不動産売買のときに気をつけること~法令上の制限
不動産売買に際し、留意しなければならない事項として、今回は「法令上の制限」などの問題をとりあげます。
ここがポイント
1.総論
土地を買い受けようとする人は、何らかの用途に供する目的をもって買い受けます(もちろん、転売目的の場合もあります)。
しかし、我が国では、都市計画法、建築基準法、宅地造成等規制法などで、現状変更の禁止や、建築制限、利用制限などの法令上の制限が定められていることがあり、制限内容によっては、土地の買主が買い受けた目的を達成することができない場合があります。
このような法令上の制限は、土地の売買ですと、土地所有権に対する法令上の制限となります。自分の所有権がある土地であっても、なんでも自由に利用できるわけではない、ということです。買主にとって、契約を締結するかどうかの判断に影響を及ぼす重要な事項であり、不動産売買において、気をつけなければなりません。
このような「法令上の制限」は数多くありますが、ここではいくつか述べさせていただきます。
2.都市計画法
(1)都市計画法は、法令上の制限において、基本的な法律であり、極めて重要です。
都市計画法の目的は、都市の健全な発展と秩序ある整備を図るため、都市づくりの計画を立てて実現することにあります。
都市づくりには、①行政が主体となって、道路などのインフラを整備して、都市づくりを「直接・積極的に」行う方法と、②行政が、都市づくりの計画像にもとづいて、民間の開発・建築に制限や誘導を行うことにより「間接的に」都市づくりを進める方法があります。それら両方の施策から都市づくりはなっているのです。
(2)都市計画法の適用範囲は、原則として「都市計画区域」ですが、都市計画区域は、日本の国土の約4分の1の面積、人口は、約9割(約1億2000万人)に及ぶ、とも言われています。
従いまして、都市計画区域内に所在する物件は多く、不動産取引の多くが都市計画法などの制限を受けることになりますので、どのような制限があるのかを理解しておく必要があります。
なお、「都市計画区域」以外にも「準都市計画区域」の指定がなされているところがあります。「都市計画区域」の外で無秩序な開発が行われてはいけないので、それを防ぐため、特例的に、その場所が「準都市計画区域」と指定されているのです。
「準都市計画区域」も「都市計画区域」に準じた規制がされています。
(3)「市街化区域」と「市街化調整区域」
①都市計画区域内の土地は、原則として、市街地として整備すべき「市街化区域」と、市街化を抑制すべき「市街化調整区域」に分けられます。
「市街化区域」と「市街化調整区域」という区域区分をする目的は、市街化区域の範囲を限定して、無秩序な開発が行われないよう防止することにあります。
「市街化区域」内では、必ず「用途地域」を定めます。
他方、都市計画区域内でも、「市街化区域」と「市街化調整区域」の区分をしないところがあります。この場合は「用途地域」を定めるかどうかは任意となります。
②「市街化調整区域」
「市街化調整区域」は、市街化を抑制すべき区域とされ、原則として一般住宅は建築することができません。
「市街化調整区域」の建築行為は厳しい規制を受けるのです。
開発行為も原則として許可されず、「用途地域」も定められていません。例外的に、除外特則に該当する場合は許可不要とか特例要件に該当する場合は許可などという場合がありますが、事前に役所に問い合わせることが重要です。また、都市計画法による制限に加えて、条例でより厳しい制限を行うことがあるので、その意味でも役所に詳細を問い合わせる必要があります。
なお、「市街化調整区域」内に建っている建物には、特例に適合することで建築が許可されたものがありますが、このような建物は、売買などにより所有者が代わって、新所有者が従来の条件を満たさないときは、使用できなくなったり、建替えができなくなることがありますので、注意が必要です。
③「市街化区域」
「市街化区域」は、原則として建物の建築は可能ですが、建築できる建物の具体的内容は建築基準法で規制されているので、担当である役所の建築指導課などで建物の規制を確認することが重要です。
宅地造成等の開発行為の規制では、一定の面積以上の開発行為は都道府県知事の許可が必要となります。無秩序な市街化を防止するためです。
「市街化区域」は、既に市街地を形成している区域と、おおむね10年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域があります。
(4)「用途地域」
都市における住居や商業、工業の土地利用は、似たようなものが集まっていると、それぞれにあった環境が守られ、効率的な活動ができます。
