不利益事実の不告知(消費者契約法4条2項)とは
相談事例
私は、A株式会社(以下「A社」といいます。)の社員から勧誘を受けて、同社から別荘地を買いました。その際、社員からは、「この別荘地は、緑が豊かで、空気のきれいな、大変静かな環境が抜群の別荘地です。」などといった説明を受けました。
ところが、別荘地の隣接地域に産業廃棄物の最終処分場や中間処理施設を建設する計画があることを、最近になって知りました。この建設計画は、売買契約締結時よりも前から存在していたにもかかわらず、社員からは何も知らされておりません。私は、社員から前記のような説明を受け、自然環境が良いと思って別荘地を買ったのであり、もしこのような建設計画があると知っていたら買いませんでした。
A社は別荘地周辺の販売物件をたくさん取り扱っていることなどからすれば、建設計画を知っていたはずです。
別荘地はいらないので、支払い済みの売買代金を返してもらうことは可能でしょうか。
(※相談者は、消費者契約法にいう「消費者」であることを前提とします。)
解説
1.不利益事実の不告知(消費者契約法4条2項)とは
本件では、消費者契約法4条2項に基づいて売買契約を取り消し、売買代金の返還を求めることが考えられます。
消費者契約法は、消費者と事業者との間に、情報の質・量、交渉力の格差があることを踏まえ、消費者が、事業者の一定の行為により誤認をし、それによって消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときに、これを取り消すことができる場合を定めています。
そのような場合の一つとして、同法4条2項は、事業者が消費者にとって不利益となる事実を告知しなかった(不利益事実の不告知)という類型を定めています。
具体的には、
①事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、
②当該消費者に対してある重要事項又は当該重要事項に関連する事項について当該消費者の利益となる旨を告げ、
③かつ、当該重要事項について当該消費者の不利益となる事実(当該告知により当該事実が存在しないと消費者が通常考えるべきものに限る。)を、故意に告げなかったことにより、
④当該事実が存在しないとの誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、(消費者は)これを取り消すことができる、と定めています(なお、同法4条2項には但書がありますが、本件では省略します。)。
事例では、相談者(「消費者」)は、A社(「事業者」)との間で、別荘地の売買契約(「消費者契約」)を締結しているところ、相談者は、A社から売買契約の締結について勧誘を受けた際に、別荘地の自然環境が良いことの説明を受けている一方で、隣接地域に産業廃棄物の最終処分場等を建設する計画があることの説明を受けていません。
では、相談者は、この条文に基づいて、売買契約を取り消すことができるでしょうか。以下、条文の②から④の文言に照らしながら、事例を見ていきましょう。
2.事例について
(1)②について
事例では、土地が別荘地として売買されていることからすれば、別荘地周辺の自然環境がどういうものであるかは、相談者のみならず、一般平均的な消費者にとっても、購入の判断に影響を及ぼす事項であるといえます。したがって、別荘地周辺の自然環境は、「重要事項」に当たるといえます。
そして、A社は、この「重要事項」に関して、「この別荘地は、緑が豊かで、空気のきれいな、大変静かな環境が抜群の別荘地です。」などといった説明をしており、これは、「重要事項」について相談者の「利益となる旨」を告げたものといえます。
(2)③について
A社からこのような説明を受けたならば、相談者のみならず、一般平均的な消費者においても、緑が豊かで、空気のきれいな、大変静かであるという別荘地周辺の自然環境を害するような要因はないであろうと、通常考えるものといえます。
他方で、もし建設計画が実現して、隣接地域に産業廃棄物の最終処分場等が実際に建設されることになれば、別荘地周辺の自然環境を害するような要因になりうることは否定できません。
したがって,建設計画があることは,相談者にとって「不利益となる事実」といえます。
そして、A社は、別荘地周辺の販売物件をたくさん取り扱っていることなどからすれば、当時、建設計画があることを知っており、「不利益となる事実」を「故意に告げなかった」ものと考えられます。
(3)④について
このようにA社が、「不利益となる事実」を「故意に告げなかった」結果、相談者は、建設計画を知らず、別荘地周辺の自然環境が良いと思って売買契約を締結しています。すなわち、相談者は、「不利益となる事実」はないと「誤認」をしたことによって、売買契約を締結したといえます。
(4)結論
以上のとおり、本件では条文に定める各要件を満たし、相談者は、A社との売買契約を取り消すことができると考えられます。そして、取り消しが認められた場合、A社に対して、支払い済みの売買代金の返還を求めることができます。
※今回は、不利益事実の不告知が問題となる事案を取り上げました。同種の事案であっても、事案ごとの具体的事実や事情により、結論等が異なることがありますことを、ご了承くださいますようお願いいたします。