共有者の行方が不明な土地の売却について~空き家となることを避けられるか
最近、いわゆる「空き家問題」がマスコミなどでも取り上げられています。「空き家問題」とは、利用、活用されずに放置されている土地や建物が増加している問題をいいます。その背景には、少子高齢化、東京一極集中などの社会的問題の他、行政・税務上の問題、法的な問題など、様々な問題が関係しています。放置されている理由も、ケースごとに様々です。
今回は、空き家となる原因の一つである、土地の権利者の把握が難しい場合を題材として取り上げさせていただきます。
相談事例
私は、先日父を亡くしましたが、父の財産には、長年家族で住み続けてきた実家の土地建物があります。数年前に母も他界しており、父の相続人である私と弟は、それぞれ独立して持ち家も持っています。実家の土地建物については、今後、住んだり、利用したりすることもありませんので、売却しようということで意見が一致しています。
ところが、不動産の登記簿謄本をとってみると、建物は父の単独所有でしたが、土地については、Xという人物と共有していたことが分かりました。父は、40年前にそのXから、土地の5分の4の割合の共有持分権を買ったようなのですが、今まで私も弟も土地を購入した際の経緯や事情を聞いたこともなく、Xがどこの誰であるのか、また、現在も存命であるのか、全くわかりません。
このような状況のもとで、私と弟は、実家の土地建物を売却することができるのでしょうか。
1.共有している土地を売却するには
上記相談事例では、相談者と弟は、実家の建物について、完全な所有権を相続します。したがって、建物全体を売却することが可能です。これに対し、土地については、共有持分権しか相続しませんので、土地全体の完全な権利を売却することはできません。共有持分権のみを売却することは可能ではありますが、完全な権利とはいえない共有持分権だけを購入する者は、そうそう見つかるものではありません。仮に見つかったとしても、非常に安い代金額になってしまいがちです。とすると、相談者としては、土地建物全体を売却するために、共有持分権者とともに売却する、または、5分の1の共有持分権を取得したうえで売却することが必要になります。共有持分権者を探し出すことができなければ、相談者が相続する実家の土地建物は、このまま放置されて、「空き家」になってしまう可能性も高くなってしまいます。
また、父親がXから共有持分権を購入したのは40年も前のことですので、既にXが亡くなっている可能性もあります。その場合には、共有持分権が相続されていることになりそうです。
では、どのようにすれば、XやXの相続人を探し出すことができるのでしょうか。また、XやXの相続人を探し出すことができない場合でも、相談者が実家の土地建物を売却する方法はあるのでしょうか。
2.Xの所在の調査
(1)登記簿上の記載を確認
土地の登記簿上には、所有者や共有持分権者の氏名とともにその住所が記載されています。まずは、そこに記載されている住所が手掛かりになります。ちなみに、登記簿に記載された情報は、法務局(登記所)から登記事項証明書の交付を受けたり、インターネット上の登記情報提供サービスを利用することにより確認することができます。
(2)住民票の記載を確認
Xの現在の住所地は、Xの住民票の記載事項により確認することができます。現在も移転していなければ、その地の市区町村に住民票が存在していますし、転出または死亡していれば「住民票の除票」にその旨が記載されることになります。
住民票やその除票の交付請求ができるのは、本人や同じ世帯の家族など一定の者に限定されていますが、「自己の権利行使・義務履行のために住民票の記載事項を確認する必要がある者」についても認められています。民法上、共有持分権者には、他の共有持分権者に対する共有物分割請求権が認められています。相談者は、X(またはその相続人)に対する分割請求権行使のため、Xの現在の住所を確認する必要があるといえます。したがって、相談者がXの住民票等の交付請求をすることも可能です。
Xが転出していた場合には、住民票の除票に転出先の住所が記載されていますので、その転出先の住民票を交付請求して、Xの住所を確認していくことになります。転出先からさらに転出している場合には、その先の住民票を追っていくことになります。また、Xの住所は、戸籍の附票から確認することも可能です。住民票の除票には、本籍地が記載されていますので、その市区町村に戸籍の附票を交付請求することになります。
住民票の除票の保存期間は、転出や死亡により消除された日から5年間とされています。5年を超えた住民票の除票については、市区町村により取り扱いが異なりますが、交付を受けられないことが多いので注意が必要です。
3.Xの相続人の調査
