土壌汚染の問題は土地の売買にどんな影響を与える?
土壌汚染という言葉をご存知でしょうか。報道などでも取り上げられることがありますから、耳にされたことがあるのではないかと思います。
土壌汚染の問題には、多くの法律的な問題点が含まれていますが、このアドバイスでは、土壌汚染の問題が土地の売買にどのような影響を与えるのかについてお話しさせていただきます。
相談事例
私は所有している土地を売ろうと思っているのですが、この前テレビで土壌汚染の問題を特集していたのを見て心配になり、業者さんに土壌汚染の調査を依頼しました。
その業者さんの話では、土壌汚染対策法という法律があるそうです。もし、汚染されていたら、売買契約にはどんな影響があるのでしょうか。
ここがポイント
1.土壌汚染対策法とはどんな法律?
相談事例に「土壌汚染対策法」という法律が出てきました。この土壌汚染対策法というのは、どのような法律なのでしょうか。
土壌が有害物質に汚染されてしまうと、汚染された土壌を直接体内に取り込んでしまったり、有害物質の溶け込んだ地下水を飲んでしまったりして健康に影響を与えるおそれがあります。近年、工場跡地等の再開発等に伴って、土壌汚染が明らかになる例が急増していました。
こうした状況を踏まえて、土壌汚染の状況を把握したり、汚染によって健康に被害が出ないように防止したりするための措置を定めることにしたのが土壌汚染対策法です。平成15年2月15日から施行されています。
このように、土壌汚染対策法は、国民の健康を守るために作られた法律であり、私人間の売買契約を直接に規制したものではありません。そのため、私人間の売買契約に直接に適用されるわけではないのです。
しかしながら、売買契約に関する問題への影響はとても大きいといえます。
例えば、売買契約の際に、売主が土壌汚染対策法の基準に従った汚染対策措置をとる条件で合意されることもあります。
また、売買契約に関する裁判でも、土地の「瑕疵」(かし)にあたるかを判断する際の参考にされるなど、裁判実務にも大きな影響を与えているのです。
2.まずは瑕疵担保責任
売買の対象となった土地に土壌汚染があった場合に問題となる法律としては、民法に定められた、売主の瑕疵担保責任が考えられます(瑕疵担保責任の詳しい内容につきましては、2014年9月号の「不動産売買のときに気をつけること~瑕疵(かし)担保責任とは?」をご参照ください。)。
土壌汚染対策法ができてからは、とくに国民や企業の間で土壌汚染に対する意識が高まっていることからすれば、土地に土壌汚染対策法の基準を超える汚染があることは、土地の「瑕疵」にあたるといえるでしょう(なお、「瑕疵」にあたるかどうかは、契約内容や目的物の性質に応じて個別具体的に判断されることになりますので、法律の基準を超えていなければ「瑕疵」にあたらない、ということではありません。)。
3.説明義務違反にもご注意を
また、瑕疵担保責任以外にも売主に責任が認められる場合があります。
売主は、本来的には買主に対して土地を引き渡す債務を負っています。しかし、土壌汚染があることやその可能性があることをわかっていた場合などには、そのことを説明する義務が生じることがあるのです。
実際の裁判例でも、売主が土壌汚染が生じていることを知らなくても、土壌汚染を発生させる蓋然性のある方法で土地を利用していた場合には、土地の履歴や従前からの利用方法について説明すべき義務があるとしたものがあります。
説明義務が認められる場合には、説明をしなかったことで発生した損害について賠償責任が発生したり、契約が解除されてしまう可能性があるのです。
4.さらに契約が無効、取消しとなるおそれも
さらに、売主が土壌汚染はないと事実と異なることを言ってしまったり、土壌汚染があることをあえて言わなかったりしたことによって、買主が土壌汚染はないと勘違いして売買契約を結んでしまった場合、売買契約が錯誤によって無効とされたり、詐欺によるものとして取り消されるおそれもあります(民法に規定があります。)。
また、売主が事業者で買主が消費者であった場合、「消費者契約法」という法律で契約が取り消されてしまうおそれもあります。
5.相談事例について
では、相談事例の場合、どのように考えたらよいのでしょうか。
まず、売買契約の対象となった土地に、土壌汚染対策法の基準を超える汚染が発見された場合、この汚染は「瑕疵」にあたると言わざるを得ないでしょう。そうすると、このまま土地を売ってしまいますと、買主が土壌汚染について知っていたり、知らなかったことについて不注意がある場合でない限り、売主として瑕疵担保責任を負うということになりそうです。
なお、売主はすでに「瑕疵」の存在を知ってしまっていますから、「瑕疵担保責任免除特約」があったとしても、「瑕疵」の存在を告げない場合には、責任を免れることはできませんので、注意が必要です(2014年9月号の「不動産売買のときに気をつけること~瑕疵(かし)担保責任とは?」をご参照ください。)。
また、汚染の程度が土壌汚染対策法の基準を超えていなかったとしても、裁判で「瑕疵」にあたるとされるおそれは残りますし、汚染の事実などについて買主に対しきちんと説明しておかないと、説明義務違反を理由に損害賠償を請求されたり契約が解除されたりするおそれが残ってしまいます。さらに、契約が無効となったり取り消されたりするといったおそれもあります。
こうした売買契約に伴う様々なリスクを避けるためには、契約の際に、買主に対し、汚染の事実などについてよく説明しておく必要があるということになるでしょう。