土地工作物責任とは何か
【相談事例】
私は、ある一戸建ての中古住宅を購入して住むことを検討しているところ、この物件は、築年数が古いうえ、現在の所有者による管理が良好とは言えないこともあって、屋根や外壁などにそれなりの損傷があります。仮に、このような物件を購入したあとで、屋根や外壁などが崩れて通行人が怪我をした場合などに、土地工作物責任を追及されることがあると聞きました。土地工作物責任とは、どのような責任ですか。
【解 説】
1 土地工作物責任とは
土地工作物責任は、民法717条に定められている責任であり、土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害が生じたときは、その工作物の占有者又は所有者が、被害者に対してその損害を賠償する責任を負うというものです。
今回は、この土地工作物責任についてご説明いたします。民法717条の条文は、以下のとおりです。
【民法717条】
1 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。
2 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。
3 前2項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。
2 「土地の工作物」とは
「土地の工作物」とは、「土地に接着して人工的作業を加えることによって成立する物」などとされています。
具体的な例としては、道路、橋、プール、ため池・貯水池、トンネル、建物、擁壁・石垣・塀、電柱などが挙げられます。
3 設置又は保存の瑕疵とは
設置又は保存の瑕疵とは、工作物が、「その種類に応じて、通常予想される危険に対し、通常備えているべき安全性を欠いていること」などとされています。したがって、異常な自然力により生じる危険や、物の通常の用途や使用方法から外れた異常な利用方法から生じる危険に対する安全性までは備える必要はないと言われています。
設置又は保存の瑕疵の例として、例えば、判例上では、遊動円木支柱の腐朽、高圧架空送電線のゴム被覆の破損、踏切道の保安設備の欠如などが瑕疵として認められています。
4 瑕疵と損害との間の因果関係
土地工作物責任が認められるためには、被害者の損害が、土地工作物の設置又は保存の瑕疵によって生じたという関係があること、つまり瑕疵と損害との間に因果関係があることが必要です。
これに関連して問題になるのは、例えば、塀が地震をきっかけとして倒れてしまった場合など、地震や台風等の自然力が介在した場合をどのように考えるべきかという点です。
この点については、通常の自然現象については、被害が生じないように備えておくべきであり、単に自然力と競合しただけでは責任を免れることはできないものの、通常の想定を超える異常な自然力によって、たとえ瑕疵がなかったとしても同じ被害が発生したといえるような場合には免責を認めるべきではないか、などといった議論があります。
5 損害賠償責任を負うのは誰か
(1) 占有者が一次的な責任を負うこと
このような土地工作物の設置又は保存の瑕疵による損害について、一次的に損害賠償責任を負うのは、「占有者」です。
「占有者」とは、土地工作物を事実上支配する者などとされます。例えば、建物を賃借して居住している賃借人などがこれに該当します。
(2) 占有者が免責された場合には所有者が無過失責任を負うこと
このように占有者は一次的に責任を負うものの、損害の発生を防止するのに必要な注意をしたことを証明すれば、責任を免れることができます。
こうして占有者が免責された場合、今度は所有者が損害賠償責任を負うことになります。その意味で所有者の責任は二次的な責任と言えます。
この所有者の責任は、無過失責任とされており、占有者の場合と同様の方法による免責は認められないことに注意する必要があります。無過失責任なので、例えば、瑕疵が、前の所有者が所有しているときに発生したものであっても、現在の所有者は責任を免れません。
(3) 占有者又は所有者による求償
被害者に損害賠償をした占有者又は所有者は、損害の原因について他に責任を負う者がいる場合には、その者に対して求償すること(被害者に支払った金額を請求すること)ができます(民法717条3項)。
6 最後に
以上のように、建物等(土地工作物)の所有者又は占有者は、建物等に設置又は保存の瑕疵がある場合、土地工作物責任を問われる可能性があります。したがって、日頃から建物等の点検・管理を適切に行い、建物等に危険性がある状態を放置しないことが重要になります。
以 上