購入したマンションの騒音問題
マンションを購入すれば、ご自身の財産として自由にアレンジすることができるのが魅力ですが、反面、ご自身の責任で維持管理していかなければなりません。賃貸マンションのようにオーナー任せにするわけにはいかず、マンションの管理組合などにも自ら出席し、住みやすい環境をご自身で守っていく必要があります。
今回は、マンションの騒音問題を取り上げて、トラブルが発生したときにご自身で対応するための方策についてお話しします。
事例
私は、妻と静かな老後を過ごそうと、退職金を使ってマンションの一室を購入しました。
当初、真上の部屋は空き室で大変静かだったのですが、しばらくして男性が引っ越してくると、その真上の部屋から、深夜にドカン、ドカンと大きな音が響いてくるようになりました。近所の人によると、引っ越してきた男性はトレーニングが趣味だそうで、重いダンベルなどから大きな音が出ているようです。日中は働いており、深夜に帰宅してからトレーニングをしているようですが、真夜中にドカン、ドカンと巨大な騒音があり、寝ていられません。
マンションですから、通常の生活音や子どもの走り回る足音くらいは想定していましたが、深夜のダンベルの騒音など耐えられません。どうすればよいでしょうか。
ここがポイント
1.自ら交渉する
問題の住人とご自身で交渉できるのであれば、それが最も簡単な方法です。直接訪問することも考えられますし、手紙を郵便受けに投函することも考えられます。
問題の住人に悪気がなく、自分が騒音で迷惑をかけていたことを知らなかったような場合には、すぐに改善されるかもしれません。話合いをすることができれば、たとえば、ある程度の騒音が避けられないにしても、迷惑にならないような時間帯を決めることなどで解決できる可能性も考えられます
2.管理組合に相談する
自ら交渉しても改善されない場合や、直接連絡することに不安がある場合には、マンションの管理組合に相談することが考えられます。マンションによっては、管理会社に管理を委託しており、住人の相談に対応していることもあります。
管理組合の理事会で騒音問題を取り上げてもらい、事実関係を確認してもらうことや、騒音の事実が確認されているのに改善されない場合には、管理組合名で問題の住人に通知書面を出してもらうことや、話合いに立ち会ってもらうことなどが考えられます。
3.管理組合が法的手続をとれる場合
騒音などの問題を発生させる行為が、マンションの住人の「共同の利益に反する行為」に当たる場合には、管理組合総会の過半数の決議により、そのような行為の停止を請求することができ、行為をやめさせるための訴訟を提起することもできます。
ただし、「共同の利益に反する行為」というためには、相当広い範囲の住人に迷惑が及んでいることが必要です。裁判例では、夜間の一定時間帯のカラオケスタジオとしての使用禁止を認めた例などがあります。
これに対し、騒音などが隣同士だけの問題にとどまるような場合には、「共同の利益に反する行為」には当たらず、管理組合が法的手続をとることはできません。
また、騒音があるかどうかなどについて住人の間に強い対立があると、管理組合としてどちらの側に立つこともできず、当事者間で法的手続をとってもらうしかないと判断せざるを得ない場合も考えられます。
4.自ら手続をとる
直接の交渉や管理組合への相談で解決できない場合に考えられる手段としては、まず、弁護士会での仲裁を申し立てることや、裁判所に民事調停を申し立てることが考えられます。これらは、どちらも第三者が間に入って話合いによる解決を目指すための手続です。
また、話合いにより解決できない場合には、訴訟を提起することも考えられます。訴訟とは、裁判官による判断を求める手続であり、騒音問題については、損害賠償の支払いを求める損害賠償請求訴訟や、騒音を発生させる行為をやめさせる差止請求訴訟が考えられます。
5.受忍限度とは
ところで、近隣から音が発生すれば、どのような音であっても、騒音として損害賠償などを請求できるというわけではありません。社会生活を送っていく上で一定の音が発生するのはやむを得ませんから、ある程度は受忍する(がまんする)ことが求められます。これを「受忍限度」といいます。
それでは、どの程度の騒音であれば受忍限度を超えるのか、については、定まった基準はなく、個々の事案ごとに様々な事情を考慮して判断されています。たとえば、上階の部屋の子どもが走り回るなどして相当の頻度で騒音を発生させていた事案において、午後9時から午前7時までの時間帯は40 dB(A)を越えて、午前7時から午後9時までの時間帯は53 dB(A)を越えて騒音を到達させてはならない、という差し止めの判断をし、これを超える騒音について受忍限度を超えると判断した裁判例などがあります(東京地判H24.3.15)。
6.事実確認・証拠の収集
また、騒音が発生している原因を特定するのが難しい場合もあります。たとえば、水道の使用によって大きな騒音が発生してしまう「ウォーターハンマー現象」が知られています。ご自身としては、近隣の住人が騒音を出していると思っていても、本当にそれが正しいとは限りません。
また、本当に近隣の住人が騒音を出しているとしても、騒音を出していることを否定するかもしれません。騒音など出していないと主張されれば、その住人が騒音を出していることの証拠を収集する必要が出てきます。
部屋の中で騒音が聞こえることは、騒音計を使って測定することができます。自治体によっては、一定期間、測定機器を無料で貸し出しているところもあります。ただし、その騒音の発生源を厳密に特定するためには、専門の業者に測定を依頼する必要があります。裁判例には、発生源の住人に測定費用を支払わせた例もありますが、当面は被害を主張する側が費用を負担せざるを得ません。
実際にどの程度までの証拠を確保しなければならないかについては、どのような手続をとるのかも含めて、弁護士に相談するのが有用かもしれません。
7.売買に際しての注意点
以上、マンションを購入した後に発生した騒音問題に対応する方策についてお話してきました。
しかしながら、もし、購入する前から騒音問題があったということになると、そのような事情を売主は説明しなければならなかったのではないか、という問題があります(2016年7月号「不動産売買と隣人トラブル」参照)。
また、マンションの遮音性能も様々です。生活環境が気になる方は、遮音性能にも注意してみてください。