しかし、種類の異なる土地利用が混ざっていると、互いの生活環境や業務の利便が悪くなります。
そこで、都市計画では、都市を、①住居系、②商業系、③工業系などいくつかの種類に区分し、これを「用途地域」として定めています。
②商業系では、商業地域、近隣商業地域、③工業系では、工業地域、準工業地域、工業専用地域、①住居系では、低層住居専用地域(第一種と第二種)、中高層住居専用地域(第一種と第二種)のほか、第一種住居地域、第二種住居地域、準住居地域、田園住居地域に分かれています。一般に、第一種より第二種のほうが規制は緩くなります。なお、田園住居地域は、都市計画法の改正により新たに13番目の用途地域として創設されたもので、平成30年4月から施行されています。
「用途地域」は、建物用途の制限だけでなく、建ぺい率、容積率、高さ制限などに関係するので、どの用途地域に属するかは、極めて重要で、注意が必要です。
3.建築基準法
(1)「単体規定」と「集団規定」
建築基準法は「第二章 建築物の敷地、構造及び建築設備(法19条~41条)」という表題のもと、建築物の構造耐力、屋根や外壁、居室の採光・換気などを定めています。
これら「第二章」の定めは、個々の建築物が「単体としての建物それ自体」備えておかなければならない一定の技術基準を規定しているので、「単体規定」とよび、全ての建築物に適用されます。
これに対して、建築基準法「第三章 都市計画区域等における建築物の敷地、構造、建築設備及び用途」(法41条の2~68条の9)は、敷地と道路の関係、壁面線による建築制限、用途制限、容積率制限、建ぺい率制限、高さ制限、斜線制限などを定めています。
これら「第三章」の定めは、一定の区域内にある建築物を集団的に規制していることから「集団規定」とよび、都市計画区域と準都市計画区域に限って適用されます。
なお、「都市計画区域や準都市計画区域」以外の区域でも、地方公共団体は条例で必要な制限を定めることができますので、それら制限についても注意が必要です。
(2)「建ぺい率」と「容積率」
「建ぺい率」とは、建築物の建築面積(外壁・柱の中心線で囲まれた部分の面積)の敷地面積に対する割合です。その土地のどれほどを建物用に使えるか、という基準です。例えば、120平方メートルの土地で、建ぺい率が50%だと、120平方メートルの50%の60平方メートルを使って建物を建てられるが、それ以上は、使えないということです。敷地内に一定の空地を確保するという意味(防火や住環境配慮)があります。
建ぺい率は、都市計画で用途地域ごとに30%から80%の範囲で制限が定められています。なお、用途地域によっては、建ぺい率の限度が80%とされている地域内で、かつ、防火地域で、耐火建築物を建築する場合は、建ぺい率の制限がない、など「適用除外」が認められる場合があります。
これに対し、「容積率」とは、建築物の延べ面積(建物の各階の床面積の合計)の敷地面積に対する割合です。
用途地域別の容積率はその上限が定められていますが、5種類以上の数値があり、そのうちどれを使うかは都市計画で指定されているので、事前に調査する必要があります。
なお、都市計画では指定された容積率が全て使用できるわけではないこと、前面道路の幅員によって指定容積率が制限され、使用できない場合があるので、注意が必要です。
4.宅地造成等規制法
(1)土地が「宅地造成工事規制区域」内にある場合、宅地造成に関する工事をする造成主は、当該工事に着手する前に、都道府県知事の許可を受けなければなりません。
宅地造成等規制法に定められています。
そして、許可は、「一定の技術的基準に従い、擁壁や排水施設の設置など災害を防止するために必要な措置を講じる」ということでないと、許可は受けられないのです。
(2)「宅地造成工事規制区域」とは、宅地造成に伴い、がけ崩れ、土砂流出等の災害が生ずるおそれが大きい市街地又は市街地になろうとする土地の区域において、宅地造成に関する工事について規制を行う必要があるものとして指定した区域をいいます。
(3)大都市周辺では、市街化されている地域であっても、宅地造成工事規制区域に指定されている場合があります。擁壁や崖を含む宅地である場合は注意が必要です。
(4)宅地造成工事規制区域は、都市計画区域の内外を問わず指定され、また、都市計画図に掲載されていないため、擁壁や崖を含む宅地の場合、市町村や役所に赴き、調査することが必要です。
5.以上は、法令上の制限のいくつかにすぎません
不動産を購入する場合は、その不動産の存在する地域や、「法令上の制限」などに注意する必要があります。