不動産売買のときに気をつけること~地中埋設物
不動産売買に際し、留意しなければならない事項として、今回は「地中埋設物」をとりあげます。
ここがポイント
1 「地中埋設物」をめぐってしばしば起こる紛争
土地の買主が、土地購入後、建物を建築しようとしたところ、建築の障害となる地中埋設物などが発見されたため、買主が売主に対し、その地中埋設物等の除去費用や地盤改良費用などを支払うよう請求して紛争になることがしばしばあります。
地中埋設物は地中障害物と表現されたりもしますが、地中埋設物には、ビニール片や木片から、コンクリートやアスファルトのガラ、杭や構造物の残骸、排水管・井戸、石綿含有産業廃棄物であるスレート片など、さまざまな場合があります。
地中埋設物は、地中の中にあるもの、地中に埋まっているものですから、売買契約締結時には、現地で土地を見ても、目視でみることができず、その存在が明らかでないことが多いわけです。
また、売買契約時には更地の取引であっても、その前に建っていた建物などを解体する際に、売主側が基礎や杭等を撤去せずに残置されていた、それが地中埋設物となっているようなケースもしばしばあります。
そして、土地の引渡しを受けた後、いざ買主がその土地の上に建物を建てようと工事着工した時に、地中埋設物が地中に存在することを買主が知り、買主が売主に対し費用・損害などを請求する、というのが紛争の典型例といえましょう。
2 「地中埋設物」が判明した場合の通常の初期行動
買った土地に地中埋設物が存在したという紛争になると、まず、行わなければならないことは、どのような性質のどのような埋設物が存在するか、また、その埋設物が、地中のどの程度の深さにあり、また当該土地のどの範囲にあるか、についての調査確認です。もちろん、当事者が、新しく建物を建てるためには、この範囲内の埋設物を撤去することで問題が解決する、という場合もあります。
3 地中にある「土」以外のものがただちに「地中埋設物(地中障害物)」となるわけではありません
そもそも、土の中には、様々な物が含まれ、また、埋設されています。
ですから、地中に「土」以外のものが存在していれば、それがただちに「地中埋設物(地中障害物)」となるわけではありません。
地中に土以外の異物が存在し、埋設されていても、買主に特に不利益を与えるものではないかぎり、土地の瑕疵に当たらない、という考えにたっている民法改正前の裁判例もあります。
問題は、「異物」の質や量、そして「買主の不利益」をどのように考えるか、ということになるでしょう。
4 地中埋設物が存在することがどのように評価されるか
~裁判例のいくつかから
(1)以前、次のような考えをとった裁判例がありました。
鉄筋3階建の分譲マンションを建築する目的で買い受けた造成宅地の地下に木片やビニール片が大量に混入していた事案で、買主が当初予定していたベタ基礎工法を杭打工法に変更を余儀なくされたにせよ、現に鉄筋3階建物を新築することができて、その買受目的を達しているばかりでなく、本件土地がすでに10年以上近くも以前に埋立により造成された宅地であって、その後、原告が本件売買によりこれを取得するまで何ら問題なく転々譲渡されてきており、しかも、その間、地上には平家建ではあるが鉄筋コンクリート造の旧建物(診療所兼居宅)が現存していたのであるから、これらの経緯、事実関係等からすれば、埋立当時における造成工事自体の瑕疵が問題となるかは格別、少なくとも、取引上の宅地としては、本件土地に瑕疵がなかったものとみるのが社会通念上公平(担保責任の衡平な分担)というべきである、とした裁判例です。
同裁判例は、その前段階として、「宅地という地目の土地が建物の敷地に供されるものである以上、その地上に建築可能な建物は建築基準法等によって許容される建物であれば足り、かつこれを通常用いられる工法により建築することが可能な土地である限り、一般の社会的取引においては、宅地としての性能に欠けるところはないと解するのが相当」と述べています。
以上の裁判例には、その背景や事実認定のもとになった特有な事情もあったと思われますが、前段階としてでてきた一般論は、現在は、やや強引な考えととらえられてもやむを得ないと考えます。
