不動産売買のときに気をつけること~傾斜のある土地
相談例
不動産売買に際し、留意しなければならない事項として、今回は、「がけ」や「傾斜のある土地」をとりあげます。
ここがポイント
1.総論
「がけ」というと、隣の土地との間が断崖絶壁のように区切られているようなイメージをもたれるかもしれません。そのような土地の売買は特別の事例であるかのように思われるかもしれません。しかし、ここでいう「がけ」とは、一定の傾斜等がある土地のことをさしますので、都市のなかでも自然にある土地なのです。
近年、台風や暴風雨、大雨など自然現象により、がけ崩れが発生して、建物に被害を及ぼす災害が、しばしばニュースなどで取り上げられます。
樹木の伐採による自然環境の破壊とか、不良な宅地造成が原因であることもありますが、そのような人為的な原因でなくても、自然の「がけ」でも台風や大雨で崩壊することがあります。
がけ崩れ・地滑り等による土砂の流出から人命や財産を守るため、いろいろな法規制が存在します。
以下、法規制についてみていきましょう。
2.建築基準法
建築基準法は、「建築物の敷地」について安全性が確保されるように、次のような定めをしています。
「建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合においては、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならない」(建築基準法19条4項)という定めです。
建築物の敷地の周辺におけるがけ崩れ・地滑りなどに起因する土砂災害等の被害が発生しないよう、「被害を受けるおそれのある場合」は、具体的措置を講ずるよう求められているのです。
具体的措置としては、「擁壁の設置」が明記されています。「その他の安全上適当な措置」としては、がけの勾配の緩和や、危険な建築物の使用中止、移転等の措置も含まれると考えられています。
さらに、建築基準法40条は、「地方公共団体は、その地方の気候若しくは風土の特殊性又は特殊建築物の用途若しくは規模に因り、この章の規定又はこれに基く命令の規定のみによっては、建築物の安全、防火又は衛生の目的を充分に達し難いと認める場合においては、条例で、建築物の敷地、構造又は建築設備に関して安全上、防火上又は衛生上必要な制限を附加することができる」と定めています。
建築基準法は、全国共通に適用のある最低限度の基準を基本的に定めていますが、地方の実情にあわせて、さらに厳しい規制や制限を条例で附加することを認めているのです。
各地方公共団体が定める「がけ条例」については後述しますが、がけ条例によって、建物の位置や構造等が制限されているのです。
3.宅地造成等規制法
宅地造成等規制法は、宅地造成に伴うがけ崩れ又は土砂の流出による災害防止のため、必要な規制を行うことにより国民の生命・財産の保護を図ることを目的としています。
宅地造成等規制法は、「宅地造成工事規制区域」と指定された区域内の土地で、一定規模以上の切土・盛土によりがけを生じる工事や、宅地造成面積が一定規模以上の工事を行う場合には、都道府県知事等の許可を必要とすると規定しています。
また、都道府県知事は、宅地造成に伴う災害で相当数の居住者その他の者に危害を生ずるものの発生のおそれが大きい一団の造成宅地で一定の基準に該当する区域を「造成宅地防災区域」に指定することができますが、同区域内では、擁壁等の設置又は改造その他災害の防止のため必要な措置をとることを求めることができます。
4.がけ
宅地造成等規制法の施行令において、崖(がけ)とは「地表面が水平面に対し30度を超える角度をなす土地で硬岩盤(風化の著しいものを除く)以外のもの」をいうとされています。
「急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律」2条は「急傾斜地」とは「傾斜度が30度以上である土地をいう」と定めています。
この30度という勾配がひとつの「がけ」の基準となっており、後述するがけ条例なども「30度を超える傾斜地」と定義づけているところがあります。
5.砂防法・地すべり等防止法・急傾斜地崩壊防止法
①「砂防法」という法律により「砂防指定地」と指定された区域、②「地すべり等防止法」という法律により「地すべり防止区域」と指定された区域、③「急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律」という法律により「急傾斜地崩壊危険区域」と指定された区域を、「砂防三法指定区域」などと呼んだりしますが、その指定された区域内では、土地の掘削、立木の伐採等、土砂災害を誘発するような行為が制限されています。
たとえば、砂防指定地(①)で、「施設又は工作物の新築、改築、移転又は除去」とか「土地の掘削、盛土、切土その他土地の形状変更」をするには「許可」が必要です。
③の「急傾斜地崩壊危険区域」内においても、「のり切り、切土、掘さく又は盛土などの工事」については都道府県知事の「許可」が必要です。
6.土砂災害防止法
「土砂災害警戒区域等における土砂災害防止対策の推進に関する法律」(「土砂災害防止法」)は、土砂災害から国民の生命を守るため、土砂災害のおそれのある区域について危険の周知、警戒避難体制の整備、住宅等の新規立地の抑制、既存住宅の移転促進等のソフト対策を推進しようとする法律です。
急傾斜地の崩壊等が発生した場合に住民等の生命又は身体に危害が生じるおそれがあると認められる区域が「土砂災害警戒区域」(通称イエローゾーン)といわれますが、急傾斜地の崩壊等が発生した場合に、建築物に損壊が生じ、住民等の生命又は身体に著しい危害が生じるおそれがあると認められる区域で、特定の開発行為に対する許可制や建築物の構造規制等が行われる区域を「土砂災害特別警戒区域」(通称レッドゾーン)といいます。
後者の「土砂災害特別警戒区域」内において、許可又は変更許可を受けずに特定開発行為を行った者は1年以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます。
7.がけ条例
各地方公共団体が定める「がけ条例」の「がけ」に該当するかどうかは、「がけの傾斜度」と「がけの高さ」などが判断基準となります。
「がけの傾斜度」については、30度とする自治体が多くありますが、勾配を約26.5度とする自治体もあります。
「がけの高さ」は「2m」とする自治体が多くありますが、「3m」「5m」とする自治体もあります。
「がけ」と判断された場合、「がけ上の土地」や「がけ下の土地」の一定範囲に建築物を建築する場合には擁壁を設ける等の規制が定められています。
なお、制限の内容は各自治体によって異なるため、対象土地にかかる条例を調査したり、各自治体の役所に問い合わせをしたりすることが必要と考えられます。
8.がけ条例等の規制と不動産売買の注意点
がけ条例やその他の法規制が存在することによって、土地を購入して建てようと計画していた建物が、希望通りには建たないことがありますので、不動産売買にあたっては注意が必要です。
また、なんとか希望の建物が建てられそうであっても、そのためには新たな擁壁の築造や、既存の擁壁の補修、地盤補強工事などが必要とされ、多額の追加費用が必要となることもあります。
そのような不測の事態が発生しないよう、がけや傾斜地についての不動産売買の場合、がけ条例などの法規制に注意を払う必要があるのです。