通行できるものではありません。土地の所有者が「私の土地に立ち入るな」と主張するのも、原則としては自由、ということになります。
通行を希望する人に対して、所有者が通行権を与えることはあります。
他方、所有者が特に反対しないので通行料など支払うことなく通行しているだけ、という状況も多くあります。しかしながら、ただ単に長年無償で通行できたというだけで、「今後も無償で通行できる」という権利が得られるわけではありませんので、後日、私道の通行をめぐるトラブルが生じるおそれがあります。
「 事例 」の場合、売主は、長年無償で通行できていたのかもしれませんが、果たして所有者に対して主張できる通行権をもっていたといえるのか、ということが問題となります。売主がトラブルなく通行できたからといって、買主も同様だ、とは限らないのです。
4.袋地通行権
通行権についての複雑な法制度や判例法理のすべてをご説明することはできませんが、ここで「袋地通行権」に触れておきます。
土地の所有者が、自分の土地への立ち入りを完全に拒否できるとすれば、他人の所有地に囲まれている土地(「袋地」といいます。)を購入された方が、周りの土地の所有者全員から通行を拒否されると、せっかく購入した土地に出入りできなくなってしまいます。そのような事態を避け、最低限、どの土地にも公道から出入りできるように、袋地の所有者には、公道に出入りするために周辺の土地を最小限度の範囲で通行できる権利が認められています。これを「袋地通行権」といいます。
「 事例 」の場合にも、売主が購入された土地が袋地に当たり、かつ、問題となっている私道の通行が、周りの土地のために損害が最も少ない最小限度の範囲の通行といえれば、所有者に反対されても私道を通行できる可能性もあります。
(ただし、袋地通行権による通行については、通行料(「償金」といいます。)を支払うことが必要とされていたり、袋地が発生した土地分割の経緯によっては通行に制限があるなどの制約があります。)
5.売買前に十分な調査が必要!
「 事例 」では、買主が「私道」である道路を「公道」と思い込んでいたことから、私道の所有者との間で摩擦が生じトラブルの発端になった可能性もあります。
土地を購入しようとする買主としては、購入する土地から公道に出入りするまでの経路の権利関係は、可能な限り調査しておくべきだったと思われます。具体的には、法務局に備えられている登記簿や図面等から、所有者や土地の分割状況等を調査する必要があります。
もっとも、登記に関する書類等の手配はなかなか面倒ですし、一般の方が記載内容を正確に理解するのは困難かもしれません。登記に関する書類等の手配については、信用のできる仲介会社に依頼して助言を求めるのが有効です。
購入しようとする土地自体についての様々な制限(例えば、土地上に建てられる建物の種類や高さの制限等)の調査・説明等、不動産売買についてトータルでサポートを受けられることを考えれば、「 事例 」のように目先の仲介手数料を出し惜しむことは、長い目で見ると大きな損失を招くかもしれません。
もちろん、仲介会社に依頼したからといって、全てのトラブルが防げるわけではありません。しかしながら、私道の権利関係等、正確な情報を得た上で、ある程度の予測をもって契約に臨めば、予想外のトラブルに直面して不適切な対応をしてしまう、というリスクは小さくなると思われます。
さて、十分な調査を行なわずに土地を購入しトラブルが発生してしまった「 事例 」の場合、どのようにトラブルを解決すればよいでしょうか。
このようにトラブルが発生してしまうと、一言でお答えできる万能の策があるわけではなく、あえてお答えするとすれば、なるべく早く専門の弁護士に相談されることでしょう。事実関係(例えば、それまでの通行や所有者とのやりとりの状況、袋地かどうか、袋地である場合は袋地が生じた分割の経緯など)に応じて、事案に応じた最適な紛争解決手段を選択する必要があります。「 事例 」の場合についても、民事調停により解決を図るのか、仮処分手続によって迅速に手を打つのか、まさにケース・バイ・ケースの最適な対応が必要になるのです。