不動産売買において気をつけること~不動産取引時の書面が電子書面で提供できるようになりました
不動産売買に際し、留意しなければならない事項として、今回は、不動産取引時の書面が電子書面で提供できるようになったことなどをとりあげます。
令和3年5月19日に公布された「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」において、「押印を求める行政手続・民間手続」について、その押印を不要とするとともに、「民間手続における書面交付等」について「電磁的方法により行う」ことなどを可能とする見直しが行われました。
宅地建物取引業法関係では、宅地建物取引士の「押印廃止」や、媒介契約締結時書面、重要事項説明書、契約締結時書面などの書面の「電磁的方法による提供」を可能とする改正規定が令和4年5月18日から施行されています。
媒介契約締結時書面は宅建業法34条の2に基づき交付される書面、重要事項説明書は宅建業法35条に基づき交付される書面、契約締結時書面は宅建業法37条に基づき交付される書面です。
1 「電磁的方法による提供」とは?
紙に代えて、電子的に作成した書面(電子書面)を電子メールやWebからのダウンロード形式等を活用して電磁的方法により提供することを指します。
電子書面を提供する方法としては、次の方法があります。
(1) 電子書面を電子メール等により提供
(2) 電子書面をWebページからのダウンロード形式により提供
(3) 電子書面を記録したCD-ROМやUSBメモリ等の交付
2 「電磁的方法による提供」を行うために必要なこと
(1) 「電磁的方法による提供」を行うためには、「電磁的方法による提供」を受けることについて説明を受ける相手方等へ「意向確認」を行い、「承諾」を得る必要があります。
説明を受ける相手方等への「意向確認」に先立って、宅建業者は、①電子書面を提供する方法や②電子書面のファイルへの記録の方式(ExcelやPDF等のソフトウェアの形式やバージョン等)を示す必要があります。また、宅建業者が提供するソフトウェア等に説明の相手方が対応可能かなど、IT環境を聞き取る必要もあります。
(2) 提供する電子書面は以下の要件をみたす必要があります。
(ⅰ) 説明の相手方が出力することにより書面(紙)を作成できるものであること
(ⅱ) 電子書面が改変されていないかどうかを確認することができる措置を講じていること
なお、電子書面が改変されていないかどうかを確認することができるという要件を満たす措置としては、電子署名やタイムスタンプが想定されます。
(3) 「電磁的方法による提供」に係る「意向確認」を行う際には、説明の相手方に対し、「承諾」後でも書面の「電磁的方法による提供」を「拒否」する旨を申出ることが可能であること、ただし、その際は書面又は電子メール等で申出る必要があること、を伝えるべきだと考えられています。
(4) 説明を受ける相手方等の「承諾」は、次のいずれかの方法により取得する必要があります。
① 承諾する旨を記載した書面(紙)を受領
② 承諾する旨を電子メール等で受信
③ Webページ上で、電子書面を提供する方法及び電子書面のファイルへの記録の方式を示し、Webページ上で承諾する旨を取得
④ 承諾する旨を記録したCD-ROМやUSBメモリ等の受領
なお、上記の②から④により電子メール等で承諾を得る場合には、承諾の有無をめぐる事後のトラブルを防止する観点から、承諾する旨を記録した電子書面を書面(紙)に出力可能なファイル形式で取得する必要があります。
3 「電磁的方法による提供」の実施に当たり、「承諾」は、誰から得る必要があるか。
→ 電磁的方法による提供を行う対象の書面によって「承諾」を得るべき対象は異なります。
34条の2書面(媒介契約締結時書面)については、媒介の依頼者に対して「承諾」を得る必要があります。
35条書面(重要事項説明書)については、宅地又は建物を取得又は借りようとしている者(売買であれば買主、賃貸であれば借主、交換であれば取得する各当事者)から「承諾」を得る必要があります。
37条書面(契約締結時書面)については、次の区分に応じて、「承諾」を得る必要があります。
(1)自ら当事者として契約を締結した場合には、当該契約の相手方
(2)当事者を代理して契約を締結した場合には、当該契約の相手方及び代理を依頼した者
(3)自らの媒介により契約が成立した場合には、当該契約の各当事者
4 「電磁的方法による提供」に係る「承諾」は、34条の2書面、35条書面、37条書面それぞれ分けて行う必要があるか。
→ 分けて行うほか、電磁的方法による提供の対象となる書面の種類が「承諾」の際に明示的に特定されるのであれば、一度に承諾を得ることは可能です。
5 34条の2書面(媒介契約締結時書面)、35条書面(重要事項説明書)、37条書面(契約締結時書面)を「電磁的方法により提供」する場合、どのタイミングで提供を行うのが適切か。
→ 電磁的方法による提供を行う対象の書面によって、タイミングは異なります。
35条書面(重要事項説明書)は、重要事項説明を実施する前に説明の相手方に提供を行う必要があります。
34条の2書面(媒介契約締結時書面)、37条書面(契約締結時書面)については、契約の締結・成立後に遅滞なく提供を行う必要があります。34条の2書面、37条書面は、「契約を締結したとき」「契約が成立したとき」に遅滞なく交付すべき書面であるため、契約締結・成立の前にこれらの書面を交付(電磁的方法による提供を含む)することは、宅建業法上、認められません。
6 顧客から重要事項説明書等の電磁的方法による提供やIT重説を求められた場合には、必ず実施しなければならないか。
→ 必ず実施しなければならないということはありません。
相手方から重要事項説明書等の電磁的方法による提供やIT重説を求められた場合でも、宅建業者は、自らのIT環境や案件の特性を踏まえて、重要事項説明書等の電磁的方法による提供やIT重説の実施の可否について判断することができます。
7 「電磁的方法による提供」の中止とはなにか。
→ 「電磁的方法による提供」の実施過程で、説明の相手方の「電磁的方法による提供」に係る意向の変更により改めて「拒否」する旨の申出があった場合や、電子書面が閲覧できないトラブル等が生じ、当該トラブル等が解消しない場合には、電磁的方法による提供を中止する必要があります。
8 ITを活用した重要事項説明(IT重説)とは?
→ テレビ会議等のITを活用して行う重要事項説明を指します。
IT重説では、パソコンやテレビ、タブレット等の端末の画像を利用して、対面と同様に説明を受け、あるいは質問を行える環境が必要となります。
9 重要事項説明書を「電磁的方法により提供」する場合は?
→ 重要事項説明書を「電磁的方法により提供」し、電子書面でIT重説を実施する場合、説明の相手方の画面において、電子書面と説明中の宅建士の画像が同時に閲覧可能であることが必要となります。
なお、説明の相手方が利用する端末やソフトウェアにより、電子書面と説明中の宅建士の画像を同一画面に表示させることが困難な場合には、あらかじめ、以下のいずれかのような対応を説明の相手方へ依頼する必要があります。
・電子書面を表示させる端末と、IT重説に用いる端末の2台を用意すること。
・電子書面を出力して、書面(紙)を用意すること。
そのなかで、実施にあたり、必ず対応すべきであることを「遵守すべき事項」として記載し、契約当事者間でのトラブル防止の観点から可能な限り対応いただきたいことを「留意すべき事項」として記載しています。
なお、その令和4年4月の「マニュアル」が公表される前の「重要事項説明書等の電磁的方法による交付に係る社会実験のためのガイドライン【賃貸取引及び売買取引】」(令和3年2月 国土交通省不動産・建設経済局不動産業課)及び「ITを活用した重要事項説明 実施マニュアル」(令和3年3月 国土交通省不動産・建設経済局不動産業課)は、令和4年5月18日付けで廃止となっております。