すなわち、①「宅地という地目の土地が建物の敷地に供されるものである以上、その地上に建築可能な建物は建築基準法等によって許容される建物であれば足り」る、とか、②「これを通常用いられる工法により建築することが可能な土地である限り、一般の社会的取引においては、宅地としての性能に欠けるところはないと解するのが相当」という考えは説得性を欠くと言わざるを得ないでしょう。
(2)これに対し、参考になるのが、平成25年の大阪高裁の判例です(平成25年7月12日付判決)。
その判決は次のように述べています。
「土地の売買において、地中に土以外の異物が存在する場合一般が、直ちに土地の瑕疵ということができないことはいうまでもないが、その土地上に建物を建築するについて支障となる質・量の異物が地中に存在するために、その土地の外観から通常予測され得る地盤の整備・改良の程度を超える特別の異物除去工事等を必要とする場合には、宅地として通常有すべき性状を備えないものとして土地の瑕疵になると認めるのが相当である」
「本件の場合、本件土地は〇〇団地用地として〇〇に売却されているのであるから、当然に本件土地上に建物を建築できることが前提であるところ、前記認定のとおり、本件土地の広い範囲の地中に、0.85メートル~9.45メートル程度の層厚で、ごみ、コンクリートガラ、アスファルトガラ、鉄片、ガラス片、ビニール、焼却灰、木くず等の産業廃棄物が発見され、その量は1万6,309㎥にのぼっていたというのであり、これらを除去するためには、後述のように多額の費用を要する特別の工事をしなければならなかったのであるから、本件廃棄物の存在は土地の瑕疵に当たるものというべきである」。
「地中埋設物」というだけで短絡的に考えるのではなく、その「地中埋設物」すなわち「異物」の「質」や「量」を検討し、建物建築するについて支障となる「質」「量」か、そして、「土地の外観から通常予測され得る地盤・改良の程度を超える特別の異物除去工事等が必要かどうか」などを具体的に検討しており、説得的といえましょう。
5 買主のどのような「損害」が認められやすいか
過去の裁判例をみてみると、「損害」の肯定例・否定例などいろいろみられます。当事者が不動産売買契約締結時に、地中埋設物などの存在の可能性をどこまで予測でき、どこからは予測できなかったか、とか、地中埋設物の性質・量、地中埋設物が残置された原因、売買目的(どのような建物を建てる目的のために売買を行ったか)など、具体的事情によっていろいろなケースがあります。
以下に述べる「損害」の記載も、過去の裁判例のひとつのケースだとお考えください。
(1) 地中埋設物は、これらが存在しないものとして売買がなされた場合には、買主が、購入後に、売買目的の建物を建てるために必要な、埋設物除去費用であると認められれば、は損害として認められやすいと考えられます。
地中埋設物の撤去ないし廃棄に要した工事費用について、瑕疵担保責任において賠償されるべき信頼利益に含まれると述べた裁判例もあります。
採掘費、埋戻し費、地盤の改良費などを損害として認めた裁判例もあります。
(2) 建物を建築するために土地を購入した事案で、地中埋設物があったため基礎工事の工法を変更したことによる増加工事費を認めた裁判例もあります。
産業廃棄物を撤去するための重機に関連する追加費用も損害として認めた裁判例もあります。
(3) 土地に地中埋設物が存在したために補修工事が必要となった場合は、補修工事に伴う付属的な費用は、損害と認められやすいといえます。
ただし、修補費用の全額が損害として認められないこともしばしばあります。信義則によって、費用額の8割とされたり、半額程度にされたりした裁判例もあります。
6 土地の売買にあたっては、地中埋設物が問題となることはめずらしいものではありません。そして、その撤去費用も、多額になることが多く、裁判になることもしばしばです。売主と買主は、不動産売買契約時に、地中埋設物が存在する場合を意識して、その場合のリスクを売主・買主がどのように負担するか、合意で特約しておいたり、どのような場合に、瑕疵担保責任・契約不適合責任を負うのかも事前に予測し、合意しておくと紛争回避につながります。