不動産業による空き家対策推進プログラムについて
不動産売買に関して留意すべきこととして、今回は「不動産業による空き家対策推進プログラム」をとりあげます。
1. 「不動産業による空き家対策推進プログラム」とはなにか。
令和6年6月21日、国土交通省は、「不動産業による空き家対策推進プログラム」を策定しました。
「不動産業による空き家対策推進プログラム」の概要としては、大きくわけて2つあります。
ひとつは、「Ⅰ 流通に適した空き家等の掘り起こし」です。
もう1つは、「Ⅱ 空き家流通のビジネス化支援」です。
「Ⅰ 流通に適した空き家等の掘り起こし」は、
① 所有者への相談体制の強化
② 不動産業における空き家対策の担い手育成
③ 地方公共団体との連携による不動産業の活動拡大
④ 官民一体となった情報発信の強化
があげられます。
「Ⅱ 空き家流通のビジネス化支援」は、
① 空き家等に係る媒介報酬規制の見直し
② 「空き家管理受託のガイドライン」の策定・普及
③ 媒介業務に含まれないコンサルティング業務の促進
④ 不動産DXにより業務を効率化し、担い手を確保
があげられます。
2. 「不動産業による空き家対策推進プログラム」をみていく前に、国土交通省がその「空き家対策推進プログラム」を策定した背景を理解しておく必要があります。
国土交通省の説明はつぎのとおりです。
そもそも、空き家・空き室を放置すると、使用困難となり、やがて周辺環境等に様々な悪影響を及ぼします。それら悪影響を除去するコストも多大となります。
「使える」空き家・空き室は、なるべく早く有効に利活用を図ることが望ましいわけですが、①所有者にノウハウが不足していて、利活用をどのようにしたらよいかよくわからない、放置した場合の課題もよくわからない、物件から離れていて管理困難であるし、煩雑な手続きに対応できない、という所有者の方もおられるでしょう。
そうすると、②空き家・空き室の劣化が急速に進行し、資産価値が低下していきます。湿気がこもったり、破損にも気が付かず、利活用が困難になります。取引価格も下落します。
さらには③周辺環境等への悪影響となってあらわれてきます。景観の悪化、倒壊の危険、悪臭・害虫の発生、さらには、マンション管理費等の滞納、共用部の環境悪化、外壁剝落など外部に甚大な悪影響がでてくることになります。④そして、それら悪影響を除去するコストは高くなります。マンションなどはこれらコストが特に大きくなります。
以上のような「空き家・空き室を取り巻く問題」のため、期待されたのが不動産業です。
不動産業者は、物件調査、相続支援、利活用提案、売買・賃貸の仲介など、空き家・空き室の発生から利活用まで、一括して所有者をサポートするノウハウをもっていることが期待されています。
そのような背景で、「不動産業による空き家対策推進プログラム」の作成となりました。
以下、具体的にみていきましょう。
3. まず、「Ⅰ 流通に適した空き家等の掘り起こし」のなかの「所有者への相談体制の強化」です。
空き家・空き室の発生(入口)から、必要な管理を行いつつ、利活用・流通(出口)に至るまで、一括して「所有者をサポート」できる不動産業の強みを活かし、他業への取次も含め、「所有者へ総合的にアドバイスを行う相談体制を強化する」というものです。
次に、「Ⅰ 流通に適した空き家等の掘り起こし」のなかの「不動産業における空き家対策の担い手育成」です。
空き家対策業務に精通した宅建士等を育成するため、業界団体等が行う研修等の強化や、空き家対策における資金調達手法の多様化です。
さらに、「Ⅰ 流通に適した空き家等の掘り起こし」のなかの「地方公共団体との連携による不動産業の活動拡大」です。
空き家活用に向けた不動産業界と地方公共団体との効果的な連携を進めるため、市区町村が「空き家等管理活用支援法人」に不動産業団体を指定しやすい環境づくりを行います。また、空き家等の利活用による地域課題の解決に向けて、官民がそれぞれの強みを活かして役割分担するモデル事業を支援し、優良な事例収集とノウハウ等の横展開を図ります。
