中古建物の売買における建物・設備の経年劣化と契約不適合
相談事例
当社はカフェを開くため築30年の建物を購入しました。建物の引き渡しを受けたあとに気が付いたのですが、建物の空調設備は耐用年数を大幅に超えているため、経年劣化により消費電力が増加し、冷暖房効率が悪い状態にあります。そのうえ、この空調設備の製造業者はすでに廃業しているため、近い将来、この空調設備が故障した場合には修理ができず、多額の費用をかけて空調設備の交換をしなければならない可能性があります。
当社は、このような品質・性能の空調設備は売買契約の内容に適合していない(契約不適合)と考えていますが、売主は、建物や設備の経年劣化は契約不適合に当たらないとして取り合ってくれません。建物・設備の経年劣化と契約不適合との関係をどのように考えればよいのですか。
解説
1 契約不適合責任について
売買契約の目的物に契約不適合(引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないこと)がある場合、買主は、売主に対し、目的物の修補や損害賠償などの契約不適合責任を追及することができます。
契約不適合といえるかどうかは、引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しているかどうかによることから、まず契約の内容として、どのような種類、品質又は数量の目的物が売買対象とされたのかが問題になります。
その判断にあたっては、売買契約書の条項が重要な判断材料になることは当然ですが、これに限らず、物件状況等報告書や重要事項説明書等の関係書類の記載内容や、契約当事者が契約を締結した目的、契約締結に至るまでの経緯、売買代金額なども判断材料になり得ます。
2 経年劣化と契約不適合責任との関係について
築年数が経過した中古建物やその付帯設備の売買についてみると、一般的には、中古建物・設備には時間の経過による損傷や性能の低下などが発生していることから、売買契約の当事者は、特段の合意がない限り、相応の経年劣化が発生している品質・性能の建物・設備を売買契約の目的物としたものと考えられます。
したがって、経年劣化があったとしても当然に契約不適合になるわけではありません。例えば築年数30年の建物・設備の売買では、相応の経年劣化がある築年数30年の建物・設備として有しているべき品質・性能があるかどうかが問われ、これを欠く場合に契約不適合になるものといえます。
他方、中古建物・設備であっても、例えば売主が一定の品質や性能があることを保証するなどして、当該品質・性能がある中古建物・設備を引き渡すことが契約内容になっている場合には、当該品質・性能を欠くことは契約不適合になります。
3 東京地裁平成26年5月23日判決
本件相談のモデルは東京地裁平成26年5月23日判決です。この判決では、以下のとおり、空調設備について、売買において予定されていた品質・性能を欠いていたものとは認めませんでした。
(判決の要点 ※一部簡略化しています。)
・ 本件空調設備は、業務用エアコンの法定耐用年数である15年を大幅に超える約30年を経過し、現在、運転状況に特段の問題はないものの、老朽化が進んでおり、経年劣化により消費電力が増加し、また、新品時のような冷暖房効率は発揮できない上、近い将来正常に作動しなくなり、修理が必要となった場合には、もはや部品を調達できず、空調設備の交換を余儀なくされるおそれがあるといえる。
・ しかしながら、新築から長期間が経過したテナントビルの売買においては、これに付帯する空調設備も相応の経年劣化があり、上記のような問題点が存することは、容易に想定し得るものである。
・ また、買主代表者は、建物に空調設備が存在することを認識していたものと認められるところ、本件全証拠によるも、本件売買において、売主が、買主に対し、建物の空調設備について一定の品質・性能を保証したような事情を認めるに足りない。
・ 以上によれば、建物が本件売買において予定されていた品質・性能を欠いていたということはできず、民法570条(注:改正前民法の570条)にいう瑕疵があるということはできない。