「違約金」とは何か
相談事例
不動産の売買契約において、「違約金」に関する条項を定めることがあります(例えば、「売主または買主は、その相手方が本契約に定める債務の履行を怠った場合には、債務の履行を催告したうえで本契約を解除し、売買代金の〇〇%に相当する違約金を請求することができる。」など)。
この違約金は、どのような性質のものでしょうか。また、違約金を支払わざるを得なくなった場合に、違約金の額が実際に発生した損害額に比べて過大であるなどとして、減額を求めることはできるのでしょうか。
解説
1. 損害賠償額の予定
民法420条3項は、「違約金は、賠償額の予定と推定する」と定めており、違約金は損害賠償額の予定(債務不履行の場合に、債務者が債権者に対して損害賠償として支払うことを約束する金銭)と推定されます。
なぜ、損害賠償額の予定を違約金としてあらかじめ定めておくのでしょうか。
本来、債権者が、債務者の債務不履行によって損害を受けたときに、債務者に対して損害賠償を請求するには、損害が発生したことや損害額を証明しなければなりません。しかし、これらを的確に証明することができる証拠が見当たらず、証明が難しいことが少なくありません。
そこで、損害の有無や損害額を問題にせずに、債務者に予定の賠償額を支払わせることにして、先述のような証明の難しさや煩雑さを避け、簡易迅速な損害賠償請求ができるようにするために、損害賠償額の予定を定めておくのです。
このような損害賠償額の予定の趣旨からすれば、債務不履行があったときに、債権者には損害が発生していないことや、実際の損害は予定賠償額よりも少ないことなどを債務者側で立証して、予定賠償額の支払いを免れたり、減額を求めたりすることは、原則としてできません。
2. 予定賠償額の減額を認める裁判例
しかし、裁判例においては、例外的に、例えば不当に高額な金額が予定賠償額として定められ、公序良俗に反するといえるような場合には、賠償額の予定の全部または一部を無効として、減額を認めるものがあります。予定賠償額がどの程度になると公序良俗に反することになるのか等については、一般的な基準はなく、裁判所が個々の事情に基づいて判断します。
3. 特別法による予定賠償額の規制
また、民法以外の法律のなかには、予定賠償額の規制をしているものがあります。今回は、宅地建物取引業法38条と消費者契約法9条1号の規制を紹介します。
① 宅地建物取引業法
宅地建物取引業法38条(後記条文参照)によれば、不動産業者(宅地建物取引業者)みずからが売主となる宅地建物の売買契約において、債務不履行を理由とする契約解除に伴う損害賠償の予定等の額が売買代金額の20%を超える定めをしたときは、その超過部分の定めは無効になります。無効になった場合には、20%を超える金額を支払う義務はありません。
なお、この条文は、取引の知識や経験が乏しい一般の買主を保護するための規定ですので、不動産業者(宅地建物取引業者)が買主である場合には、適用されません。
【宅地建物取引業法の条文】
(損害賠償額の予定等の制限)
第38条
宅地建物取引業者がみずから売主となる宅地又は建物の売買契約において、当事者の債務の不履行を理由とする契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定めるときは、これらを合算した額が代金の額の10分の2をこえることとなる定めをしてはならない。
2 前項の規定に反する特約は、代金の額の10分の2をこえる部分について、無効とする。
② 消費者契約法
消費者契約法9条1号(後記条文参照)によれば、事業者と消費者との間で締結された契約において、契約の解除に伴う損害賠償の額の予定等を定める条項があり、その予定等の額が契約の解除に伴い事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるときには、その超過部分の定めは無効になります。無効になった場合には、超過部分の金額を支払う義務はありません。
ここにいう「平均的な損害の額」とは、同一事業者が締結する多数の同種契約事案について類型的に考察した場合に算定される平均的な損害の額とされており、具体的な額については、その事業者に固有の事情に基づいて、個別具体的に算定されます。
【消費者契約法の条文】
(消費者が支払う損害賠償の額を予定する条項等の無効)
第9条 次の各号に掲げる消費者契約の条項は、当該各号に定める部分について、無効とする。
一 当該消費者契約の解除に伴う損害賠償の額を予定し、又は違約金を定める条項であって、これらを合算した額が、当該条項において設定された解除の事由、時期等の区分に応じ、当該消費者契約と同種の消費者契約の解除に伴い当該事業者に生ずべき平均的な損害の額を超えるもの当該超える部分
二 (省略)