最後の「Ⅰ 流通に適した空き家等の掘り起こし」は「官民一体となった情報発信の強化」です。
「空き家等の所有者」向けに、なるべく早く段階での対応の有効性等を啓発するほか、相談先や必要手続等の情報発信を強化し、「空き家等の利活用検討者」向けには、空き家等の利活用ニーズを掘り起こす新たなライフスタイル等の情報を発信するほか、必要な手続き等をガイダンスします。
4. 今度は「Ⅱ 空き家流通のビジネス化支援」のなかの「空き家等に係る媒介報酬規制の見直し」です。
例えば、売買取引に係る報酬額は、宅建業法において、宅建業者が媒介・代理の依頼者の一方から受けることができる報酬額は、物件価格に応じて一定の料率を乗じて得た金額を合計した金額以内と上限が設定されています。
これが原則ですが、低廉な空き家等の媒介の特例が認められ、低廉な空き家等(物件価格が800万円以下の宅地建物)については、当該媒介に要する費用を勘案して、原則による上限を超えて報酬を受領できる(30万円の1.1倍が上限)となりました。なお、媒介契約の締結に際し、あらかじめ、その低廉な空き家等の媒介の特例による上限の範囲内で依頼者に対し説明し、合意する必要があります。
5. 次に、「Ⅱ 空き家流通のビジネス化支援」のなかの「空き家管理受託のガイドラインの策定・普及」です。
空き家戸数の増加や空き家所有者の責任強化等を受け、管理サービスへの需要が拡大する可能性が高くなりますが、これまで、空き家の管理は、様々な主体がサービスを提供しておりますが、業務適正化を図る制度はありませんでした。
空き家の発生から利活用まで一体的なサービスが可能な不動産業は、所有者の高い信頼を得る必要があり、不動産業を主な対象に、空き家管理を受託する際の標準的なルールをガイドラインにまとめ、普及を図るというものです。
さらに、「Ⅱ 空き家流通のビジネス化支援」のなかの「媒介業務に含まれないコンサルティング業務の促進」です。
空き家等のかかる不動産コンサルティングサービスの認知度向上を図ります。そのサービスとは「空き家等の活用等に係る課題整理、相続に係る相談、空き家等の活用方針の提案・比較などについて、媒介に先立ち、又は媒介とは別に、所有者等に対して行われる助言・総合調整等」をいいます。
そのコンサルティング業務は、媒介業務とは別業務であり、その報酬は、媒介報酬規制の適用がないことを「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(通達)で明確化します。
6. 最後の「Ⅱ 空き家流通のビジネス化支援」は「不動産DXにより業務を効率化し、担い手を確保」です。
空き家対策の担い手となるべき不動産業者の維持・確保のため、業務の効率化、オンライン取引等のDX化、遠隔からのテレワーク等を活用し、不動産流通業務の生産性を向上しようというものです。
以上が「不動産業による空き家対策推進プログラム」の概要です。
7. ところで、「空き家対策推進プログラム」とは別に、賃料不払事案は注意が必要です。
例えば、賃借人が2か月ほど賃料を不払いしたまま、行方不明になってしまった、という場合があります。この場合、賃貸人(所有者)が、賃借人が行方不明なので、賃借人に無断で、鍵を付け替えたり、部屋内に立ち入って荷物を搬出したいなどと希望することがあります。しかしながら、賃貸人の自力救済は、法が原則として禁止していることであり、認められません。
賃貸人は、法律の定める適正な手続をふみ、仮処分や訴えの提起をして、法の定める強制執行を依頼する必要があります。相手方が行方不明でも公示送達その他の法の定める適正手続があります。解除通知も必要です。そのような適正手続きをふまずに、鍵の付け替え、賃借人への無断立入りによる荷物の搬出等を賃貸人(所有者)が実力行使をしてしまうと、所有者・賃貸人は、民事上の損害賠償責任を負ったり、刑事上も住居侵入・器物損壊、窃盗等で刑事責任を負うリスクが発生しますので、法の適正手続きによることが重要です。