「省エネ性能表示制度」「省エネ基準適合義務制度」について
不動産売買に関して留意すべきこととして、今回は「省エネ性能表示制度」「省エネ基準適合義務制度」をとりあげます。
1 「省エネ性能表示制度」とはなにか。
温暖化が進み、地球規模で危機的な状況が生じています。
省エネ対策は、私たちのため、次世代の人たちのため、課された責任です。
2050年カーボンニュートラル、2030年温室効果ガス削減の実現といった政府の目標をふまえ、エネルギー基本計画等において、2030年度以降新築される建築物について、ZEH・ZEB水準の省エネ性能の確保を目指す旨や、2030年において新築戸建て住宅の6割に太陽光発電設備が設置されることを目指す旨が位置付けられています。
建築物の省エネ性能は、耐震性能など建築物の他の性能と同様に、建築物の外観等から容易に把握できるものではないため、消費者等が省エネ性能を把握したうえで、物件を比較検討できるようにするために、省エネ性能を「見える化」し、情報提供を行う必要があります。
そこで、建築物省エネ法(建築物のエネルギー消費性能の向上等に関する法律)は、2016年の制定時より、「建築物の販売・賃貸を行う事業者に対して、その販売・賃貸しようとする建築物について、省エネ性能を表示するよう努めなければならない」と努力義務を課してきました。
そして、より一層の向上が求められるなか、法改正により、従来からの省エネ性能表示の努力義務の規定に関し、新たに、以下の措置を講じることとされました。2024年4月から新たな省エネ性能表示がはじまっています。国土交通省からガイドラインもだされています。
法改正による新たな措置は次のとおりです。
・国土交通大臣は、建築物の省エネ性能について、表示すべき事項や表示の方法その他遵守すべき事項を定め、告示する。
・国土交通大臣は、販売・賃貸事業者が、上記の告示に従って表示していないと認めるときは、告示に従って表示すべき旨を勧告することができる。
・国土交通大臣は、上記の勧告を受けた事業者がその勧告を従わなかったときは、その旨を公表することができる。
・国土交通大臣は、上記の勧告を受けた事業者が、正当な理由なくその勧告に係る措置をとらなかった場合において、建築物のエネルギー消費性能の向上を著しく害すると認めるときは、社会資本整備審議会の意見を聴いた上で、その勧告に係る措置をとるよう命令を行うことができる。
なお、以上の新設された勧告・公表・命令の措置については、制度の施行後当面は、事業者の取組状況による社会的な影響が大きい場合等に必要な措置を講じることにより表示の適正化を図ることとしています。
以上が「省エネ性能表示制度」です。いいかえると「建築物の販売・賃貸時の省エネ性能表示制度」です。
住宅やビルを販売・賃貸する事業者には、広告物に省エネ性能を示すラベルを表示する義務が課されました。
住宅等の販売・賃貸広告に「省エネ性能ラベル」が表示され、省エネ・断熱のレベルや、年間の光熱費の目安など、告示で定める省エネ性能が、ラベルで、一目でわかるようになるという趣旨です。
住宅やビルを販売・賃貸する事業者には、法人だけではなく、個人も含まれます。マンションやアパートのオーナー、サブリースを営む事業者も、義務化の対象です。
前述のとおり、以上の表示義務は努力義務ですが、表示をしない努力義務者に対して、国土交通大臣が勧告や事業名の公表などの措置がとられることがあるということです。
法律上、省エネ性能表示に努める対象の建築物は、「新築」建築物に限定せず、「既存」建築物も含まれており、表示が推奨されますが、「既存」建築物については、建築時に省エネ性能が評価されていない等の理由により、告示に従った表示を行うことが困難なものもあります。
このため、既存住宅における省エネ性能の向上に資する改修等の取組みを評価するため、改修等の部位の表示(省エネ部位ラベル)が新たに設定されました。この新しい「省エネ部位ラベル」の運用開始は2024年11月からです。
さらに、本制度の施行後「新築建築物」として販売・賃貸時の表示が行われた後、当該建築物が再度販売・賃貸される場合(たとえば、空室の発生に伴い、新たなテナントを募集する場合、買取再販を行う場合など)は、「新築建築物」の販売・賃貸に該当するため、販売・賃貸事業者は省エネ性能表示の努力義務を負うことになります。
不動産売買等において、省エネ性能は不動産価値にも影響しますから、留意が必要です。
2 「省エネ基準適合義務制度」とはなにか。
(1)建築物省エネ法の法改正前は、「中・大規模(300㎡以上)の非住宅」の新築、増改築を行う建築主に対して省エネ基準への「適合義務」を課していました。また、法改正前の基準適合義務の対象外である「中規模(300㎡以上)・大規模の住宅」の新築等を行う建築主に対しては、所管行政庁への「届出義務」を課していました。小規模(300㎡未満)の住宅には「説明義務」がありました。
しかし、建築物省エネ法改正により、2025年(令和7年)4月以降に着工する原則全ての住宅・建築物について、省エネ基準適合が義務付けられました(「適合義務」)。前述の「届出義務」や「説明義務」は2025年4月以降廃止されます。
省エネ基準の「適合義務」の審査は、建築確認手続きのなかで行います。
省エネ基準へ適合しない場合や、必要な手続き・書面の整備等を怠った場合は、確認済証や検査済証が発行されず、着工・使用開始が遅延する恐れがあります。
2025年4月以降に工事着手が見込まれる場合は、法施行前から予め省エネ基準に適合した設計にしておくことが必要です。
2025年4月より前に工事着手予定で建築確認の確認済証を受けた場合でも、実際の工事着手が2025年4月以降となった場合は、完了検査時に省エネ基準への適合確認が必要です。省エネ基準への適合確認ができない場合、検査済証が発行されませんので、注意が必要です。
なお、「省エネ基準適合義務」は、次の建築物については適用除外となります。
① 10㎡以下の新築・増改築
② 居室を有しないことまたは高い開放性を有することにより空気調和設備を設ける必要がないもの
③ 歴史的建造物、文化財等
④ 応急仮設建築物、仮設建築物、仮設興行場等
(2)省エネ基準適合義務制度は、「増改築」を行う場合にも対象となります。「増改築」は対象ですが、修繕・模様替え(リフォーム)は含まれません。
増改築の場合は、増改築を行う部分が省エネ基準に適合する必要があります。これまでの制度は、増改築部分を含めた建築物全体、と考えられていましたが、今回の制度は、建築物全体、ではなく、増改築を行う部分と変更されました。
(3)「省エネ基準への適合」を確認するためには、第3号建築物を除き、エネルギー消費性能適合判定(省エネ適判)を受ける必要があります。
省エネ適判を行うことが比較的容易な特定建築行為であるとして、省エネ適判を省略し、建築確認審査と一体的に省エネ基準への適合を確認できる場合もあります。
3 以上のように、法改正により、省エネ性能の底上げや、より高い省エネ性能等が措置されました。
2025年度の省エネ基準適合義務付けの後、2030年までに省エネ基準をZEH・ZEB水準まで引上げる予定もあります。
不動産の売買において「省エネ基準」が重要となってきます。