不動産売買のときに気をつけること~隣との法律
不動産売買に際し、留意しなければならない事項として、今回は「隣との法律」の問題をとりあげます。
ここがポイント
1.総論
不動産売買により、土地や建物を「売却」する側(売主側)の一番の関心事は、売買代金を全額きちんと支払ってもらうことですが、土地や建物を「購入」する側(買主側)の一番の関心事は、転売目的でなく自己使用の場合は、買った不動産に欠陥がないこと、快適であること、そして、隣との関係で問題がおきないことです。
そして、隣との関係で問題がおきないため、また、仮に問題がおきても円満に解決するため、法律では、隣との関係でいろいろルールを定めています。
これらのルールをよく知り、注意を払うことによって、不動産を購入する前にも、いろいろな諸事情を判断材料として、事前に予測ができますし、不動産を購入したあとも、適切な対応を行うことができます。
2.境界線付近における建築の制限~民法234条
(1)民法234条1項は「建物を築造するには、境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならない」と定めています。
このように定められた趣旨は、①日照・通風を確保して衛生上の悪影響を避けること、②後日の隣地建物の建築・修繕に必要な空地を確保すること、③延焼を防止すること、などにあると言われています。
「境界線から50センチメートル以上の距離」というのは、境界線から建物のどこまでを指すか、については、「建物の側壁及びこれに同視すべき出窓その他の建物の張出し部分と境界線との最短距離を定めた」ものだとする裁判例があります。
(2)「建物を築造するには、境界線から50センチメートル以上の距離を保たなければならない」というのが民法の定めですが、他方、建築基準法65条は「防火地域又は準防火地域内にある建築物で、外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる」と定めています。
この民法の規定と建築基準法65条の規定の関係は、特則であって、建築基準法65条所定の建築物の建築については民法234条1項の規定の適用が排除される、というのが最高裁判所の判例の立場です。
従いまして、「防火地域又は準防火地域」内にある建物で外壁が耐火構造のものについては、その外壁を隣地境界線に接して設けることができる、というわけです。
(3)なお、建築基準法54条は、第1種又は第2種の低層住宅専用地域内においては、建築物の外壁又はこれに代わる柱の面から敷地境界線までの間に、原則として1.5メートル又は1メートルの距離を置くべきと定めています。
(4)民法234条1項に違反して建築をしようとする者があるときは、隣地の所有者は、その建築を中止させ、又は変更させることができます。
ただし、「建築に着手した時から1年を経過し、又はその建物が完成した後」は、損害賠償の請求のみができるだけになります。
着手から1年経過後や、建物完成後は、建築中止や建築変更を求めることができなくなり、お金(損害賠償)を請求できるだけとしたのは、ある程度工事が進行したり完成した後では、中止や変更ということを認めてしまうと社会経済上の不利益となる、ということです。
それは、とりもなおさず、隣地が距離制限に違反して建築を着手したので、建築の中止・変更を求めるならば、早く行動を起こさないとだめですよ、ということになります。
3.目隠しの設置~民法235条
民法235条は、1項「境界線から1メートル未満の距離において他人の宅地を見通すことのできる窓又は縁側(ベランダを含む)を設ける者は、目隠しを付けなければならない。」、2項「前項の距離は、窓又は縁側の最も隣地に近い点から垂直線によって境界線に至るまでを測定して算出する」と定めています。
その趣旨は、建物に窓やベランダが設置されており、これらが自己の住居に向けられている場合は、建物に居住している者は『見られている』との不安を抱き、プライバシーが侵害される場合があるからです。
条文の記載だけをみますと、先に建てられた家は目隠しを設置しなくてもよく、後で建てられる家が設置しなければならないようにも読めますが、先に建てられた家でも、相隣関係に適用される互譲の精神からすると、目隠しを設置しなければならないとされることがあり、建物を建てた順序が先か後だけで形式的にきめられるものではありません。
4.「慣習」~民法236条、その他
以上のように、民法234条や民法235条は定めていますけれども、民法236条は、民法234条や民法235条の規定と異なる「慣習」があるときは、その「慣習」に従う、と定めています。
また、民法234条2項の「建築の中止・変更請求」が権利濫用とか信義則違反であると評価された場合は、「建築の中止・変更請求」が認められない場合があります。目隠しの民法235条についても同じです。
権利の行使は、本来自由のはずですが、「権利の濫用」や「信義則違反」は認められないという一般条項は、これまた、法の基本原則として裁判例などで認められることがあるのです。
5.境界標、囲障について~民法223条から229条など
境界標や囲障について、民法は多くの定めを設けています。
(1)土地の所有者は、隣地の所有者と共同の費用で、境界標を設けることができます(民法223条)。
(2)境界標の設置及び保存の費用は、相隣者が等しい割合で負担する、ただし、測量の費用は、その土地の広狭に応じて分担する、と定められています(民法224条)。
(3)2棟の建物がその所有者を異にし、かつ、その間に空地があるときは、各所有者は、他の所有者と共同の費用で、その境界に囲障を設けることができる(225条1項)。
当事者間に協議が調わないときは、前項の囲障は、板塀又は竹垣その他これらに類する材料のものであって、かつ、高さ2メートルのものでなければなりません(225条2項)。
(4)前条の囲障の設置及び保存の費用は、相隣者が等しい割合で負担します(226条)。
(5)相隣者の1人は、第225条第2項に規定する材料より良好なものを用い、又は同項に規定する高さを増して囲障を設けることができます。ただし、これによって生ずる費用の増加額分を負担しなければなりません(民法227条)。
(6)前3条と異なる慣習があるときは、その慣習に従います(民法228条)。
(7)境界線上に設けた境界標、囲障、障壁、溝及び堀は、相隣者の共有に属するものと推定します(民法229条)。
以上の境界標や囲障のルールは、読めば一目瞭然な、わかりやすいルールです。
まとめ
これら隣地との法律、ルールをよく理解しておくことは、隣地や隣家とのトラブルを避けることにつながります。不動産売買にあたって注意する必要があります。