「中間省略登記」と「新・中間省略登記」
今回は、従前行われていた不動産の「中間省略登記」と近時それと同様の目的を実現することができるとして注目されている「新・中間省略登記」をテーマとして取り上げさせていただきます。
1.従前の中間省略登記
(1)中間省略登記とは
従前行われていた中間省略登記とは、不動産について、AからBへの売買、BからCへの売買があった場合に、所有権はA→B→Cと順次移転しているにもかかわらず、中間者Bへの移転登記を省略して、AからCへ直接所有権が移転したこととする登記のことをいいます。中間省略登記は、A→B、B→Cとの移転登記をすれば、登録免許税が登記2回分必要になるところを、1回で済ますことができるとのメリットがあります。
(2)中間省略登記についての裁判所の考え方
このような中間省略登記は、所有権移転の経緯を正確に表しているものではありませんが、裁判所は、ABC三者の同意があれば、CはAに対して直接移転登記を請求できると判断しています(最高裁昭和40年9月21日判決)。
さらに、中間者Bの同意なくしてなされた中間省略登記であっても、その登記が現在の権利関係に合致する場合には、Bがその登記の抹消を求める正当な利益(Bが売買代金をCから受け取っておらず、その請求権を保全する必要があるなど)がなければ、Bは抹消を求めることができず(最高裁昭和35年4月21日判決)、また、Bに抹消を求める正当な利益がある場合であっても、B以外の者が中間省略登記の抹消を求めることはできないと判断しています(最高裁昭和44年5月2日判決)。
このように最高裁判所も一定の要件のもとに中間省略登記も有効であると判断しています。
(3)登記実務上の考え方と取り扱い
これに対して、登記事務を取り扱う法務局としては、不動産登記には、権利の取得や移転の経緯を忠実に反映させる必要があるとの考えをとっており、中間省略登記の考え方を認めてはいません。したがって、AB売買、BC売買、ABC三者の同意を理由としてAからCへの直接の移転登記の申請をしても、受け付けてもらえません。
ただし、平成17年3月以前の旧不動産登記法のもとでは、登記を申請する際に「登記原因を証する書面」(売買契約書等の原因証書)を添付することになっていましたが、必須の書面ではありませんでした。原因証書がなければ、これに代わる「申請書副本」(登記申請書の写し)という登記義務者であるAと登記権利者であるCのみが記載される書面を添付することで足りるとされていました。そこで、実際にはA→B→Cと売買がなされたとしても、登記申請の際にAとCしか出てこない申請書副本を添付すれば、登記官には中間者Bの存在が分からず、事実上中間省略登記の申請が受け付けられていたのです。
2.不動産登記法の改正
平成17年3月に新不動産登記法が施行されました。新不動産登記法のもとでは、登記申請の際、「権利変動の原因を証する情報(登記原因証明情報)」を添付することが必須とされています。「登記原因証明情報」とは、登記の原因となった法律事実や法律行為に基づき権利変動が生じたことを証明する情報のことをいいます(「書面」ではなく「情報」とされているのは、オンライン申請にも対応しうるようにとのことです。)。売買契約に基づく所有権移転登記の申請の場合には、契約の当事者、日時、対象物件のほか、売買契約の存在と当該売買契約に基づき所有権が移転したことを売主が確認した情報が該当します。
例えば、A→B→Cと売買が行われると、AB間売買によりAからBに所有権が移転した旨の情報とBC間売買によりBからCに所有権が移転した旨の情報が登記原因証明情報として添付されることとなるため、AからCへの中間省略登記の申請をしたとしても却下されることになります。法改正前は、「申請書副本」の添付で足りたことより事実上中間省略登記が数多くなされていましたが、法改正後は、現実の権利変動を証明する情報の添付が必須となりました。これにより、「権利の取得や移転の経緯を忠実に反映させるべき」との不動産登記法の原則が現実の運用上も貫かれることになり、それまでの中間省略登記は事実上も認められないこととなったのです。
3.「規制改革・民間開放推進会議」の提言
かかる新不動産登記法の施行により、ABCの三者が関与する売買の場合には、AからCへの直接移転登記は、権利変動を忠実に反映していないのではないか、との疑念が登記実務上あったようです。