Xが死亡しており、Xに相続人がいる場合には、Xの共有持分権は、その相続人に承継されることになります。Xに配偶者がいる場合には、配偶者は常に相続人になります。次に、第一順位は子(子がXより先に死亡している場合は孫など直系卑属)、第二順位は父母(父母の両方がXより先に死亡している場合は祖父母など直系尊属)、第三順位は兄弟姉妹(兄弟姉妹がXより先に死亡している場合は兄弟姉妹の子)の順位で相続人になります(上の順位の者がいれば、その者が相続人となり、下の順位の者は相続人にはなりません。)。そこで、相談者には、Xに配偶者や子、両親、兄弟姉妹などの法定相続人がいるかを調査する必要が生じます。
相続人調査のためには、まず、配偶者や子、父母の存在を確認するために、Xの出生から死亡までの全ての戸籍を取得しなければなりません。そして、子や父母がいないことが判明した場合には、父母それぞれの出生から死亡までの戸籍を取得して、兄弟姉妹の存在を確認することになります。
戸籍謄本等の交付請求は、プライバシーの問題がありますので、戸籍に記載されている者や一定の範囲の親族など一定の者に限って認められていますが、住民票と同様に、「自己の権利行使・義務履行のために戸籍の記載事項を確認する必要がある者」についても認められていますので、共有物分割請求権を有する相談者も請求することが可能です。
このようにして特定することができたXの相続人については、それぞれの戸籍の附票を取ることにより、現住所を把握することが可能です。
4.Xの住所やXの法定相続人が判明した場合
上記のような調査により、Xの住所やXの法定相続人が判明した場合には、まずは、相談者は、Xや法定相続人に連絡を取り、事情を説明して、X名義となっている土地の共有持分権を買い受けるか、Xや法定相続人にも売主となってもらうよう交渉することになるでしょう。交渉がうまくまとまれば、それで一件落着です。
連絡を取ろうとしても、取れなかったり、交渉に応じてもらえないような場合には、どのようにすればよいでしょうか。
前述のように、共有持分権者には、他の共有持分権者に対する共有物分割請求権が認められています。相談者は弟と共に、Xまたは法定相続人に対し、共有物分割請求訴訟を提起することができます。
共有物分割請求は、共有物そのものを分割する現物分割が原則です。しかし、共有地上に父親単独名義の建物が存在するような本件の場合に、敷地を分筆して現物分割するのが妥当な解決かというと、疑問があります。最高裁判所の平成8年10月31日判決は、一部の共有者に共有物を取得させ、金銭的に清算する全面的価格賠償の方法による分割につき、次のように判断しています。
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共有物の性質及び形状、共有関係の発生原因、共有者の数及び持分の割合、共有物の利用状況及び分割された場合の経済的価値、分割方法についての共有者の希望及びその合理性の有無等の事情を総合的に考慮し、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情が存するときは、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法・・・も許されるものというべきである。
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具体的な事情にもよりますが、相談事例のケースでも、相談者と弟が、Xまたはその法定相続人に5分の1の共有持分権の価格を支払った上で、土地を2人の共有とする結論を得る可能性も十分にあり得るかと思われます。
5.Xの所在や生死が分からない場合の対応
前述のように、住民票の除票の保存期間は5年間とされていますので、土地の登記簿上にXの住所の記載があったとしても、Xの住民票の除票を取得できず、Xの住所やそもそもXが存命であるかを確認できない可能性は多々あるかと思います。
このような場合には、家庭裁判所に不在者財産管理人を選任してもらうという方法が考えられます。不在者財産管理人は、行方不明である不在者の財産について、家庭裁判所の監督の下に管理、保存することになります。管理や保存を超えて、財産を処分したり、訴訟行為を行うことも家庭裁判所の許可を得て行うことができます。
相談者としては、Xの不在者財産管理人と交渉をした上で、家庭裁判所の許可のもと、不在者財産管理人とともに土地を売却することも可能です。また、不在者財産管理人を選任してもらった上でXを被告として共有物分割請求訴訟を提起し、全面的価格賠償の方法による分割によりXの共有持分権を取得する方法もあり得ます。
このような方法により、相談者や弟は、土地の共有持分権者が行方不明、生死不明であったとしても、土地全体の売却をなしうるのです。