不動産売買契約上の地位の移転について
相談例
先日、所有している不動産を売却する契約を締結し、現在、決済前の段階なのですが、事情により資金が必要となりました。
売主の地位を第三者に移転することで資金を得ようと考えているのですが、そのようなことは可能なのでしょうか。
ここがポイント
1.契約上の地位の移転について
契約当事者の地位が合意によって移転されることを契約上の地位の移転といいます。
旧民法には規定がありませんでしたが、判例(最高裁昭和30年9月29日判決)や学説において、契約の相手方が承諾すれば、契約上の地位を移転することも可能であるとされていました。
その後、平成29年の民法改正により以下の規定が設けられ、上記判例や学説の立場が明文化されました。
◆ご参考
民法第539条の2
契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において、その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位は、その第三者に移転する。
なお、ここでいう契約上の地位の移転は、「特定承継」(個々の原因に基づいて個々の権利義務を譲渡すること)における当事者の合意による移転が対象とされています。
相続や合併などの「包括承継」(他人の権利義務を一括して承継すること)や、裁判所の命令に基づく移転などは、対象とされておりませんので、ご注意ください。
(1)要件等
契約当事者及び譲受人の三者で契約した場合(三面契約)には、契約上の地位が有効に移転します。
地位の移転がこのような三面契約で行われなくても、改正民法に規定されているとおり、契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をし、契約の相手方がその譲渡を承諾した場合には、契約上の地位が有効に移転します。
もっとも、常に契約の相手方の承諾が必要とされているわけではなく、契約によっては相手方の承諾がなくても、契約上の地位が移転することがあります。
例えば、賃貸借契約において、賃貸借が対抗要件(民法第605条、借地借家法第10条、同法第31条など)を備えている場合、賃貸借の対象となっている不動産が譲渡されたときは、その不動産の賃貸人の地位は、譲受人に移転するものとされています(民法第605条の2第1項)。
また、不動産の譲渡人が賃貸人であるときは、賃借人の承諾がなくても、譲渡人と譲受人との合意によって、賃貸人の地位が譲受人に移転するものとされています(民法第605条の3)。
契約上の地位の移転は、後述のとおり、債権債務の移転を伴います。したがって、そもそも債権譲渡や債務引受が認められない場合には、行うことができません。
また、契約上の地位の移転自体が、合意や法律によって禁止されている場合にも、行うことができません。
なお、改正民法は、契約上の地位の移転を第三者に対抗するための要件に関する規定を設けておらず、対抗要件が必要かは解釈に委ねられていますが、契約上の地位の移転について対抗要件を備えることが必要とされる場合があります。
最高裁平成8年7月12日判決は、預託金会員制ゴルフクラブ会員権の譲渡の第三者対抗要件について、債権譲渡の場合に準じるものと判断しています(譲渡人が確定日付のある証書により会員権の譲渡をゴルフクラブ経営会社に通知するか、または同社が確定日付のある証書によりこれを承諾することが必要であるとしました)。
(2)効果
契約上の地位の移転を受けた者(譲受人)が新しい契約当事者となり、地位を移転した者(譲渡人)は契約関係から離脱することになります。
契約上の地位の移転に伴って、契約から発生する個々の債権債務のほか、契約の取消権や解除権も移転します。
既に発生した債権債務が移転するのかについては、地位を移転する契約の解釈によることになりますが、当事者の意思が明確ではないときは、契約類型に応じた当事者の合理的意思を解釈することで判断するものとされています
(例えば、売買契約のような一時的な契約上の地位を移転する場合には、既に発生した代金債権も移転するのが通常だが、賃貸人の地位を移転する場合には、既に発生した賃料債権については移転しないのが通常である等)。
2.まとめ
相談例においても、売主(譲渡人)、買主、第三者(譲受人)の三者で契約をする場合や、売主・第三者間の合意に加えて買主の承諾がある場合には、契約上の地位を移転することが可能です。
もっとも、当該売買契約において契約上の地位を移転することが禁止されていないか、移転の対象となる債権債務などについて、よく検討する必要がございますので、ご留意ください。