しかし、ABCの三者が関与する売買であったとしても、AからCに直接所有権を移転させるためにBが関与するケースもありえます。そのように実体上もBに所有権を一時的にも移転させる趣旨でない場合には、AからCへの直接の移転登記申請も受理すべきとの意見も出されるようになりました。特に、不動産所有権を最終的に特定目的会社(SPC)に移転させる不動産証券化の場面で、AからCへの直接移転登記手続の必要性が求められていたところです。
そして、内閣の諮問機関である「規制改革・民間開放推進会議」の平成18年12月21日付の第3次答申において、同会議が法務省から「第三者のためにする売買契約の売主から当該第三者への直接の所有権の移転登記」または「買主の地位を譲渡した場合における売主から買主の地位の譲受人への直接の所有権の移転登記」という形でのAからCへの直接の移転登記申請が可能である旨を確認したので、その内容を周知すべきあるとの提言がなされました。この回答の内容は、平成19年1月12日法務省民事局から全国の法務局へ通知として伝えられています。
この第三者のためにする売買契約の手法を用いた直接の移転登記や買主の地位の譲渡の手法を用いた直接の移転登記は、ABCの三者が取引に関与することにはなりますが、AからCへの直接の移転登記を認めるものです。登録免許税も従前の中間省略登記と同様に1回分で足りることになるので、「新・中間省略登記」と呼ばれることもあります。
4.近時行われている「新・中間省略登記」
(1)第三者のためにする売買契約の手法を用いる登記
第三者のためにする契約」とは、AとBとの間で締結される、第三者であるCに直接権利を取得させることを内容とする契約です。
具体的には、
①AB間で「Bは代金完済までに所有権の移転先を指定し、AはBの指定する者に所有権を直接移転する」との特約付きで売買契約を締結し、
②この特約に従い、Bが所有権移転先としてCを指定し、
③Cが、Aに対して受益の意思表示(「所有権の移転を受ける」との意思表示)を行い、
④BがAに対して売買代金全額を支払う
ことにより、所有権がAからCへ直接移転することになります。したがって、上記①~④を登記原因証明情報に記載することによりAからCへの所有権移転登記が可能となります。
かかる手法をとる場合には、BC間で他人物の売買契約を締結して、Cが代金の支払を約束することが一般的には行われます。Bが宅地建物取引業者(宅建業者)の場合、宅建業者の他人物売買を禁止している宅地建物取引業法33条の2に違反するのではないかとの問題もありましたが、同法施行規則の改正により、第三者のためにする売買契約の手法を用いる場合には、宅建業者による他人物売買も可能であることが明記されるに至っています。
(2)買主の地位の譲渡の手法を用いる登記
「買主の地位の譲渡」とは、売買契約における買主の地位を譲渡することです。「買主の地位の譲渡契約」は、A、B、Cの三当事者による三面契約、または、BC間の地位譲渡契約とAの同意により可能となります。
具体的には、
①AB間で売買契約を締結し、
②BC間で①の売買契約の買主たる地位をBからCへ譲渡する契約を締結し、
③ ②の「買主たる地位の譲渡」についてAの同意を得て、
④CがAに代金の全額を支払う
ことにより、所有権がAからCへ直接移転することになります。したがって、上記①~④を登記原因証明情報に記載することによりAからCへの所有権移転登記が可能となります。
5.最後に
法務省の回答で確認された(1)と(2)の手法は、実体法上も所有権がAからCへ直接移転することになりますので、権利変動を忠実に反映させるという不動産登記法の趣旨に合致したものです。改正不動産登記法施行前に事実上行われていた中間省略登記とは基本的には異なるものですので、一般的に用いられている「新・中間省略登記」との呼称はあまり適切とは言えない面があります。ただし、ABCの三者が関与する売買のケースで、AからCへの直接の移転登記を可能にする手法という点では同様の意義を有していると考えられています。
(1)と(2)の手法を比較すると、(2)はAB間の契約上の地位をCが引き継ぐこととなりますので、AB間の売買代金額をCが知り得ることになります。これに対し、(1)の手法によれば、AB間売買とは別にBC間売買が締結されますので、AB間の売買代金額をCに伝える必要もなく、(1)の手法が重宝されているようです。