中古住宅売買における「現状有姿」の特約について
国土交通省作成の資料によれば、我が国の住宅取引全体に占める中古住宅の流通シェアは、欧米などと比較して、極めて低い水準にあります(同資料によれば、日本では14.7%であるのに対し、アメリカでは83.1%、イギリスでは88.0%)。
このような現状を踏まえ、「既存住宅市場を拡大し、ライフステージに応じた住み替え等による豊かな住生活を実現する」目的で、専門家による中古住宅の建物状況調査の活用を促す内容の法改正がありました。
このような動きを受けて、今後、中古住宅の市場が拡大する可能性があります。
そこで、今回は、中古住宅の売買契約書に多く定められている「現状有姿特約」についての問題を取り上げます。
1.事例
先日、築2年の中古住宅を購入したのですが、住み始めてすぐに、屋根裏で雨漏りが発生していることがわかりました。このことを住宅の売主に相談したのですが、売主には、「私が住んでいるときには雨漏りなんて気づかなかった。」といわれてしまいました。
私は納得がいかず、「気づかなかったからといって、責任がないということにはなりませんよね。」と言ったのですが、売主は、おもむろに契約書を取り出して、「『現状有姿のまま引き渡す。』と書いてあるのだから、あなたは、この家の現状を全て受け入れて購入したのではないか。」と言うのです。
売主の言うとおり、「現状有姿のまま引き渡す。」という条項が入っていると、私は売主に何も言うことができないのでしょうか。
2.現状有姿特約とは
中古住宅の売買では、取引の対象となる物件について、「現状有姿のまま引き渡す。」、「一切現状のまま引き渡す。」などといった文言の特約が付されていることが多いです(以下、これらの特約をまとめて「現状有姿特約」といいます)。
「現状有姿」という単語自体、耳慣れない言葉であり、どのような意味であるかあいまいに思われるかもしれませんが、概ね「現在のあるがままの状態」というような意味で使われます。
実際に、中古住宅等の売買契約では、目的物の範囲を示す意味、例えば、住宅内に付属しているテーブルが売買の目的物に含まれているのかどうかといった意味や目的物をどのような状態で引き渡すのかという意味で、現状有姿特約が使われていることが多いように思います。
当然ながら、中古住宅には、経年劣化、自然損耗などがありますので、このような外からみた建物の状態、例えば、建物の老朽化の具合や傾きの度合い、付属物の状況など、建物の現状で売買するという意味で、現状有姿特約が入っているのです。
3.瑕疵担保責任との関係
このように、現状有姿特約は、建物の現在のあるがままの状態で売買するという意味ではありますが、例えば、建物がどのような状態であっても、買主は一切異議を述べないし、売主は、一切責任を負わないという意味まで含まれているのでしょうか。
建物に買主が気づかないような欠陥があった場合には、瑕疵担保責任による契約の解除や損害賠償の請求が問題になります。
本コラムでも何度か瑕疵担保責任について取り上げさせていただいております(2014年9月号不動産売買のときに気をつけること~瑕疵(かし)担保責任とは?。2015年8月号近時、問題となった事例から~土地にふっ素が含まれていた事例。2015年9月号不動産売買における心理的瑕疵とは?。2016年5月号民法改正によって瑕疵(かし)担保責任はどう変わる?など)。
そして、売主と買主は、「もし買主が契約当時に気づかなかった欠陥を見つけても、瑕疵担保責任を請求しません。」という約束を結ぶこともできます。これを瑕疵担保責任免責特約といいます。
場合によっては、売主の方が、建物に欠陥が見つかった場合に、本件のような現状有姿特約が瑕疵担保責任免責特約を意味していると主張することがあります。
しかし、買主は、建物を購入する前に地盤沈下の有無など、外から見てわからない部分まで把握したうえで現状有姿特約を結んでいるとはいえないのが通常でしょう。そのため、少なくとも、外から見てわからない部分に欠陥があった場合にまで、現状有姿特約を根拠に一切売主に責任を追及できないと考えることは難しいのではないかと思われます。
また、いくらあるがままを受け入れるといったとしても、建物を購入しているわけですから、買主は、建物としてあるべき最低限の機能は確保されていると考えるのが通常です。そのため、建物としてあるべき最低限の機能に関する部分に欠陥があった場合にも、現状有姿特約を盾にしてその責任から逃れることはできないと考えられます。
4.本件の場合
まず、屋根裏で雨漏りが発生しているのであれば、特に買主が契約前に雨漏りに気づくことができたような事情がなければ、瑕疵担保責任の対象になると考えられます(本件では、買主は、建物の引渡しを受けてからすぐに雨漏りに気づいていますので、契約のときから雨漏りがあったものと考えます。)。
次に、本件では、売主が買主に対して、「あなたはこの家のあるがままを受け入れて購入したのではないか。」といっていますので、現状有姿特約を盾に、雨漏りに関する瑕疵担保責任から逃れようとしていると考えられます。
しかし、本件のように売主自身も気づいていないような雨漏りであれば、買主は、契約前に外からみて雨漏りがあることが分かったとはいえないでしょうから、買主が現状有姿の特約でこの雨漏りまで受け入れたと考えることは難しいでしょう。
また、築2年の中古住宅であれば、建物の最低限の機能として、雨漏りしない状態であることが求められているともいえます。この点でも、買主が現状有姿特約でこの雨漏りまで受け入れたと考えることは難しいでしょう。
したがって、売主は、現状有姿特約を盾に雨漏りの責任から逃れることができず、雨漏りの修理代などの損害賠償責任を負うことになる可能性が高いといえるでしょう。
5.まとめ
今回は、「現状有姿特約」を巡るトラブルについてみて参りましたが、やはり「現状有姿」という表現自体、あいまいな部分があることは否定できません。「現状有姿」の具体的な内容が明らかでないために起こってしまうトラブルがあることも事実です。
そのため、「現状有姿特約」を入れるとしても、例えば、目的物の範囲や状態について、売主は具体的に表示できる部分は表示し、買主も、「現状有姿」の具体的な内容を確認するようにすると、トラブルが減るのではないでしょうか。