不動産売買のトラブルを防ぐために判例等を踏まえ弁護士が解説したアドバイスです。
鉄骨の太さに関する瑕疵(不適合)
【Q】
私は、購入した土地上に、賃貸用マンションを建築するため、建設会社Aとの間で、建物工事請負契約を締結しました。建物工事請負契約に際して、私は、大震災への備えとして、耐震性を強固にすることが重要と考え、通常より太い鉄骨(断面寸法300mm×300mm)を主柱に使用することを要望し、Aはこれを了承しました。ところが、Aは、構造計算上安全であることを理由として、私に無断で、通常の太さ(断面寸法250mm×250mm)の鉄骨を使用して施工したことが発覚しました。私は、建設会社Aに対して、請負契約上の契約不適合責任を追及することができるでしょうか。
【回答】
本件工事請負契約において、主柱に通常より太い鉄骨(断面寸法300mm×300mm)を使用することが契約の重要な内容になっていた場合には、これと異なる鉄骨を使用した工事には契約不適合(瑕疵)があると判断される可能性があります。
1 請負契約上の契約不適合責任
建設工事請負契約の締結により、建設工事を受注した施工業者は、工事請負契約で合意された内容の工事を完成させる義務を負い、これに対して、発注者は請負代金を支払う義務を負います。完成した建物が、工事請負契約の内容と異なる契約不適合(瑕疵)の状態にある場合には、施工業者は発注者に対して、契約不適合責任に基づく責任(修補義務、代金減額義務、損害賠償義務、契約解除)を負います。
施工業者が受注した工事の内容・品質は、工事請負契約に添付された設計図書、内訳書、法令等により特定されます。しかし、建設工事の現場では、現場の状況に応じて、設計変更や部材の変更、追加工事等を求められることも少なくありません。
工事を進める過程の中で、当初の契約内容を変更する必要性が生じた場合、変更内容とそれに伴う費用負担について、発注者の了解を得ることができれば問題にはなりませんが、工期の遅滞を避けるため、発注者の事前承諾を得ずに当初の契約内容を変更する工事が行われた場合、後に、契約不適合責任や追加工事費用の支払い拒否の問題に発展する可能性があります。
(1)請負工事の契約不適合(瑕疵)とは
実際の施工内容と当初の請負契約内容に不一致がある場合、どの状態の不一致が請負契約上の契約不適合(瑕疵)と判断されるのかについては、見解が分かれていました。
最高裁平成15年10月10日判決では、設問事例と同様に、発注者は、建物の耐震性を高めるために、通常より太い鉄骨(断面寸法300mm×300mm)を主柱に使用することを施工業者に求め、施工業者はこれを了承して、工事請負契約を締結しました。しかし、施工業者は、発注者に無断で、通常の太さ(断面寸法250mm×250mm)の鉄骨を使用して施工したことが発覚したため、契約と異なる鉄骨を使用した工事には瑕疵があるとして、発注者は施工業者に対して瑕疵担保責任を追及しました。
判決では、「本件請負契約は建物の耐久性を高め、耐震性の面でより安全性の高い建物にするため、南棟の主柱につき断面の寸法300m×300mの鉄骨を使用することが、特に約定され、これが契約の重要な内容となっていた」と認定し、これと異なる南棟の主柱の工事には瑕疵担保責任上の「瑕疵」が存在すると判断しました。
このように前記判決は、請負契約上の契約不適合(瑕疵)の判断に関し、全ての不一致が契約不適合と判断されるのではなく、鉄骨の太さに関する特約が、請負契約上の「重要な内容」となっていたと認定し、契約不適合(瑕疵)責任を認める判断をしています。
したがって、本件設問の事例においても、同様に契約不適合(瑕疵)と判断される可能性が高いと考えられます。
2 まとめ
近年、建物建設工事の現場において、資材の高騰や人材不足等の理由により、当初の請負契約の内容と異なる施工をしたことに伴うトラブルの相談が増えています。本件設例は、請負契約上の契約不適合責任(瑕疵)に関するものであり、売買の契約不適合責任(瑕疵)のケースにそのまま当てはめることはできませんが、建物の売買において、建物の品質に関して一定の水準を約束・保証して取引されたケースにおいて、参考になります。