隣地への越境物がある不動産を売却するときの注意点
相談事例
私は、所有している土地建物(以下「本件不動産」といいます。)を売却することを検討していますが、本件不動産については、建物の設備の一部が隣の土地に越境しています。この越境物について、私と隣地所有者との間では何も取り決めをしていません。本件不動産を売却するにあたって、どのようなことに注意する必要がありますか(※境界についての争いはなく、取得時効の成立もないものとします。)。
解説
1 隣地への越境物がある不動産を所有することのリスクについて
本件不動産のように隣地への越境物がある不動産を所有することは、以下のとおり、隣地所有者との間で紛争が生じるリスクがあります。
まず、所有している建物の設備の一部が隣地に越境しているという状態は、その越境物によって隣地所有者の土地所有権を侵害しているものと評価されます(越境について故意または過失があるかどうかは問いません)。したがって、隣地所有者から、土地所有権が侵害されていることを理由として、越境物の撤去を求められるリスクがあります。
また、この越境が故意または過失によって生じている場合には、隣地所有者から、土地所有権の侵害によって被った損害について損害賠償を求められるリスクがあります。
2 売却を行う場合のリスクについて
このように、隣地への越境物がある不動産を所有することにより、隣地所有者との間で紛争が生じるリスクをかかえているところ、もしこのようなリスクについて何も対策をとらずに売却した場合、例えば、将来、買主のもとでリスクが現実化して、買主が隣地所有者から越境物の撤去等を求められるなど、買主と隣地所有者との間で紛争が生じる可能性があります。
そして、隣地所有者との間で紛争になった買主は、売主に対して、例えば、売買契約の際に売主から越境についての説明がなく越境の事実を知らなかったとか、説明が不十分であったなどとして、説明義務違反を理由とする損害賠償請求をしたり、契約不適合責任(※)の追及をする可能性があります。
このように、隣地への越境物がある不動産の売却については、売主は買主から損害賠償請求等を受けるリスクがあります。
※ 契約不適合責任とは、引き渡された目的物(本件の場合には不動産)が、種類、品質または数量に関して契約の内容に適合しないものであるときに、売主が買主に対して負う責任です。買主は、売主に対して、所定の要件を満たした場合には、目的物の修補などの履行の追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、解除を行うことができます。
3 売却をするときの注意点
本件において相談者がこのようなリスクを避けるためには、本件不動産の売買契約を締結する前に越境物を撤去するなどして、越境を解消してから売買契約を締結することが最も適切といえます。
しかしながら、越境の内容や売買当事者が希望する売買のタイミング等によっては、売買契約の締結前に越境を解消することが難しいことがあり、やむを得ず、越境が解消されない状態のまま売買契約を締結せざるを得ない場合もあります。
その場合の相談者の対応としては、
① 隣地所有者との関係では、越境物の処理等に関して書面で合意をしておくことが考えられます。合意の内容としては、例えば、境界の位置や越境物と越境の範囲を図面等により正確に特定して相互に確認をしたうえで、越境物の処理(例えば、相談者側で建物を建て替えるタイミングで越境物を撤去するなど)や、相談者又は隣地所有者が、その所有する土地建物を第三者に譲渡する場合には、その第三者に合意の内容を承継させることなどが考えられます。
② 買主との関係では、売買契約の締結前に、買主に対して、越境物に関する事実を正確かつ明確に説明し、もし過去に隣地所有者との間で越境物に関する交渉や紛争の経緯等があれば、それについても説明を行うことが考えられます。ここで説明をしなかったり、事実と異なる説明や不十分な説明をした場合には、のちに買主から、説明義務違反を理由とする損害賠償請求や契約不適合責任の追及を受けるリスクを高めることになります。
このような説明をしたうえで、買主との間で、越境物について協議し、売買契約において、越境物の処理(例えば、相談者が隣地所有者から前記①のような合意書を取得して買主に交付するのか、越境がある状態のままで引き渡すのか等)について定めたり、相談者は越境について契約不適合責任を負わない旨を定めることなどが考えられます。
4 最後に
このように、隣地への越境物がある不動産を売却するに当たっては、隣地所有者との関係や買主との関係で注意しなければならない問題がありますので、弁護士等の専門家にご相談されることをお薦めいたします。