宅地の分譲について
平成27年1月1日からの相続税増税が大きな話題になりました。それまで相続税の対象とならなかった方も、基礎控除の縮小によって課税対象になることが多く、ある程度の資産があると無関心ではいられない問題となっています。特に、不動産が遺産の大部分を占める場合には、相続税を納税する資金をどうやって工面するかが問題となることも多くあります。
今回は、相続した不動産の処分方法が問題となった事例を取り上げます。
事例
先日、父が亡くなりまして、一人っ子である私が実家の屋敷を相続しました。屋敷だけでも100坪ほどあり敷地も広大なので、私一人ではとても維持できそうにありませんし、相続税もかなりの負担です。
そこで、広大な敷地の一部を区画割して、分譲地として売り出すことで相続税を工面するのが良いのではないかと思い、不動産業者に相談しましたが、宅建業者でなければ分譲はできず、私は一括して宅建業者などに売却するしかないと言われました。
一括して売却すれば早く解決はできますが、自分で1件1件売却した方がトータルでは大きな利益を得られると思われますので、納得がいきません。不動産業者は自分の利益のことを考えて一括で売らせようとしているのではないでしょうか。
宅建業の免許を持っていないのが問題だと言われますが、宅建業の免許を持っている宅建業者に売買の仲介をお願いすれば十分ではないでしょうか。
回答
宅地を区画割して複数の買主に売却する分譲を行うには、宅建業の免許が必要です。
たとえ相続により取得した不動産であっても、宅建業の免許がなければ、宅地の分譲を行うことはできません。
また、宅建業者に仲介を依頼するとしても、宅建業の免許を持たない方が売主として分譲することはできません。
ここがポイント
1.宅地建物取引業法(宅建業法)
自分が相続した財産を細かく区画割したり売ったりするのは、本来は自由であるはずです。しかしながら、それが宅地である場合には、全く自由とはされておらず、宅地建物取引業法(宅建業法)によるルールが定められています。
2.宅地建物取引業(宅建業)
宅建業法は、「宅地建物取引業」(宅建業)を営む者を「宅地建物取引業者」(宅建業者)と呼び、宅建業を営むためには免許を必要としています。
宅建業に当たる行為としていくつかの種類が定められていますが、宅地の売買を「業として」行う場合には、宅建業に当たるとされています。
3.「業として」
宅地の売買を「業として」行う場合は宅建業に当たるのですが、ここで、「業として」とは、反復継続する意思をもって行うことをいいます。かみ砕いて言いますと、何度も行おうと思って行うこと、というような意味ですが、「本格的に不動産業を開業して生計を立てよう」などと思っていなくても「業として」という要件に当たってしまうことに注意が必要です。
また、1回の販売行為しか行わなくても、同時に複数の方に売却したり、あるいは順に売却していくつもりで1回目の売却を行えば、反復継続する意思をもって行ったとして「業として」に当たることになります。
したがって、宅地を区画割して複数の買主に売却する分譲は「業として」に当たり、宅建業に当たることになります。
4.宅建業の免許が必要
このように、宅地を区画割して複数の買主に売却する分譲を行うことは宅建業に当たりますので、これを行うためには、宅建業の免許が必要となります。
なお、厳密には、宅建業の免許が必要なのは、宅建業を「営む」(いとなむ)行為とされており、「営む」という以上、「営利の目的」が必要とされています。一般的な語感としては、利益を上げる目的、稼ぐ目的、といったように感じられますが、例えば相続税などの債務を支払うための工面をするというような目的も広く含まれるものとされています。
したがって、相続税を納税するための分譲であっても、宅建業を「営む」ものとして、免許が必要とされるのです。
5.宅建業者に仲介を依頼すれば良い、というわけではない
宅建業の免許を持っている宅建業者に仲介を依頼すれば、宅建業者が適正に業務を行うのだから、売主が免許を持っていなくても全く問題ないのではないか、というようにも思われるかもしれません。
しかしながら、宅建業法のルールはそのようになっておらず、宅建業者に仲介を依頼するとしても、売主自身が宅建業の免許を持っている必要があります。実際に、宅建業者が仲介として関与した事案でも違法だとされた裁判例が複数あります。
6.無免許営業についての罰則
宅建業の免許を持たずに宅建業を営んだ場合、3年以下の懲役、もしくは、300万円以下の罰金、または、その両方が科されます。このように重い刑罰が定められていることに注意が必要です。
7.裁判例
過去には、あるお寺の住職が、伽藍を建立する資金とするために、お寺が所有する山林を造成して分譲住宅地として販売した事案について、宅建業を無免許で営んだとして起訴され罰金刑が科された裁判例があります(最判S49.12.16)。この事案は、60数区画に分けて分譲したということで、かなり大規模な分譲が問題となりましたが、小規模であれば問題とならないというわけではありません。また、伽藍建立の目的という、特に不当とも思われない動機によるとしても、起訴されて刑事罰が科されています。
広大な敷地を相続すると、その処分に悩むこともあるかと思いますが、売却するのであれば、宅建業の免許をもつ宅建業者などに一括で売却するのが原則的な対応といわざるを得ないものと考えます。