他人の私道への水道管・ガス管などの設置
不動産の売買に当たっては、物件の状態や契約条件などについて売主と買主の間で十分に話合いを行った上で契約する必要があります。しかしながら、売主と買主が売買について合意しても、近隣との関係で難しい問題が生じる場合もあります。
今回は、売買の対象となる土地について、他人の私道に水道管やガス管を通さなければならない場合についてお話しします。
事例
私の土地は、周囲を他人の土地で囲まれており、公道に出るために隣家所有の私道を通行しなければなりません。長年放置してきたこの土地について、購入の希望がありましたので、水道管やガス管をきちんと設置した上で売買契約を締結したいと考えています。
隣家の私道の下に水道管やガス管を設置しようとしたところ、地方自治体とガス会社から、設置するためには私道の所有者の承諾が条件となると言われました。そこで、私道を所有する隣家に承諾をお願いしたのですが、工事期間中に通行しにくくなることが困るなど色々な理由をつけて、承諾してくれません。
購入を希望している方は、水道管やガス管を設置した上でなければ買わないと言っていますが、私道を所有する隣家は承諾してくれず、大変困っています。どうすれば良いでしょうか。
ここがポイント
1.水道管・ガス管等の設置と私道所有者の承諾
現代において、水道やガス、電気などは、快適な生活に必要不可欠なインフラです。そのため、このような不可欠なサービスを確実に提供させるため、地方自治体やガス会社、電力会社などの供給事業者は、供給契約の申込みがされれば、法律によって、正当な理由がない限りこれらサービスの供給を拒否してはならないものとされています。
しかしながら、供給事業者の規定などにおいて、水道管やガス管等(これを「導管」といいます。)を他人所有の私道に設置する場合には、紛争を予防するため、事前にその私道の所有者の承諾を得ておくことが必要とされている場合がほとんどです。
その結果、水道管やガス管等の導管を通そうとする私道の所有者が承諾してくれなければ、その設置工事を行えないことになってしまう、という問題があります。
2.法律の定め
このような、承諾がなければ他人所有の私道に導管を設置できない、という問題について、一部については、法律の定めが用意されています。
すなわち、排水については、下水道法において、他人の土地または排水設備を使用しなければ下水を公共下水道に流入させることが困難なときは、他人の土地または排水設備を使用できることが定められています。
また、民法には、高地の所有者が排水のために低地に水を通過させることができる場合などの定めがあります。
しかしながら、水道管やガス管を他人所有の私道に設置することについては、法律の明文の定めは用意されていません。
3.裁判例
このように、生活のために必要不可欠な水道管やガス管などの導管が、私道所有者の承諾が得られないために設置できない、という問題について、法律の定めがないため、承諾などを求めて裁判になった事例が多数あります。この問題について裁判例は、様々な法理論を工夫して対応しており、一定の場合に導管の設置を認めています。
1つの参考になるのが、2014年11月号「私道をめぐるトラブル~売買前の調査が重要!」においてご紹介した「袋地通行権」の制度です。「袋地通行権」とは、他人の所有地に囲まれている土地(「袋地」といいます。)の所有者が、公道に出入りするために周辺の土地を最小限度の範囲で通行できる権利をいいます。
他人の私道を通さなければ水道管やガス管などの導管を通せない、という場合も、袋地に似た状態であるため、同様に、最小限度の範囲で他人所有の私道への導管設置を認めるべきである、という考え方があります。
このような考え方によると、①他人の私道に導管を設置しなければ水道やガスなどを導入できない土地である場合(袋地に類する状態である場合)に、 ② 導管設置の位置・方法が、必要かつ合理的で、導管を設置しようとする私道のために損害が最も少ないものであれば、導管の設置を認めるべきであると考えられます。この場合、「袋地通行権」について触れたのと同様、私道の所有者の受ける損害に対しては「償金」を支払う必要があると考えられます。
なお、他人所有の私道について通行権が発生している場合に、その通行権の内容として導管の設置を認める裁判例などもあります。
4.対応策
現実問題としては、近隣の問題であり、話合いで円満に解決できるのが一番ではあります。
しかしながら、私道の所有者がなかなか承諾してくれなければ、いつまでも問題は解決できず、売買のチャンスも逃してしまうことになりかねません。そのような場合には、裁判の手続により解決することも視野に入れる必要が出てきます。
裁判を行う場合には、私道の所有者に対して何を請求するか(導管設置工事を妨害してはいけないという妨害排除請求をするのか、導管設置工事への承諾を請求するのか、導管設置権の確認を請求するのか、これらを組み合わせるのか)、請求のための要件をどのような証拠で立証するのか等、事案に応じた検討が必要になります。
私道所有者との話合いがスムーズに進まない場合には、話合いにおける交渉方法や、その後の裁判の見通しなども含めて、早目に弁護士に相談されることをお勧めします。