不動産売買における心理的瑕疵とは?
今回は、中古マンションの一室を購入したところ、マンションの他の一室に暴力団幹部が居住していたという相談事例を取り上げ、不動産売買における心理的瑕疵の問題についてご説明いたします。
相談事例
私は、居住する目的で中古マンションの一室(202号室)を購入しました。ところが、居住を始めてから分かったことなのですが、その真下の102号室には、暴力団幹部が居住しており、管理費を長期間滞納しているばかりか、その部屋には暴力団組員が多数出入りし、近所の神社の祭礼のときには深夜にわたって大騒ぎをするなどの迷惑行為をしています。マンションの管理組合は、このような迷惑行為の解消のために以前から努力を続けてきたようですが、未だ解消に至っておりません。
このような事情を受けて、私としては、売買契約の解除や、売主に対して損害賠償請求をしたいと考えておりますが、認められるでしょうか。
ここがポイント
1.買主が求めている売買契約の解除や損害賠償請求の法的な根拠の一つとして、民法に定める瑕疵担保責任が考えられます。そこで、今回は、瑕疵担保責任に関してご説明します。
2.以前、このアドバイスで、瑕疵担保責任とは何かということについて、ご説明しました(2014年9月号不動産売買のときに気をつけること~瑕疵(かし)担保責任とは?)。
本件との関係でポイントをご説明しますと、
(1)瑕疵(かし)とは、欠陥、欠点などといった意味であり、売買の目的物について、瑕疵担保責任にいう「瑕疵」があるかどうかについては、その物が通常有すべき品質・性能があるかどうか、売買の当事者がどのような品質・性能を予定していたかといった要素などから判断されます。
(2)また瑕疵担保責任が認められるためには、目的物に「瑕疵」があることに加えて、その「瑕疵」が「隠れた」ものであることが必要です。そして、「隠れた」ということの意味内容としては、買主が、契約時に、「瑕疵」の存在を知らず(善意)、知らないことについて過失がない(無過失)ということでした。
では、本件のような事情がある場合、売買の目的物である202号室について、「隠れた瑕疵」があると言えるのでしょうか。
3.建物の瑕疵というときに思い浮かべやすいのは、例えば、建物の構造等の欠陥によって雨漏りが生じているといったような、物理的な欠陥であると思います。
ところが、本件では、このような物理的な欠陥が問題になっているのではなく、102号室に暴力団幹部が住んでいて迷惑行為を行っていることなどから、202号室に住むのに不安がある、住み心地が良くないと感じるといったような、心理、心情が問題になっているのであり、心理的な欠陥が問題になっているといえます。
4.心理的な欠陥についても、瑕疵担保責任にいう「瑕疵」として認められる場合があると考えられていますが、買主が何らかの不安を感じていると言えばすべて「瑕疵」にあたるわけではありません。
この点に関して、ある東京地裁の判例は、相談事例と同じような事案において、瑕疵担保責任にいう「瑕疵」には心理的な欠陥が含まれることを認めたうえで、それが「瑕疵」にあたる場合の判断基準を示しました。
判例の該当部分をご紹介いたしますと、まず、瑕疵担保責任にいう「瑕疵」について、
「客観的に目的物が通常有すべき設備を有しない等の物理的欠陥が存する場合のみならず、目的物の通常の用途に照らしその使用の際に心理的に十全な使用を妨げられるという欠陥、すなわち心理的欠陥も含む」
としたうえで、
「建物は継続的に生活する場であるから、その居住環境として通常人にとって平穏な生活を乱すべき環境が売買契約時において当該目的物に一時的ではない属性として備わっている場合」
には、瑕疵担保責任にいう「瑕疵」にあたるとしたのです。
5.以上を踏まえて、今回の相談事例について「隠れた瑕疵」があるといえるか見ますと、
(1)マンションの他の一室に暴力団幹部が居住し種々の迷惑行為を行っていることは、通常人にとって住み心地の良さを欠く状態であり、平穏な生活を乱すべき環境にあると考えられます。
そして、以前から管理組合が迷惑行為の解消に向けて努力してきたものの解消には至っていないことや、その他の事情を踏まえ、上記の状態が一時的な状態ではないと言えるのであれば、「瑕疵」と認められる可能性があります。
(2)「隠れた」といえるかについても、特段の事情がない限り、本件のような事情があることは、売買契約に際して一般人に通常要求される調査を行っても簡単に分かるようなものではなく、一定期間、実際にマンションに住んでみて始めて分かるものと考えられます。
したがって、買主は、「瑕疵」の存在を知らず(善意)、知らないことについて過失がない(無過失)と認められる可能性があります。
6.次に、瑕疵担保責任に基づく契約の解除と損害賠償請求について見ますと、
(1)まず、解除について、法律上は、「瑕疵」があれば直ちに解除ができるというわけではなく、契約をした目的を達成することができない場合に解除が認められます。
本件の場合、上記のような「瑕疵」により、住み心地の良さを欠いているとは言えるのもの、契約をした目的が達成できない、つまり居住ができないという程度の「瑕疵」とまでいえるのかというと疑問があり、解除までは認められない可能性があります。
(2)次に、損害賠償請求については、「瑕疵」があることを原因として、本来あるべき202号室の価値を欠いていたことによる損害(価値の下落分)について、損害賠償請求をすることなどが考えられます。
7.以上のとおり、今回は、建物の売買を題材に、瑕疵担保責任にいう「瑕疵」に関して、いわゆる心理的瑕疵をご紹介しました。
物理的欠陥,心理的欠陥が「瑕疵」に当たるかどうかは、事案ごとの個別具体的な事情によるものであり、ケースバイケースであって、専門的な判断が求められます。
もし、不幸にも、売買目的物の「瑕疵」が問題になりそうなトラブルに巻き込まれてしまった場合には、ただちに弁護士にご相談されることをお勧めします。